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奴隷の水揚げ港

差別的に感じる描写があるかもしれませんが、差別を増長するような意図はございません。

 会談に向け、秀包らは突貫作業の中を進んだ。

 道にある立木は粗方切り倒してあり、藪も払っているので、切り株は残っているが見通しは良い。

 鬱蒼と茂った木々がどこまでも広がる熱帯のジャングルとは違い、所々では周囲を見渡せる。

 ココナッツといった見知った木があるかと思えば、見た事のない果実をぶら下げているモノ、色鮮やかな花を咲かせた木もある。

 町へと進む者達は、異国にいるのだと改めて実感した。


 途中で小さな道へと繋がった。

 彼らが歩いてきた、出来立てながらも十分な広さのモノとは異なり、長年に渡って踏み固められてはいるが、何とも心許ない細く小さな道である。

 まるで地元の者しか通らない峠の道を思わせた。

 使っているのはイスパニア人なのかアステカ人なのかは分からないが、確かな人の営みを感じさせる道だった。 

 そんな道に出くわしたと同時に視界が広がる。

 それと共に先頭から報告が入ってきた。


 「町が見えてきたそうでござるよ!」

 「思ったよりも近いんだね」


 城を出発してからかなりの時間を歩いているが、何日もかけて歩き続ける事が当たり前の当時、30キロ程度は大した距離ではない。

 

 「これは畑でござるな!」

 「町の周りは流石に開墾してるんだね」

 

 整備された耕地が見えてきた。 

 農地と道の境を示してあるのか生垣となっており、緑の葉をつけた木々が道に面して並んでいる。

 生垣の向こうには、人の手が入っていると分かる風景が広がっていた。

 けれども宗茂の顔には困惑が浮かんでいる。


 「これで良いのでござるか?」

 「うーん、何かいい加減な管理だね……」


 二人が眉を顰めたのも無理はない。

 彼らの見慣れた畑には雑草が一本も生えておらず、等間隔に作られたうねに作物が隙間なく植えられていた。

 しかし目の前の畑には、どれが作物なのかはっきりと分からないくらいに草が生えており、地面を覆い尽くしている。

 草むらの中にトマトの赤色やトウガラシの列を見つけ、ようやく野菜畑なのだと分かるくらいだった。

 所々はきちんと草を抜いてあり、管理をしている事は知れたが、除草作業はまるで追い付いていない。

 これで大丈夫なのかと心配するような畑だった。 

 そんな二人に対し弥助が言う。


 「外の国だと大体こんな感じだけど?」

 「そうなのでござるか?!」

 「お館様の国がやり過ぎなだけ」

 「そう言えば、日本人の几帳面さに海外の人は驚く事が多いって聞くね」


 秀包は久留米の畑を思い浮かべ、日本の百姓のマメさを改めて知った。

 と、宗茂が何かに気づき声を出す。


 「あれは弥助殿の御兄弟ではござらぬか?」

 「え?!」


 弥助と秀包はギョッとして顔を見合わせ、宗茂を見る。


 「ほれ、あそこでござる!」

 「あれは?!」


 宗茂の指す先には数人の男達がいた。

 驚いた顔でこちらを見つめ、その場につっ立っている。

 手には農具らしき物を持っているので、畑に働きに来たのだろう。

 宗茂が弥助の兄弟と思った理由は彼らの見た目にあった。


 「肌の色が弥助殿と同じでござろう?」

 「……だね」


 宗茂の言う通り、彼らの肌は全員が黒かった。


 「弥助殿の御兄弟ではござらんか?」

 「多分違うと思うけど……どうなの?」


 そんな訳はないだろうと思いつつ、秀包は弥助に尋ねた。


 「違う!」


 強い調子で弥助が否定し、だろうねと秀包は頷く。

 宗茂が不思議そうな顔で問う。


 「ならばどうして同じ色なのでござるか?」

 「いや、それは……」


 黒人は弥助しか知らない宗茂であるので、そのように考えても不思議はないだろう。

 秀包は言葉に詰まった。

 遺伝的にはメラニン色素の生成量が多く、蓄積しやすい事が挙げられる。


 「夏は日に焼けて肌が黒くなるでしょ? 弥助さんも彼らの故郷も九州よりもずっと日差しが強く、なおかつ夏が一年中続いているような土地だと思えばいいよ」

 「そうなのでござるか!」


 どうにか捻り出した説明に納得してもらえたようだ。

 

