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「…なんかゴメンなー」
「いいえ…元はと言えばお兄ちゃんが強引に誘ったんですし…」
文化祭から一週間後の週末。
家に先生がいるという不思議な状況になっていた。
なんだかとても気まずい…悪さをしたわけでもないのに。
なんでも先生は壊滅的に料理が出来ないらしい。
その事情を知っていた兄がうちのご飯に誘ったのだ。
私の作る料理は絶品だからとか見事なシスコンっぷりを披露し、兄が友人とはいえ生徒の家に上がる訳にはと断った先生を半ば無理矢理連れてきてしまった。
その当人は仕事場から電話がかかってきてしまい、席を外している。
「腕前は普通ですよ?お兄ちゃんのはだいぶ身びいきです」
「そうなの?」
「そうですよー?家事だって必要に迫られてって感じでしたしね」
「ああ…そっか、…大変だったね」
「…大変だったのはお兄ちゃんです…私は、何も。いつだって守ってもらってばかりで…ってすみません、こんな話っ」
「いいよ。大丈夫。でも、佐藤さんもがんばったでしょ。何もってことはないよ」
優しい声と言葉にパッと先生の顔を見る。
「空貴も、大変だったのは確かだろうけど、ひとりじゃないって思えることで踏ん張れたと思うよ。佐藤さんが支えだったと思うよ」
「…先生」
「ん?」
「いえ…ありがとうございます」
「ん?どういたしまして?」
とても優しい瞳が私を見ていた。
吸い込まれるように見つめてしまい、慌てて目をそらす。
なんだか、ドキドキして落ち着かない。
振り切るように、話題を変えた。
「先生、リクエストありますか?せっかくなので作りますよ?」
「うーん…じゃあ唐揚げ」
「唐揚げ」
「やっぱさ、お店で買うのと違うじゃん?手料理って久しぶりだから楽しみ」
「…彼女とかは?」
「うーん…就職してからはいないなぁ。忙しくてねー」
「そうなんですか…?」
「由姫はダメだぞ」
突然後ろから声がかかる。
「お兄ちゃん!!」
「空貴…さすがに生徒は対象外だよ」
「いやまあ、念の為なー」
念の為って…自分で家まで連れてきておいて失礼すぎる。
だいいち先生は大人なのに。
例え生徒じゃなくたって対象外に決まってる。
※※※※※※※※※※※※※※※※
その日から、ちょくちょく先生が家に来るようになった。
毎回強引に連れて来られ、かなり遠慮していた先生もとうとう開き直ってしまったようだった。
「先生お茶どうぞ」
「あーありがとう」
「…お前馴染みすぎだろ…」
「何言ってるの、そもそもお兄ちゃんが強引に連れてきてたんじゃん」
「いやここまで馴染むとは思わなかった」
「確かに悪いなぁとは思うんだけど…なんか居心地良くて。そうだ家庭教師でもしようか?」
「それいいな!由姫見てもらえよ!大、なんでも出来るぞー」
「えぇ…?でも先生って忙しいんでしょ…?」
「大丈夫だよ。わかんないとこあったら聞いて」
せっかくだから、と2人に丸め込まれ、先生が来た日はちょっとした勉強会になり。
それを聞きつけた奈々が乱入し、そして差し入れの名目で乃々ちゃんがやってくる、そんな賑やかな日々になっていった。