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その瞬間、体が勝手に動いた。
「ごめん奈々!!」
「由姫っ!?」
もう一度、校舎の中へ駆け込む。
先生はたぶん、準備室だ。
早く、早く。
先生に会いたい。
伝えたい。
ガラッとドアを開けると驚いた顔の先生がいた。
「っ先生!!」
「由姫ちゃん…?」
「先生…好き…」
「え…?」
「好きなのっ…どうしても先生だけが好きなのっ!」
勢いで言ったものの、先生の反応が怖くて下を向いてしまう。
「由姫ちゃん、ドア…閉めて」
意外な言葉を聞いて目線を上げると、先生がこっちに歩いて来ていた。
「閉めて?」
「はい…」
言われるままに後ろを向きドアを閉めると、私の側に来た先生がさっと鍵をかけた。
え、と思った瞬間、抱きしめられる。
驚きで声が出ない私に、先生が絞り出すように言った。
「3月が終わったら…返事をするから…」
「3月…?」
「ごめん、由姫ちゃん…もう少し…もう少しだけ待ってて。まだ、言えないんだ。3月が終わるまでは」
さらにぎゅっと腕に力が籠る。
「由姫ちゃんに伝えたいことがあるんだ…」
「私に…?」
「うん…」
「…先生?」
「もうちょっとだけこのままで」
信じられない気持ちで、先生の腕の中にいる。
ドクドクと聞こえる心臓の音は私のなのか先生のなのか…。
しばらくして私を抱きしめていた腕が緩む。
「ごめん、フライングしてもいい…?」
こめかみにそっとキスが落ちる。
「えっ!?!?」
「今はここまでね」
「いっ今はっ!?」
「離したくなくなっちゃうからもう行って?」
「はなっ?えっっ!?」
「またね。後で連絡するから」
ほら、とドアを開け背中を押され廊下に出る。
混乱状態で横を見ると奈々がニヤニヤとした顔でそこにいた。
「ふふふふふ」
「奈々っ!」
「ちょっと聞こえちゃったもんねー?」
「えっ!?ちょっ」
「立ち聞きは趣味悪いぞ」
「せんせーだってそうじゃんー」
「いいからもう帰れ」
ドアの向こうの先生と奈々が話しているのを横にただあわあわとするばかりだった。
学校からの帰り道。
未だに混乱する頭を抱えていた。
「夢…とか?」
「私が聞いてたんだから夢じゃないよ」
「え…でも」
「聞いた限り事実上OKな保留だよね」
「…ね、やっぱり夢じゃないかな!?」
「由姫が珍しく現実を見ないねぇ」
「現実…?」
「いえす、現実。3月が終わるまでってことはあれか。生徒じゃなくなるまでってことか。うーん、真面目」
「生徒じゃなくなるまで…」
「それだけ由姫のこと好きなんでしょ」
「すっ!???」
信じられないような言葉が奈々から発せられた。
「まってまって!好き!?」
「うん」
「だっ誰が誰を!?」
「先生が由姫を」
「え!?そっか!?」
「お、現実に戻ってきたー?」
「え、でも」
準備室での出来事を思い返す。
抱きしめられたときの、腕の力の強さ。
そのあとのこめかみへのキス。
まってて、という声。
ぼっと音が出そうなほど、一瞬で真っ赤になった。