 「では、どうして彼らはここにいるのでござるか?」

 「え?」

 「いや、この地はそこまでの日差しではないでござる。という事は、故郷はここではないのでござろう?」


 再び秀包にとって難しい質問が寄越された。


 「えっと、それは多分、アレだよ……」


 チラッと弥助を見、言いかけていた答えをはぐらかす。

 正解は容易に想像出来たが、安易に口にするのははばかられる。

 それもその筈で、当の本人が隣にいるからだ。


 「奴隷だよ!」


 秀包が口にしかけた答えでもある、元奴隷の弥助がその唇をワナワナと震わせ、吐き捨てるように言った。

 鋭い視線を奴隷達に向け、睨むように凝視する。


 「先に行くから!」


 そう言い残し、主を置いてスタスタと歩いていった。


 「弥助殿は怒っているのでござるか? 珍しいでござるな」

 「怒っているのかな?」


 奴隷になった事はないので、奴隷達を見る元奴隷の気持ちがどんなモノなのかは計りかねた。


 「少なくとも気持ちのいいモノじゃ……」


 と言いかけた時だ。


 『仕事をさぼって何をしている!』


 イスパニア人と思われる男達が現れ、怒声を上げた。

 手に持っているむちを振り上げ、地面を叩いて威嚇する。

 言われた者達は途端にオロオロとし、こちらを指さして何やら訴えている。

 

 『何だと言うのだ!』


 面倒そうに顔を上げ、ビクッと体を硬直させた。

 畑の外の道に、大行列で行進しつつ自分達を見つめている、珍妙な恰好をした者達がいる。

 声を出す事も忘れ、口をポカンと開けたまま立ち尽くすのだった。 

 道を埋め尽くす行列は止まる事なく進み続け、やがて去って行った。 


 「イスパニア人の国がどこかは分かるのでござるが、奴隷達の国はどこなのでござるか?」


 宗茂が問うた。

 フロイスの持っていた世界地図は頭に入っており、国の大体の位置関係は把握している。

 

 「アフリカから連れて来られたんだと思うよ」

 「アフリカでござるか。ヨーロッパの下でござるな」


 打てば響くような返事である。


 「確かアフリカでは部族同士で戦をしているんだよ。他部族を捕らえて奴隷にし、イスパニアといったヨーロッパの商人達に売り払い、その代金で武器や火薬を買ってる筈だよ」

 「成る程、少し前の我らと全く同じでござるな!」


 南蛮商人のもたらす優秀な武器や火薬は、戦国大名にとって喉から手が出る程に欲しい物であった。

 アフリカの各部族にとってもそれは同じであろう。

 事情が違うのは、日本の場合は秀吉によって統一されている事だ。


 「日の本の奴隷達が異国へと連れていかれ、酷い扱いを受けているのでござったな」

 「それで秀吉さんが怒って伴天連追放令を出したんだよね」


 立ち尽くしていたイスパニア人を念頭に、秀包は答えた。


 「あの奴隷達を見たでござるか? 身に纏う服はボロボロ、体は骨が浮き出る程に痩せ細っておったでござる。イスパニア人の奴隷の扱い方が容易に知れるでござるよ」

 「そこまで見てるの!?」


 秀包は宗茂の観察眼に恐れ入った。




 「ほう? 我が国とは趣の違う町でござるな」


 ベラクルスの町が見えてきた。

 通りを隔てて家屋が並んでいる。

 屋根と壁で出来た建物という点では同じであるが、その作りには違いがあり、見た目の印象を大きく変えているようだ。

 噂を聞きつけたのだろうか、通りには多くの人々が詰めかけ、日本人の行列を見つめている。

 その顔には一様に恐れが浮かんでおり、町の将来を想像して怯えているようだった。


 『良く来てくれた! 歓迎する!』


 町の責任者であろうか、身なりの整った者が町の外で出迎えてくれた。

  

