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まだちゃんと伝えることができないのがもどかしい。
でも、なんの憂いもなく確実に手に入れるためなら。
「…もしもし由姫ちゃん?」
『はい…由姫です…』
「今、大丈夫?」
『はい…』
電話越しに聞こえる声は緊張しているようで。
なんとなく、自分もガチガチになっていた。
こういうのは久しぶりで、落ち着かない。
「えーと…」
『あの…?』
「ごめん、俺ちょっと浮かれてるかもしんない」
『先生が?』
「うん」
『どうして…』
「分かんない?」
『そうゆうのずるいです』
「あはは、そうだね」
ぎこちない会話の後、沈黙が落ちる。
「…あのさ」
『はい』
「4月1日、会えない?」
『1日…ですか?』
「そう。学校行かなきゃだから、夕方とかになっちゃうんだけど」
『…分かりました』
「迎えに行くね」
『はい…』
「じゃあ、また、おやすみ」
『おやすみなさい』
電話を切って、ソファに突っ伏す。
これは…ダメだ、自分がヘタレすぎてやばい。
ロクに話せないとか中学生か。
「あーもう!」
大丈夫か、俺。
※※※※※※※※※※※※※
「おもしろくねーな」
「…分かるよ」
「一途だよなぁ。1度は振られてるんだぜ?」
「うん。そうだね」
「それなのに相手は待ってろとか言って返事を保留とか?え?何様?」
「ほんとすみません」
卒業式のあったその週末。
前触れもなく空貴が家にやってきた。
覚悟はしていた、が。
「お前俺の事応援してくれてんじゃなかったの」
「それとこれは別だっ!」
「マジか」
「10も歳上のしかも教師とか」
「…同じ歳の男だったって文句言うだろ」
「あ?」
「イイエナンデモ」
「いいか、門限作るからな?厳守だからな!」
「おにいちゃん横暴ー」
「おにいちゃん言うな!」
そしていかに「うちの由姫」が「可愛い」かを語っていく。
そういえば、昔も「妹」の話をよく聞かされていた。
あの頃はさして興味もなく聞き流していたけど、今思えば惜しい気もする。
「なぁ、おにいちゃん」
「おにいちゃん言うな!」
「俺、大事にするから。今まで傷つけちゃった分も」
「…当然だろ」
「だから、俺の事認めてよ」
ギロリ、と胡乱な目を向けられる。
「…ちっ」
「なに」
「お前なんか振られちまえ」
「それでも親友か」
「親友だと思ってたやつに裏切られた」
「ずいぶんだなぁ」
「泣かしたら末代まで祟ってやる」
「こわ」
今日泊まって行くからな!電話とかさせねー!!と言い放ちながら妹自慢に戻っていく。
「…なぁ空貴、頼みがあるんだけど」
「あ?」
「凄むなよ」
「ついな、で?」
会いたい、声が聞きたい。
早く、気持ちを伝えたい。




