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「よゆーぶっこいて見守っているうちに横からかっさらわれるわよー?」
「いっそその方が諦めがつくよ」
「はあー?」
「なんでそんなけんか腰なの」
「べっつにぃ?」
珍しく空貴に乃々がくっついて来た。
敵情視察!などと以前聞いたことのあるような言葉だ。
ただ機嫌はあまりよろしくないらしい。
「何が気に入らないの」
「それとなく匂わせたりしないの?」
「そんなことしないよ。ずるいじゃん」
「なんで」
「乃々、もういいだろー?大の立場も考えてやれ」
「でも!!」
「乃々だって分かるだろ?」
むうーとなんだかぶつぶつ言っている乃々を空貴がなだめる。
なにをそんなムキになってるんだか。
「卒業したら…」
「卒業ね…それまでに由姫の心が変わったら?」
まるで今はまだ心が変わっていないかのような口ぶりだ。
もしかしたら。
そう思う自分を振り払う。
「目標は振られることだよ」
「遠野くんの馬鹿」
「はっきり言うなぁ」
「いくらでも言ってやるわよ!馬鹿馬鹿」
「乃々ー。その辺で勘弁してやれ」
「ははは」
「笑い事じゃなーい!!」
※※※※※※※※※※※※※※※
「吸血鬼ねぇ」
「そう!せんせーお願いっ」
「いいけど…」
「やったぁ!ありがとせんせー!」
文化祭当日。
口を挟む間もなくサクサクと出し物が決まり準備も進み…とはいえ何もしないわけにもいかず顔だけは見せにクラスに行くと衣装を手に何やら頼まれた。
おばけ屋敷とかそれこそ自分が高校生のとき以来だ。
じゃ、これ着てね!と手渡された衣装を着る。
サイズ的に計画的だなぁ。
あれから1年か。
1年前、自分がこんなままならない恋をするとは想像もしていなかった。
そういえば今日は姿を見てないな…と指定された位置についた。
「…先生?」
「えっ!?ゆ…佐藤さん?」
そこにはくまのぬいぐるみを持った黒いワンピース姿に包帯を巻いた由姫ちゃんがいた。
「先生、その格好どうしたんですか?」
「どうって…なんかここにいろって言われたんだけど…っ佐藤さんは知らなかった?」
「はい…。あれ、私間違えたかな…」
スマホを取り出し何かを確認するとびっくりしたような顔をした。
「…どうしたの?」
「あっいえっ。私、ここであってるみたいです。ふたりで並んで立ってるだけでいいって」
「そう?じゃあ、よろしく」
「はっはいっ」
確かに並んで立っているだけで面白いくらい勝手に驚いてくれる。
何組か通り過ぎてしばらく客が途絶えた。
「…最近、どう?」
「え?」
「あ、いや…。元気かなって」
「…毎日会ってるじゃないですか」
「そうだけど…」
妙な沈黙が落ち、チラリと横を見る。
怖い扮装をしているはずなのに、なんていうか…可愛い。
断続的に来る客の中には由姫ちゃんに見惚れているやつもいた。
なんとく、奈々の差し金かなと思う。
由姫ちゃんを振った俺と、無遠慮な輩と天秤にかけた結果のこの状況なのだろう。
触れ合うか、触れ合わないかの距離を保つ。
ドクドクと心臓の音がうるさい。
──触れたい。
でもそんなことをしたら奈々が危惧した輩と同じになってしまう。
理性理性と頭の中で呟きながら時間が過ぎるのを待った。




