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念入りと言ってもいいくらい、慎重に私は先生を避けた。
必要以上に会わないように。
すれ違うことすら許さないように。
そして、先生も。
恐らく会わないよう、動いているように思えた。
もともとあまり関わりもないのだから、驚くほどに簡単に会わなくなった。
「今日…」
「何?」
「ううん、なんでもない」
今日は先生の誕生日だ。
きっと今日も先生の周りは大盛況なのだろう。
それは、もう遠い世界の出来事のようだ。
「空貴にぃ、今日は?」
「友達と飲みに行くって言ってたよ」
「じゃあ、由姫んとこ行こー。今日のご飯何にする?」
「何がいいかなぁ」
兄の「友達」。
あの日から、兄は頻繁に友達と外で会うようになった。
その友達が、先生だってことは知っている。
なんの因果か、私が振られることによって、望んでいたことが叶った。
そして私は先生が家に来る前と同じ生活に戻った。
自分と、兄のための食事を作る。
このまま、接点を持たずにいればいずれ忘れられるんだろう。
それでいい。
時々チクリと痛むことがあるけど、時々苦しくて泣きたくなる日もあるけど。
きっと、それももうすぐなくなる。
そう、思っていた。
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「もう3年生かー早いなぁ」
「いよいよって感じだね」
「自由に遊べるのは1年後かぁ」
気分転換にどうよ!と奈々に誘われ春休みはバイトに明け暮れた。
おかげであっという間に春休みが終わり、気が付けばもう新学期だ。
「結局由姫も進学コースかぁ」
「進学って言っても短大だし」
「受験することには変わりないじゃん」
「まあ、そうだけど。がんばんなきゃね」
ふと、あのひとの面影がよぎる。
このところの忙しさで、思い出すことも少なくなっていた。
きっと、もう会っても大丈夫。
「またクラス一緒だといいね」
「えーそんなに上手く同じになるかなぁ」
クラス発表のボードが近づく。
奈々と一緒だといいな、緊張しながら自分の名前を探していく。
「あ!あった!由姫!一緒だよ!」
「ほんと…」
喜ぼうとしたその時。
まさか、という名前を見つける。
ドキンドキンと心臓がなる。
「由姫…?」
「うそ…担任…」
奈々がえっと驚いたのが分かった。
「うそでしょ…?」
担任 遠野 大
先生の名前が、そこにあった。