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「大!なにがあった!!」
空貴が車から出てきた俺に掴みかかった。
「大!!答えろ!」
「…由姫ちゃんに告白されて…振ったんだ…」
「由姫が!?」
ぐらぐらと足元が揺れている。
まさか、という衝撃と自分の気持ちに相反する否定の言葉をかけたことに頭が混乱していた。
「なんでお前…大…?」
「ごめん…ごめん空貴…」
「謝る相手違うだろ…」
「駄目なんだ。俺は教師だ。そんな感情持ったらいけないんだ」
空貴が息を飲む。
「まさかお前も…?」
「違う…」
「大!こっちを見ろ!」
空貴と視線が合う。
そこには気遣わし気な目があった。
「…由姫が好きか」
彼女を傷付けた自分が好きなんて口にしていいんだろうか。
でも、空貴に嘘をついてはいけないんじゃないかと思った。
「好きだよ」
「そっか…難しいな…」
「怒らないの」
「そんなの、どーしようもねーじゃん…」
そうか、どうしようもないのか。
「そう…」
「…大丈夫か?」
「大丈夫…?どうかな…」
「お前ん家行くか。車出せ」
「なんで…?」
「由姫は乃々と奈々がいるだろ。俺がいた所でなにも出来ない。それでさ、お前は、1人じゃ辛いだろ」
「…いや、お前見るのも辛い」
「うっせ。早く…いや、俺運転するわ。今のお前、危なっかしいわ」
さっと運転席に座り早く乗れや、と言う。
その仕草に、彼女の影は重ならない。
大丈夫、大丈夫だと言い聞かせ、車に乗り込んだ。
※※※※※※※※※※※※※※※※
家に着くとやれメシを食えだ風呂に入れだ甲斐甲斐しく世話を焼かれた。
いやに慣れてるなと思ったけど、由姫ちゃんとの年の差を考えれば納得できた。
彼女は、今、泣いているんだろうか。
自分が、泣かせている。
そんなこと、したくないのに。
「…もう寝ろ」
「早い」
「酷い顔してるぞ。明日その顔で学校行くのか?」
「そんなに酷い?」
「酷いな」
「そう…」
はあ、とため息が聞こえた。
「いいから、寝ろ寝てしまえ」
「お前帰りどうすんの」
「あぁ?泊まってくに決まってんだろ」
「じゃあ、布団出すよ」
「場所だけ教えろ。あとは自分でやる。とにかく寝ろ」
「なんでそんなに寝かせたがんの」
「起きてたってロクなこと考えないだろ」
「寝られる気がしない」
「いーから寝ろ!!」
「…分かったよ」
しぶしぶ、寝室に向かう。
全部、夢だったらいいのに。
普段なら考えないような非現実的なことを考える。
どうして、こうなったんだろう。
あの時、送って行かなければ。
あの時、図書室に逃げ込まなければ。
違う、そもそも。
俺が、好きにならなければよかったんだ。