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秘密の恋  作者: 菊花
本編
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19





校内の見回りをしている時、由姫ちゃんが告白されている所に居合わせてしまった。

見て見ぬふりをしようと引き返しかけ、男子生徒が彼女の手を掴み、反射的に振り払っているのを目の端で捉える。

いけない、と思い咄嗟に声をかけた。



「せんせー邪魔すんなよー」

「えぇ?」

「ちぇー。あともう少し押せば付き合えたかもなのに」


一瞬、頭に血が登った。

そんな馬鹿な、ちゃんと彼女を見ろ。

嫌がっていたじゃないか。


ダメだ、笑え、感情を抑えろ。

俺は教師だ。


「そうか?ちゃんと見極めないと相手に嫌われるぞー?」

「そんなぁ」





そんな手で、彼女に触れるな。





※※※※※※※※※※※※※※





「大、飲みすぎ。もうやめとけ」

「うるせー」

「なんだよ。何があった?」

「なにもない」

「んなわけあるか。こんな飲み方して」



酒の回った頭で今日の出来事を思い返す。

強烈に湧き上がった感情は嫉妬だ。

彼女と同じ歳の男に嫉妬をした。


「空貴、俺、どうしたらいい?」

「…何」

「由姫ちゃんが好きなんだ、何度も諦めようとしたのに駄目なんだ」

「大…」

「学校で、男と話してるのを見るたび嫉妬で狂いそうになるんだ。俺にはそんな権利ないのに」

「権利、な…」


俺だって好きだと言いたかった。

でも物語のようにそこでハッピーエンドで終わるわけじゃない。

付き合えても、秘密にしなければならない。


もし、秘密が周りにばれたら?

もし、それで由姫ちゃんの人生が変わってしまったら?


守れる自信がなかった。

自信がなくて、由姫ちゃんを傷つけた。


「…なあ、こういうのって、自分じゃどうにもならないだろ?由姫だってそうだ」

「由姫ちゃんも…?」

「なあ、大、まずは諦めるとか置いておけ」


ぼんやりと空貴を見る。


「いまは好きでいいじゃんか…。どうしてもダメなら卒業してから伝えろ」

「ああ…そっか…今更なにって言われて振られればいいのか」

「振られる前提かよ。そんなの、分からないだろ?」

「その前に彼氏ができるかも…」

「ネガティブだなぁ」

「ごめん、空貴」

「俺に謝られてもね」


…由姫ちゃんは可愛い。密かに人気があるのを知っている。

告白されているのを見るのは、実はこれが初めてでもなかった。


「…由姫ちゃん今日告られてて」

「はっ!?」

「押せば付き合えたかもとかそいつ言ったんだ…」

「なんだと…?」

「許せないよね」

「うちの由姫はそんな軽くないぞっ!」


ガタンっと音がしたと思ったら、空貴が立ち上がる。


「よし、そいつ絞める」

「そうか、俺は犯罪者の友人になるわけだ」

「おいっ!」

「やるならひとりでどうぞ」

「なんだそのいい笑顔!そうだ!よくよく考えればお前もなんだよな!」

「何が」

「由姫はやらん!!」

「お父さんか」




諦めなくてもいい、そう言われたことで少しだけ心が軽くなった。

卒業したら、か…。



そんな未来が、果たして来るんだろうか。






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