20
夏休みはバイトと補講で予定が埋まる。
補講は最初行くつもりはなかった。
夏期講習に行かないのなら補講は行っておけ、と兄に言われ、それもそうかと軽く考えていたのが良くなかった。
そう、補講っていったら。
先生だっているじゃないか。
「この補講中になるべく苦手をなくすように。分からないことはそのままにせずにちゃんと聞いてね」
はーいとまばらに返事があがる。
元気ないぞー、と笑う先生にうっかりみとれてしまった。
我ながら未練がましい。
「まず前半30分はプリント。15分で解説。残りで質問タイムね」
補講の説明をする先生の声を聞きながら、呟く。
「迂闊だったな…」
「由姫はぜったい来ないと思ってた」
「今から帰るとかダメだよね…」
「そんなに嫌?」
「嫌っていうか…」
「そこー。ちゃんと聞いてるー?」
ビクッと隣の奈々から目線を前に向けると先生と目が合い一瞬、頭が真っ白になる。
「聞いてまーす」
奈々の声にハッとした。
先生と久しぶりに目を合わせた気がする…。
ドキンドキンと胸が高鳴る。
だから会いたくなかった。
いつだって先生に会えばこうなるんだから。
好き。
先生が、好き。
どうしても止まらないの。
※※※※※※※※※※※※※※
補講は来ないだろうな、と思っていたから名前を見たときは驚いた。
中学生か、と自分でツッコミを入れる程度には気分が高揚する。
全く会えないのと少しでも会えるのでは雲泥の差だ。
すっかり開き直ったかのような自分の心境の変化に思わず笑い出しそうになる。
今は好きでもいい──。
そうだ、気持ちを自然にまかせよう。
そう思ったら彼女を真っ直ぐに見ることにも躊躇いがなくなった。
正面を向いた由姫ちゃんと目が合う。
一瞬世界が自分と彼女だけになったような気分になる。
奈々の声に我に返り、慌てて頭を仕事モードに切り替えた。
「はい、じゃあプリント配るよ」
プリントに向き合い始めた生徒達のなか、ふと視線を感じ目を向けた。
またもや由姫ちゃんとバッチリ目が合う。
何か言いたげにも見え、どうしたの、と目で問いかけみる。
驚いたように首を横に振り、慌ててプリントへ視線を落としてしまった。
サラリと落ちる、黒い真っ直ぐな髪。
触りたいな、と仕事中にも関わらず邪な気持ちが湧き上がった。
固定してしまいそうな視線を無理やり彼女から引き剥がす。
ああ、やっぱり、好きだ。
見守ることしか出来なくても。
彼女がもう、自分を好きじゃなくなっていても。