 「お招き感謝する」


 隆景がフロイスを介して口上を述べ、町へと入った。




 「港でござるな」

 「大きな船が並んでいるね」


 港町のベラクルスに入り、町を見学する。

 沖合に多数の船が停泊していた。

 日本の船とは比べ物にならない程に大きい。

 

 「ガレオン船っていうんだよ、お館様」

 「へぇ、あれがガレオン船かぁ。あれがあれば国に帰れるんだね」

 「船はあっても操れそうにないでござるな」

 

 弥助の説明に二人は頷いた。

 帆柱が1本の日本の船に比べ、ガレオン船は3本もある。

 扱いは格段に難しそうに見えた。


 「嘉隆殿に見てもらえば良かったのではござらんか?」

 「今更だけどそうだね」


 船大将の九鬼嘉隆くきよしたかであれば、ガレオン船がどんな具合なのか知っているかもしれない。


 「ベラクルスからハバナ、ハバナからヨーロッパへ行くらしいよ」

 「ハバナと言われてもさっぱりでござるぞ!」


 ベッドに縛り付けられていた前世では、ネットの中で世界のあちこちを旅してきた。

 そんな秀包にとり、各国の有名都市の位置は当たり前であったが、日本の事しか知らない宗茂には難易度が高い。


 「こんな感じだよ」

 「ふむ」


 紙に描いて説明した。  


 「おや? 船がやって来たでござるよ!」

 「ハバナから来たのかな?」

 

 帆に風をはらみ、こちらに向かってくる船影が見えた。 

 興味深く眺めていると、徐々に徐々に近づいてくる。

 船速は遅く、のんびりとした航海に思えた。 

 話をしながら待っていると遂に船の足が止まり、沖に錨を下ろす。

 と同時に、岸から近づいていった小舟がガレオン船に横付けされた。

 港ではあるが浚渫されていないので水深は浅い。

 ガレオン船は沖に泊め、乗客は小舟に移って岸へと上がるのだ。


 「あれ? ゾロゾロと人だけが降りてくるね」

 「畑で働いていた者と同じでござるな」


 小舟から降りてきたのは肌の黒い者達であった。

 二列になってトボトボと桟橋を歩いて来る。 

 銃を持ったイスパニア人が所々に立ち、その列を見つめていた。

 思い出したように怒声が響き、小舟はガレオン船とを往復する。


 「これって……」


 その光景から思い当たるのは一つだ。


 「お館様、奴隷だよ!」

 「つまりあれは奴隷船!」


 弥助の叫びに秀包は頷いた。

 悪名高き奴隷船を目にし、二の腕が粟立つ。

 船から降りてきた奴隷達は合わせて百名程で、秀包らの前を通って町の外へと抜けていった。


 「臭いでござるな……」

 「敢えて言いたくなかったけど、そうだね……」


 奴隷達が通った後には悪臭が漂っていた。

 鼻を突く臭いが通りに残る。

 船でどのように過ごしていたのか想像して秀包は眉を顰めた。


 「奴隷船を見学したいでござる!」

 「えぇぇぇ」


 好奇心に溢れた宗茂の顔に、勘弁してくれと思う秀包であった。


※ガレオン船

挿絵(By みてみん)

ベラクルスの町は城壁に囲まれていたのか、普通の町だったのか?

ヨーロッパから遠く離れたメキシコなので、そういう備えはしていないのだろうと考えました。

特に意味はありませんが。

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