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テストも終わり3年は授業がなくなった。
登校日以外は合格を報告にしに来る生徒がちらほらと来るだけになる。
由姫ちゃんの発表はもうすぐなはずだ。
大丈夫だとは思っていても、やっぱり心配にはなる。
なんとなく、そわそわとここ数日を過ごしていた。
カラカラと控えめにドアが開けられた。
様子を伺うように失礼しますの声とともに覗きこんだ顔は。
しばらくぶりの、由姫ちゃんだった。
「先生…合格しました」
「そう、良かった。おめでとう」
「ありがとうございます」
「これで空貴も安心だね」
「あ…はい…じゃあ、これで」
「ねえ、由姫ちゃん」
そそくさと行こうとする彼女を呼び止めた。
「…なんですか?」
「合格祝い、何がいい?」
自分でも思いもよらない言葉を発してしまい、内心慌てる。
違う、言いたいことはこれじゃない!
「え?」
「なにか欲しいもの、ある?」
「…ないです。なにもいりません」
怪訝な顔でピシャリと断られる。
まあ、そうだよな。
自分でもなにをやってるんだかと呆れてしまう。
「先生?」
「いや…次は卒業式だね。じゃあ、また」
「はい…さよなら」
「さよーなら」
チラリ、と机の引き出しを見る。
そこにはあるモノがあって。
言えなかった言葉の変わりに、はあ、とため息をついた。
※※※※※※※※※※※※※※※※
合格発表から一週間後、私は誕生日を迎えていた。
「誕生日まで勉強とかにならなくて良かったねー」
「うん」
「奈々は明日発表だよね」
「そうー。まああとはもうどうにでも!」
そうは言っても奈々なら大丈夫だろうな。
「ね、今日行ってきたの?」
「…うん」
「会えた?」
「ううん、いなくて…机に置いてきちゃった」
「えぇー?たくさんあったんじゃない?どれが由姫のかわかんないじゃん」
「いいよ。それでも。私からってどうしても知らせたいわけじゃないし」
そう、今日は誕生日と…バレンタイン。
直前までどうしようか迷っていたけど、もう会えなくなると思ったらいてもたってもいられなかった。
居たら、どうしよう。
そう思いながらドアを開けたけど準備室は誰もいなかった。
居なくてほっとした気持ちと、ちょっと残念な気持ちと。
机に並ぶチョコたちを眺めながら、一週間前のことを思い返す。
なんで合格祝いなんて言ってきたんだろう。
由姫ちゃん、と名前を呼ばれるだけで心がざわつく。
そうやって簡単に私の心を奪っていく先生にちょっと苛立ち、素っ気ない態度になってしまった。
ふと思いつき、先生の机からペンを借りて綺麗にラッピングした自分のチョコに思い切り大きく「遠野先生へ」と書いた。
たくさんのチョコの中で少しだけ目立てばいい。
ちょっとだけいい気分になって準備室を後にしたのだった。