その先
「えっ?」
「だから!その…まだ…何も…」
「まだやってないのっ!?」
「奈々っ!!」
先生と付き合い初めて半年。
長引く残暑も終わり、やっと涼しくなってきた頃。
奈々と買い物に行き、ひと息つこうとコーヒーショップへ入り、お互いの彼氏の話になった時だった。
そういえば先生ってどうなの、上手なの?とわくわくと奈々に聞かれ、初めはなんのことを言っているのかまったく分からなかった。
「嘘でしょ!?」
「…嘘じゃない…」
「えぇっ!?だってもう半年でしょ!?とっくにエッもごっ」
「おっきい声で言わない!!」
咄嗟に奈々の口を塞ぎ、睨む。
部屋ならまだしもここは人が行き交う公共の場だ。
あっと気付いたのか、目でごめんと謝られた。
「家にだって行ってるんでしょ?そーゆー雰囲気にならないの?」
「私が家に行く時ってうちにも来れないくらい忙しい時だけだから…ずっと仕事してるし…」
「あぁ…そっか。デートとかでは?」
「うーん…まだ外はあんまり行かないから」
いくら卒業し、先生と生徒ではなくなったといっても職業上おおっぴらに卒業したての元教え子と付き合ってます、とはなかなか言えない。
外出はなるべく控え、もっぱら兄付きのお家デートだ。
「でも半年だよ?」
「…うん…それは私も何も思わないわけではないんだけど…」
「けど?」
「なかなかタイミングが…」
「ふぅん…そのタイミングを由姫が見逃してる可能性は?」
「うっ…わからない…」
「なんだかんだでせんせーも真面目だからなぁ」
「うん?」
「由姫が成人するまでは、とか思ってたりして」
「えぇ…?」
それはない、とは言えない気がする。
むしろ、ありそう。
キス以上に関係が進まない…このことに最近不安がある。
付き合い初めにそれっぽいことを何度か言われた気がしたけれど、現実は何もない。
私は困ったことに、よくわからない熱を持て余していた。
それは先生と一緒にいる時に顕著に現れる。
先生にさわりたい。
先生にふれてほしい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
奈々とそんな話をした週末。
いつものように先生がうちに来た。
今日は少し余裕があるのか、夕方というには少し早い時間で私もまだ夕食の準備に取り掛かる前だった。
「来週の土曜日か日曜日ひさしぶりにどっか行こうか」
「仕事は?」
「2年生が修学旅行でいないからさ、授業の空きが結構あるんだよね。その合間で片付けられそうだから」
「どっちも空いてるんですか…?」
「ん?なんなら2日間ともいいよ?どっか行きたいとこある?」
その言葉にドキッとする。
それって深い意味は含まれているんだろうか。
…例えば泊まりとか。
「由姫ちゃん?都合悪い?」
「あっ!全然っ!土曜日は大丈夫です!日曜日は午後からバイトが入ってますけどっ」
「そう?じゃあ土曜日がいいかな。考えといて?」
「はっはいっ」
やっぱり深い意味はなかったみたい…?
どうしたら良かったんだろう?
私じゃ子供すぎてそんな気にならないのかな?
それとも奈々が言うように成人まで我慢するつもりなのかな?
私と同じようには思ってないのかな…。
なんだかひとりで空回りしているようで、少しだけ悲しかった。