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秘密の恋  作者: 菊花
本編
19/38

17






3月の終わりに学級編成が知らされた。

そろそろ担任を、という話は去年から言われていたことだった。

でも、まさかこんなタイミングで。

由姫ちゃんの担任になるとは思ってもいなかった。





教室に入る前に、深呼吸をする。

担任を持つのは初めてだ、緊張するのは仕方がない。



ガラッとドアを開ける。


「おはよう」

「おはよーございまーす」

「席座ってー」


ざわざわとした空気から静かになった。


「2組の担任になった遠野です。担当教科は現国。1年間よろしく。」

「知ってるー」

「せんせー緊張してないー?」

「そりゃするよ」


和やかなやりとりに、ほっと息をつく。


「じゃあ、さっそくだけど自己紹介から始めようか。1番からなー」


へーい。という返事とともに自己紹介が始まる。

3年にもなれば皆割と淡々と自己紹介をしていく。

由姫ちゃんの番が近づいてきた。


意識的に目を向けていなかった場所へ視線を滑らせた。


一瞬、目が合う。

先に目を逸らしたのは自分なのか彼女なのか。

ガタン、と椅子の音のあとに久しぶりに聞く由姫ちゃんの声。


「佐藤由姫です。趣味は読書。よろしくお願いします」


ドクンドクン、とやけに心臓の音が大きく聴こえた。

自分は今、上手く話せているんだろうか?






気持ちを奥底に閉じ込めて蓋をする。

でもふとした拍子に溢れ出てしまう。



例えば、朝、名前を呼ぶ時。

提出物をチェックする時。

ホームルームで男子生徒と話をしているのを見た時。


少しも気持ちが冷めていないことに愕然とする。

目の前にいる、生徒である彼女。

心が、彼女に惹かれてやまない。






※※※※※※※※※※※※※※※





「お前ちゃんと寝れてる?」

「…寝てるよ」

「間があったぞ」


外で会うようになった空貴。

自分に気を使わずに友達と、という由姫ちゃんの願いはこれで叶ったことになるんだろうか。



「仕事詰め込みすぎてないか?疲れて見えるぞ」

「奥さんか」

「茶化すなよ」

「…大丈夫だよ」


疑わしそうな目を向けられる。


「ほんとに、大丈夫だって。ただ担任を持つの大変なのは知ってたけど、ここまでとは思ってなかったな」

「単純に抱え込みすぎてるだけじゃないのか?」

「疑り深いなぁ」


はは、と笑うと笑い事じゃねぇよ、と言われた。

忙しいのは本当だ。

疲れて見えるのは、たぶん。



「…由姫の担任になったんだよな」

「…ん」

「そのせいじゃないよな…?」

「…大丈夫だって。まあ、確かにちょっと鋭い視線を浴びるときもあるけど」

「奈々か…悪い、言っとくわ」

「いいよ。自業自得なんだから」

「そんなことねーだろ…」



怒ったような、泣きそうな顔の空貴に、困ったように笑うしかできなかった。





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