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「…あ、そうだ。渡したいもの、あったんだ」
「渡したいもの?」
あともう少しで家に着く、というところで先生が言った。
まだ時間あるね、とマンションの駐車スペースに車を停める。
「はい、誕生日プレゼントとバレンタインのお返し」
「えっ!?」
後部座席から出てきたのは2つの紙袋だった。
誕生日はともかくバレンタインのお返し…って!
「ラッピングにでっかく遠野先生へって書いてあったのでしょ?…違った?」
「なんで分かって…!」
「んーと…。字がそうだったから…」
「字!?」
「由姫ちゃんの字なら分かるよ…ってもしかしてこれ気持ち悪い…?」
「や!気持ち悪くはないですけどっ!」
まさかの展開にただただ驚くばかりで。
先生に字を把握されているとは思いもよらなかった。
「…本当はさ、プレゼント、合格報告の時に渡そうと思ってたんだ。でも咄嗟に別のこと口走っちゃって…」
俺もダメだねーと笑う先生。
だからあの時、合格祝いとか言ったんだ…。
「バレンタインも、すぐ由姫ちゃんの気付いて…今さらでごめんね」
「いえ…開けてもいいですか?」
「どうぞー」
誕生日はこっち、お返しはこれね、と言われドキドキしながら紙袋を開ける。
「可愛い…」
誕生日はブレスレット、お返しは小さいジュエリーボックスだった。
「…私のチョコと釣り合いとれてないですよ…?」
「そう?でも手作りだったでしょ?」
「そうですけど…」
「あと口説くつもりで選んだから…」
「はっ!?」
「いやまあもし実際渡すとなったら口説こうかな、みたいな…?出来なかったけど」
「えぇぇ!?」
「そんなに驚く?」
そんなにもなにも次々明かされることにビックリすることしかできない。
「驚きしかないです…。あのぅ、ありがとうございます。」
「いいえー。ブレスレット、付けてみて?」
「あっはいっ!」
どっちに付けよう、こういう大人っぽいのはしたことないな、と迷っていると、すっと先生の手が伸びてきた。
「やりにくいかな?付けてあげるよ」
先生の大きい手が器用に細いチェーンを操り私の手首に付けてくれた。
触れる手を意識してしまい、体が固くなる。
「由姫ちゃん?」
「あっなんでもないですっ!ありがとうございます」
きっと真っ赤になってるんだろうな。
恥ずかしくて俯いてしまう。
「そんなふうにされちゃうと我慢できなくなるんだけど」
「…我慢…?」
「そう。男はみんな狼なんですよ」
言われた言葉に首を傾げていると先生の手が頬に触れる。
その手が耳のあたりに滑っていき、ゾクッと体が震えた。
「…好きだよ」
言葉と共に先生の顔が近づく。
咄嗟に目を閉じると、先生の唇が触れる。
そのまま先生にされるままに何度もキスをする。
「んっ」
私の妙に色っぽい声とともに唇が離れたときには何も考えられなくなっていて。
ぐったりと先生に抱きしめられていた。
「…もう時間だね」
「…はい…」
「ごめん、ちょっと調子に乗りました」
「頭が沸騰しそうです…」
「このくらいで沸騰してたらこの先どうするの」
「へっ!?」
ばっと顔を上げると先生が苦笑いしていた。
「ま、おいおいね」
「なっ何がですかっ!?」
「んー?あ、ほら時間過ぎちゃう。最初から門限破ったら何言われるか」
「…なんかそのうち破る気まんまんですね…?」
「そりゃあねぇ」
この先って…!とぐるぐると考える私をくすくすと笑いながら先生に手を引かれて行くのだった。