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とりあえず選択肢が増えるから、という理由で隣の市のショッピングモールへ行くことになった。
「着いたらご飯かな。なにが食べたい?」
「ええっと。どうしよう。行ったことないからなにがあるか分からなくて」
「そっか。電車で行くと遠いもんね」
「先生は良く行くんですか…?」
「昔ね。最近は行ってないかなぁ」
「…そうなんですか」
変わってなければ、と何店か有名どころをあげていく。
その中の洋食屋さんに興味を引かれたようだった。
「そこにしようか」
「行ったことありますか?」
「そこはないかなあ」
「そう…ですか」
「どうかした?」
「…前の彼女とかと行ったのかなって…」
「んー。気になる?」
「…車じゃないとなかなか行けないとこだし、それくらいの歳になると男の人は友達とは行かないかなって…」
まあ、図星だけど。
彼女うんぬんの話をしたこともあったし気になるのは仕方ないか。
俺だって由姫ちゃんに彼氏がいたと聞いたらたぶん気になる。
でも。
「…俺、今、由姫ちゃんだけだよ」
「…はい…」
「だから…気にしないでくれたら…ってダメかな?」
「いっいえっ」
「他にさ、気になることとかあったらちゃんと言ってね」
「はい」
話しながら運転しているとあっという間に着いてしまった。
車を降りてきた由姫ちゃんの手を握り、そのまま歩き出す。
「あっあのっ!」
「ん?」
「手…いいんですか?誰かに見られたりとかっ」
「えー?いいよ。もう見られても困る関係じゃないでしょ?」
「でも…」
「大丈夫、ね?」
「うー…はい…」
最初は硬かった由姫ちゃんも、食事を済ませお店を見て回るうちにリラックスしてきたようだった。
「この帽子由姫ちゃんに似合いそう」
「そうですか?」
「うん。可愛い」
「かっかわっ?」
「ふふふほんと可愛いなぁ」
「えぇぇ」
今までの反動なのか、つい可愛いと言ってしまう。
「思ったことをちゃんと伝えられるのって嬉しいな。ずっと、我慢してたからさ」
「我慢…?」
「そう。可愛いと思っても、それをそのまま口にするわけにはいかなかったからね」
「そう…だったんですね」
「ん。あぁ、そろそろ帰らないとね」
時間は7時半を回ったところだった。
余裕を持って出た方がいいだろう。
「先生」
「なに?」
「…また前みたいにうちにご飯食べに来てくれますか?」
「前みたいに?」
「はい…先生にご飯食べてもらえるの、嬉しくて…」
「…そっか。うん、じゃあお邪魔します。あ、でも」
「でも?」
「こうやってふたりで過ごす日も欲しいな」
ぼんっ!と音が出そうなほど真っ赤になった由姫ちゃんが小さい声ではい、と言った。