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疑問だらけの頭で自分の部屋からベランダへ出ていく。
『下、見て』
言われるままに下を見て、驚く。
そこには。
「えっ先生…?」
先生がこっちを見上げていた。
「えっどうしたんですか!?」
『んー。ああ、12時過ぎたかな』
「えぇ…?」
『遅くに、ごめんね。どうしても早く、伝えたかったんだ』
「はい…?」
『…由姫ちゃん、好きだよ』
ひゅっと息をのむ。
『好きだよ』
「な…」
『今までごめん。でもずっと…ずっと好きだった。…今さら何って言われても仕方ないと思ってる。まだ…俺を好きでいてくれたなら、』
電話越しじゃなくて直接聞きたい。
ベランダから部屋に戻り玄関から外へ飛び出し階段を駆け下りていく。
ベランダから見下ろした同じ場所で、不安げな表情で佇む先生が目に入った。
「せんっせいっ」
「由姫ちゃん…」
「…嘘、じゃ、ない?」
「こんな嘘つけないよ。さっきの続き、聞いてもらえる…?」
「はい…」
「好きです。俺と付き合ってくれませんか」
涙が溢れて止まらない。
返事を、返事をしなければ。
なんとか声を絞りだす。
「…い…はい…」
「いいの…?」
必死に頷いているとそっと抱きしめられた。
「良かった…姿が見えなくなった時、やっぱり駄目だったと思ったんだ…」
「そ、んなことっ」
「今までのぶん、いっぱい大事にするから」
「っはい…」
先生の腕に力が籠り、ぎゅっと強く抱きしめられる。
そのままふたりとも無言でいると、ふいに先生のスマホが鳴った。
先生が顔を顰めて電話に出る。
『おい、誰かに見られる前に上がってこい』
返事をする前にぶつっと切れ、困ったように先生が笑った。
「おにいちゃんに挨拶しないとね」
「…みっ見られた…?」
「まあ、殴られたりはしないよ。たぶんね」
「たぶん…?」
「ふふっ可愛いなぁ」
「はっ!?」
「しっ!声、気をつけて」
すっと手を取られ引かれていく。
かっと顔が赤くなって熱い。
エレベーターで上がり、先生は躊躇いもなく家に入っていった。
「お邪魔します」
「たっただいま…」
「おかえり」
顔を合わせたふたりの間にバチバチと何かが飛び交う。
思わず繋いだままの先生の手をぎゅっと握った。
その様子を見たせいだろうか、兄がはあ、とため息をついた。
「由姫がいいならいいけどな」
「えっと…うん…」
「大、帰れ」
「えー。泊まらせてくんないの」
「駄目に決まってんだろ…?」
「こえーなぁ、はいはい帰りますよー」
じゃあまた明日ね、と先生が帰って行った。
ふわふわと夢の中にいるようで。
朝、目が覚めても、現実のままなんだろうか。




