13
急いで帰り支度をして、学校を出る。
裏門から歩いて数分の所に、見覚えのある車が止まっていた。
覗き込むと助手席を指される。
…いいのかな、助手席。
「失礼します…」
「どうぞー」
シートベルトをしたのを確認して発進した。
「空貴に連絡した?」
「え…いいえ」
「した方が良くない?」
「そんな、小学生じゃないんだから。先生も過保護ですよね」
「そう?空貴のが移っちゃったかな」
困ったように笑った先生の横顔。
先生と話すの、久しぶり。
嬉しい、でも心臓がぎゅうっとなって。
「ご飯、ちゃんと食べてますか?」
「食べてるよ、心配?」
「最近、家に来ないから…」
「忙しくて」
「また来てくださいね」
「ん…」
歯切れの悪い返事に、誘ったことを後悔した。
兄ならばともかく、私はそこまでの近しい関係ではないということだろう。
なんとなく黙り込んでしまう。
先生の雰囲気もいつもと違うような気がした。
「…誕生日」
「え?」
「いや…おめでとうを言ってなかったなって」
「ふふ…ありがとうございます。先生はもうすぐですね」
「んー。このくらいになると誕生日とか気にしなくてね」
「ケーキ、焼きましょうか?」
「いいよ、手間かかるでしょ」
まただ、突き放されているように感じるのは気のせいだろうか。
静かに車が止まった。
家まであっという間だ。
もう少し、一緒にいたい。
「着いたよ」
「もう少し…」
「由姫ちゃん…?」
「もう少し、一緒にいたいです」
「何言ってるの」
「先生…」
「…駄目だよ」
わかってる。
わかってるけど気持ちが溢れて止まらない。
「遅くなるから。明日も学校でしょ」
「いや…」
「由姫ちゃん!」
「好き…先生…」
ひゅっと息を飲んだ音が聞こえた。
「先生が好きなの…」
言ってしまった。
もう後戻りは出来ない。
長い沈黙の後、先生が絞り出すような声で言った。
「由姫ちゃんは生徒だよ。それ以上でもそれ以下でもない」
わかってたのに。
胸がズキズキと痛んで、涙が溢れる。
「由姫ちゃ…」
「ごめんなさいっ!」
車のドアを開け、外に出た瞬間。
「由姫っ!?」
「お兄ちゃん…!」
「なっなんで泣いてっ…大!?まさかお前!」
先生につかみかかろうとするのを必死で止める。
「違うのっ!違うの…先生は悪くないからっ私がっ先生を困らせたのっ!だから!」
「でも…」
「なんでもっないからっお願い…お兄ちゃん…」
「由姫…」
「先生、ごめんなさい…さっき言ったことは忘れてください…送ってくれてありがとうございましたっ」
マンションに向かって駆け出した。
お兄ちゃんの呼ぶ声が聞こえたけど、もう先生の前にいることすら辛い。
終わった。
終わっちゃった。
私の恋。