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上手く寝付けないまま朝を迎えた。
夕方から出かける、ということで午前中から奈々が張り切って服を選びにやってくる。
日付が変わった瞬間に告白されたことを報告するとへぇ、やるねーせんせーと奈々は妙に満足気だった。
「じゃ、初デートだ」
「でーと」
「そう。デート。夕方からだからご飯とか?」
「話をするだけだと思うんだけど…?」
「そんなの許さん」
「そんなこと言われてもなぁ」
会えるか、という話しかしていない。
どこか行くのかな?それとも話をするだけ?
朝に電話がかかってきたときもまた夕方ね、としか言っていなかった。
「まあ、ご飯と想定するか」
「別にそこまで気合い入れなくても…?」
「いーのいーの」
まあ、いいや。
好きにさせておこう。
※※※※※※※※※※※※※※※
今、学校終わったよ。着替えに1度家に戻るから、また出る時に連絡するね。
「お、LINEー」
「ちょ、見ないでよ」
「ふふふふ恋人だねぇ」
「やだもう奈々!」
「あーあ私の由姫が先生のものになるなんて」
まったくなにを言っているんだか。
「奈々だって彼氏いるくせに」
「それとこれは別なんですー」
「なにそれ」
「お、また先生からじゃない?」
「…もう家を出るって」
「はっや。ウケる、そんなにがっつかなくても」
「変な言い方しない!ほら奈々」
「えー。一緒に出迎えちゃ駄目ー?」
「だめ!」
「けちー」
なんとか奈々を家から追い出し、先生が来るのを待つ。
ほどなくしてインターホンが鳴った。
「はいっ」
「あっと…遠野です」
「今出ます!」
ドキドキしながら玄関を開ける。
「こんばんは。用意はできてる?」
「はい」
「じゃあ、行こっか」
「えっと…どこに行くんですか…?」
「んー。どこか行きたいとこある?ってももう夕方だから行けるとこも限られちゃうけど」
「とっ特にはっ」
「そう?…門限の話は聞いた?」
「門限っ!?」
ビックリな話が出てきた。
未だかつて門限なんか作られたことはない。
「空貴に9時って言われちゃったんだよね」
「そんな…」
「だから車で来たよ。電車とかよりふたりきりになれるでしょ」
「なっ!?」
ぼっと顔が赤くなる。
今のほんとに先生が言った?
なんかこんなこと言うようなかんじだったっけ!?
信じられない気持ちで隣を歩く先生を見上げ、目が合った。
「えーと…もしかして引いた…?」
「やっ!違くて!なんか意外っていうかっ」
「うーん。今まで言いたくても言えなかっただけだからなぁ」
「そっそうなんですか…?」
「うん…嫌、かな…?」
必死で首を横に振る。
よかった、とほっとした様子で笑った。




