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大視点です。
クリスマスの日、あまりの無防備さに組み敷いた。
同じことを他の男にするかもしれない、そう思ったら冷静ではいられなかった。
自分だって何をしでかすかわからない。
本当はあのまま、触れたくて仕方なかった。
気持ちを隠さなければ。
誰にも知られてはいけない。
距離を置かなくては。
これ以上、近くにいては駄目だ。
でも気持ちを止められない。
※※※※※※※※※※※※※※
朝からひっきりなしに生徒が訪れる。
理由はバレンタインデー。
明らかに義理なものから本命らしきものまで様々だ。
「はぁ…疲れた」
「先生モテモテだねぇ?」
「嬉しくない…」
敵情視察!などと意味不明なことを言いながら準備室に奈々がやってきたのは昼休みも終わる頃だった。
「相方どうした?」
「んー。まあ、ちょっと」
今日はまだ姿を見ていない。
副担であっても、授業がなければ会えない日もあった。
「ねー。今日、由姫の誕生日なんだよねぇ」
「ああ…知ってる」
「え!知ってた?」
「ん?なに?」
「あのさー。今日、由姫ん家来れない?」
「今日?」
「そう。どう?」
どう?と言われても。
今日は平日だし課題のチェックや明日の準備がある。
でも会えるかも、と思うと心がぐらつく。
いや、でもさすがに。
「…無理」
「そうだよね…」
「なに、なんかあるの」
「いや、由姫が喜ぶかな、とか」
「由姫ちゃんが?なんで?」
「や!無理ならいいの!気にしないで!」
「はぁ?」
じゃ!と奈々がそそくさと出ていく。
同時に昼休みが終わるチャイムが鳴った。
「誕生日プレゼント…か」
そう、プレゼントを用意してしまった。
似合うと思った髪留め。
あげても変じゃないよな。
無理、とは言ったけどもし今日行けるなら…。
ひと目でも会えたら。
放課後、1人の女子生徒が授業の質問、と準備室に来た。
なんとなく嫌な予感がしつつ、用事があるから手短にね、と言うとやっぱりな質問をしてくる。
「用事って彼女さんとかですか?」
「プライベートな質問には答えないよ。授業の質問は?」
だまって俯いてしまった。
これは、マジなやつかな…。
「先生、好きです」
「…気のせいじゃない?」
「違います!私、本気です!」
「生徒は対象外だよ」
「私、もうすぐ卒業です!生徒じゃなくなりますよ!」
「よく考えてみな。俺、10歳くらい上だよ?おじさんじゃん」
「そんなことないです!」
「今はそれでいいかもしれないけど、すぐおじさんになっちゃうよ。同世代の男を好きになったほうが楽しいよ?」
「でも…!」
「…ごめん、本気ならなおさら気持ちには答えられない」
「先生…」
「ごめんね」
その子に言った言葉全てが自分に反ってくる。
彼女は生徒で、10歳下で、俺なんか…対象外だ。
きっと、これから同世代の誰かを好きになる。
それが、正しいはずなのに。
どうしても、受け入れられない。




