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校内の見回りをしている時、由姫ちゃんが告白されている所に居合わせてしまった。
見て見ぬふりをしようと引き返しかけ、男子生徒が彼女の手を掴み、反射的に振り払っているのを目の端で捉える。
いけない、と思い咄嗟に声をかけた。
「せんせー邪魔すんなよー」
「えぇ?」
「ちぇー。あともう少し押せば付き合えたかもなのに」
一瞬、頭に血が登った。
そんな馬鹿な、ちゃんと彼女を見ろ。
嫌がっていたじゃないか。
ダメだ、笑え、感情を抑えろ。
俺は教師だ。
「そうか?ちゃんと見極めないと相手に嫌われるぞー?」
「そんなぁ」
そんな手で、彼女に触れるな。
※※※※※※※※※※※※※※
「大、飲みすぎ。もうやめとけ」
「うるせー」
「なんだよ。何があった?」
「なにもない」
「んなわけあるか。こんな飲み方して」
酒の回った頭で今日の出来事を思い返す。
強烈に湧き上がった感情は嫉妬だ。
彼女と同じ歳の男に嫉妬をした。
「空貴、俺、どうしたらいい?」
「…何」
「由姫ちゃんが好きなんだ、何度も諦めようとしたのに駄目なんだ」
「大…」
「学校で、男と話してるのを見るたび嫉妬で狂いそうになるんだ。俺にはそんな権利ないのに」
「権利、な…」
俺だって好きだと言いたかった。
でも物語のようにそこでハッピーエンドで終わるわけじゃない。
付き合えても、秘密にしなければならない。
もし、秘密が周りにばれたら?
もし、それで由姫ちゃんの人生が変わってしまったら?
守れる自信がなかった。
自信がなくて、由姫ちゃんを傷つけた。
「…なあ、こういうのって、自分じゃどうにもならないだろ?由姫だってそうだ」
「由姫ちゃんも…?」
「なあ、大、まずは諦めるとか置いておけ」
ぼんやりと空貴を見る。
「いまは好きでいいじゃんか…。どうしてもダメなら卒業してから伝えろ」
「ああ…そっか…今更なにって言われて振られればいいのか」
「振られる前提かよ。そんなの、分からないだろ?」
「その前に彼氏ができるかも…」
「ネガティブだなぁ」
「ごめん、空貴」
「俺に謝られてもね」
…由姫ちゃんは可愛い。密かに人気があるのを知っている。
告白されているのを見るのは、実はこれが初めてでもなかった。
「…由姫ちゃん今日告られてて」
「はっ!?」
「押せば付き合えたかもとかそいつ言ったんだ…」
「なんだと…?」
「許せないよね」
「うちの由姫はそんな軽くないぞっ!」
ガタンっと音がしたと思ったら、空貴が立ち上がる。
「よし、そいつ絞める」
「そうか、俺は犯罪者の友人になるわけだ」
「おいっ!」
「やるならひとりでどうぞ」
「なんだそのいい笑顔!そうだ!よくよく考えればお前もなんだよな!」
「何が」
「由姫はやらん!!」
「お父さんか」
諦めなくてもいい、そう言われたことで少しだけ心が軽くなった。
卒業したら、か…。
そんな未来が、果たして来るんだろうか。




