その先 3
車で2時間、海沿いの水族館に着いた。
土曜日とあってかそこそこ混んでいるようだった。
手を繋ぎゆっくりと館内を回る。
「水族館なんて久しぶりだなぁ」
「私もです」
「高校の時以来かな…?空貴と乃々と行ったんだよね」
「え?3人で?」
「そう、何故か。由姫ちゃんは?」
「小学生の時遠足で」
「じゃあずいぶん久しぶりだね」
次々と水槽を眺めながら他愛のない話をしていく。
横を見ると楽しそうに笑う由姫ちゃんがいる。
年甲斐もなく心が浮き立つ。
ふと視線を下に向けると真っ白な胸元が目に入った。
目をそらさなければ、と思うのに固定されてしまったかのように釘付けになる。
もう半年だ、考えない訳が無い。
ただタイミングと、なにより由姫ちゃんにまだその意識がないように思えた。
よくもここまで耐えてるものだとは思う…が、いつもより多い肌の露出が目に毒だ。
「…先生?」
「わっ!なっなに?」
「いえ…ぼーとしてるように見えたから…運転で疲れちゃいました?」
「や、全然、大丈夫」
「そうですか?」
もう一度大丈夫と答えて歩き出す。
理性理性と頭で唱え、必死に煩悩を振り払った。
イルカのショーを見て、ペンギンの水槽で長々と足が止まって。
レストランでメニューに悩み、ショップでもあれこれ悩みながらお土産を買って。
久々にふたりきりを満喫する。
「展望台があるって」
「行きたいです!」
「綺麗に晴れてるし日の入りが見れるかな」
「楽しみ」
水族館を出て、海を一望出来る展望台へ向かった。
ゆっくりと歩いてきたからか着く頃にはちょうど良く日の入りも間近となっていた。
テラスへ出て空いている場所を探し、程よい場所を見つける。
寒くない?と聞くとちょっと寒いかも、と返され、腕で囲うように後ろから抱きしめた。
「きゃあ!?」
「寒いんでしょ?」
「そそそうですけどっでもっ人いっぱいいるしっ」
「カップルばっかなんだからこっちのことなんか見ないよ。どうせもうすぐ暗くなるし」
「えぇぇ!?」
「ほら、もう水平線に入り始めたよ」
「えっ?わあっ!綺麗…!」
ぽつぽつと話しながら見ているとあっという間に太陽は水平線へと消えていく。
帰りの時間と夜ご飯とを考えれば、そろそろ出なければならない時間だ。
「…そろそろ出ようか」
「あっ…はい…」
もう少し、もう少しだけ一緒にいたい。
いや、本当はずっと離したくない。
その気持ちを無理やり押し込め歩き出した。
途中で夕飯を食べ、車の中で今日のことを話しているうちにだんだんと由姫ちゃんの元気がなくなっていく。
「どうしたの?疲れちゃった?もうすぐ着くけど、寝ててもいいよ」
「いえ…あのっ」
「ん?」
「あっあとどれくらいで着きますか?」
「あと20分くらいかなぁ?意外と早く着きそうだね」
「…先生」
「なにー?」
「…私、まだ帰りたくないです…」
言われた言葉に耳を疑う。
帰りたくないって言った…!?
聞き間違いなのか空耳なのか、それとも現実なのか。
とりあえず近くにあったレンタル店の駐車場へと車を止める。
「…えぇと…今…?」
「まだ帰りたくない…」
「由姫ちゃん…」
「もっと一緒にいたい…」
自分の息を呑む音がやけに大きく耳に聞こえた。