プロローグ
なんで、と問われれば何個か考えつく。
家から近かったとか幼なじみがそこにするって言ったから、とか。
兄が通っていたからとか学力的にも無理がないし、とか。
でも。
あの時なんとなく決めてなかったら、もっと確固たる意志を持って他の学校に行くと決めていたら。
こんなにも苦しい恋をすることはなかったかもしれない。
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新しい世界に踏み出す時はある程度緊張するものだ。
もちろん、今日入学式が終わったばかりの私も例外ではなく。
クラスの半分以上は知らない顔。
さてどうしようかと思案した時、聞き慣れた声が私を呼んだ。
「由姫!!」
幼なじみの奈々が勢いよくドアを開け放つ。
「…奈々…静かに来てよ」
当然、注目を浴びる。
奈々は美人だ。
ただ中身はオトコマエすぎるほどにオトコマエだ。
「空貴にぃきた!?」
「え、来ないよ?」
「ちっ」
「…なにどうしたの」
「別に」
別にならなんで舌打ちをしたのか。
しかし彼女の言動は幼なじみといえど理解できないことの方が多い。
慣れなのかなんなのか、私はあっさりスルーすることに決める。
「今日平日だし…高校生にもなって来てもらわなくてもって言ったんだよ」
「それでも来るのが兄じゃないの!?てか泣く泣く仕事行ったな?」
「まあね」
例えば、この時兄が来ていたら。
私と先生の出会いももっと早かったのだろうか。