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そっと玄関を開ける。
まだ起きてないかな…?
なるべく音を立てないように台所に入っていく。
お酒を飲んだ次の日だから、パンよりはご飯のほうがいいかと思い、味噌汁、卵焼きと作っていく。
先生、午前中にはって言ってたけどギリギリまで寝てるかな?
起こしたほうがいいかなぁ。
現在9時。
迷う時間だな…。
その時、先生が寝ている部屋からアラーム音が鳴った。
待ってれば起きてくるかな、と思っていたのにアラーム音は止まる気配がなく、鳴り続けている。
「これは起こしたほうがいいよね…」
先生がいる部屋に向かい、ドアを開けてみる。
ピピッピピッと鳴り響く中、布団の山はピクリとも動かない。
どうしようと迷いつつも部屋に入った。
「先生…?」
「うぅーん…」
「先生、アラーム鳴ってますよ。起きてください」
「うん…?」
「とりあえず止めちゃってもいいですか…?」
スマホへ手を伸ばそうとした瞬間。
「えっ!?!由姫ちゃん!?」
がばっと起きた先生と、ふれそうなほど顔が近づく。
「きゃあっ!」
「ごっごめん!!」
お互いにばっと距離を取る。
ちっ近かった…!!
「えっなっなんでっ」
「ごめんなさいっ!アラームがずっと鳴ってて…!」
「あ…」
ピピッピピッとずっと鳴っていたアラームを先生が止める。
静かな部屋を気まずい空気が流れた。
「ごめん、気付かなかった…うるさかったよね?」
「いっいえっ!起きなきゃいけない時間なのかなって…。えっと…ごはん…出来てますから…どうぞ」
「あぁ…うん、ありがとう…」
はっ恥ずかしい。
俯いたまま座っていると、先生がはあーっとため息をついた。
「…由姫ちゃん」
「…はい」
「男が寝てる部屋に入ったらダメだよ」
「え…でも…」
「部屋のドアを叩けばいいし、それでも起きないなら空貴を起こせば良かったでしょう」
「でっでも!先生だし、大丈夫かなって…」
「…そんなの、わかんないでしょ」
腕を引かれ、気が付いたら布団に仰向け転がされる。
私の上には、先生が。
押さえられた手に力を入れたものの、ビクともしない。
「ほら、簡単にこうなる」
「……!!」
「分かった…?」
声が出ない。
ただただコクコクと必死に頷いた。
「女の子なんだから、気を付けて。男には力で敵わないんだから」
先生がさっと起き上がり手を差し出してくれた。
今の今で、その手を取るのに躊躇してしまう。
その様子を見た先生は、自嘲気味に笑った。
「ごめんね」
ぽんっと頭に手が乗せられ撫でられた。
そのまま先生は部屋を出ていってしまう。
ふっと掠めた、先生の匂い。
布団に残る、ぬくもりと。
怖かった、でも。
それ以上に先生と触れたところが熱くて。
心臓が痛いくらい、鳴っていた。




