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前半→大視点
後半→由姫視点になります
プレゼントを持って、マンションの前に立つ。
このまま渡しに行くか、それとも渡さずに帰るか。
どっちも決められず、悪戯に時間が過ぎる。
いつまでもここにいると完全な不審者だ。
いいかげん帰ろうとした時、声をかけられた。
「あれ?遠野くん?」
「…乃々」
「平日に来るなんて珍しいね。空貴に用?今日はもう帰ってきてると思うけど」
「いや…」
「遠野くん?」
今日渡せなかったら、もう渡せないような気がした。
乃々に頼めば…気付かれてしまうかもしれない。
でもプレゼントだけでも彼女に届けたかった。
「これ、由姫ちゃんに渡して」
「プレゼント…?もしかして誕生日なの知ってた?」
「まあね」
「自分で渡さないの?寄っていけばいいじゃない」
「乃々からってことにして。じゃあね」
「待って」
「…なに」
「ねぇ、私、知ってるのよ。遠野くん、由姫のこと好きでしょう?」
「…だから何」
「別に…ただどうするのかなって」
「どうもしないよ。由姫ちゃんは生徒で、俺は教師だ」
「それでいいの?」
「いいもなにもないよ。煽んないで」
乃々の視線が痛い。
振り切るように歩き出した。
※※※※※※※※※※※※※※
がちゃん、と玄関から音がした。
乃々ちゃんの声がする。
「来たよー」
「乃々ちゃんお帰り~」
「ただいま」
「先に始めてんぞー」
「あれ、奈々は?」
「彼氏から電話で消えましたー」
「あらあらついに由姫より大事な人が出来たのかしら」
「クリスマスこっち優先してる時点でまだまだだろ」
笑いあいながらも妙な寂しさを感じる。
最近、イベント事には必ずいた先生がいない。
今日が平日じゃなかったらなぁ。
せっかくだから先生にも祝って欲しかったな…と欲張りなことを考える。
ちょっとでも姿が見たくて、準備室に行ってみたけどバレンタインのせいかたくさんの女子生徒に囲まれていて。
あの中に入っていく勇気はない。
新しい料理本をめくっていると、ふいに奈々がもうひとつの紙袋に気付く。
「あれ、おねーちゃんこれは?」
「あぁ…これ…」
乃々ちゃんは何故か困ったような顔をしていた。
「これも由姫にあげるの?」
「そうね。そうよ」
「なんか歯切れ悪いね」
「気にしないで。はい、由姫」
「ありがとう…?」
「開けて開けてー」
開けてみるとかわいいシュシュが出てきた。
「かわいい…」
「お、由姫に似合いそうー。さすがおねーちゃん」
「ありがとう、乃々ちゃん」
「…どういたしまして」
じっと私を見る乃々ちゃん。
「由姫、気に入ったなら、学校に付けてってね」
「…うん?わかった」
いつもの乃々ちゃんなら私の見立ては完璧ね!とか言うのに。
明日付けて行こうかな。
明日は、先生に会えるといいな…。