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三成の誤算

 「10万人だと?!」


 三成が青い顔で声を出す。

 こちらに移ってきた村人らの数を調査していたのだが、集計した結果は驚くべき数字であった。


 「我々だけで20万もの大軍なのに、加えてその数!」


 まさかそこまでの人数とは思っていない。

 人が集まる所には何かにつけ仕事が発生し、食い扶持を求めて更に多くの者が集まる事は知っていたが、限度というモノがあろうと思う。

 名護屋城の建築途中から城下町の様相を呈していたが、30万の人口と言えば自分の領地である近江に匹敵する巨大な数だ。 


 「我々が消費する米の量しか計算していなかった! 付近の住民の数も含めればどうなる? 彼らが備蓄している米はどれだけある?」


 それらを早急に突き止めねばならない。

 先に出した数字が大幅に狂ってしまう筈だ。

 

 「吉継! 左近! 急ぎ調べてくれ!」

 「分かった!」

 

 新たな仕事を受け、二人は走る。


 「1年半も持たない!」


 二人の調べた結果を元に計算し直し、堪らず悲鳴を上げた。

 予想外の事態に珍しく取り乱した主君を見つめ、冷静なままの左近が進言する。 


 「嘆いても現実は変わりませぬ。ここは直ぐに隆景殿に報告して対策を練るべきでしょう。幸い、秀包殿の持って帰った果物は豊富にあるとの事。官兵衛殿も開墾を進めておりますれば、案外何とかなるやもしれませぬ」

 「左近がそう言うと安心出来るな」


 我を忘れた自分を反省し、三成はフッと笑みを浮かべた。

 そんな三成を吉継がからかう。


 「お前は心配し過ぎなんだよ!」

 「そう言うお前は軽く考え過ぎだと思うがな」


 そのやり取りで心が軽くなり、三成は隆景に結果を伝えに行った。  


 「成る程、事態は思った以上に逼迫しているという訳だな……」


 三成の報告を受け、隆景が溜息を漏らす。


 「官兵衛殿の開墾が進めばどうなのか?」


 居合わせた義弘が尋ねた。 


 「名護屋城の周りの村々が全てここに移っていると仮定し、植えていた稲の苗を全て移植出来たとしても、そもそも松浦郡の石高が少な過ぎるので30万を養うには全く足りませぬ!」

 「左様。城にある米は全国より集めていたのだから、稲が全て実った所で足りる訳がない。城の周りの田だけで賄えていたら、全国から集める必要はなかったからな」

 「成る程、厳しいな……」 


 量もそうであるが、懸念は他にもある。

 隆景が己の考えを述べた。


 「よしんば開墾が無事に済んだとしても、土が肥えているのか、この地の気候が稲に合っているのかも分からぬ。肥が足りなければ実りも少なく、虫や病気が襲えば来年の種籾すらも穫れぬやもしれぬ」

 「隆景殿の言う通りだ。それならば米が穫れても、全て来年の種籾に回すくらいでないと不味いのではないか?」


 義弘が隆景に追従する。

 三成が計算した。


 「城の備蓄で1年は持ちます。今年の収穫を諦めて来年に賭けるとして、来年の春から秋までは食べる物がない計算となります」

 「半年近くか!」


 絶望的と言えば絶望的な時間であろう。


 「秀包殿の見つけた食い物でどうにかならんのか?」

 「量次第だと思われますが?」

 「確かにそうだ」


 義弘は三成の言葉に頷いた。

 問題はどれだけあるのか、それだけだ。


 「で、どれだけあるのだ?」


 隆景が秀包に問うた。

 秀包は考え、答える。

 

 「調べないと分からないけど、ここの村では他にもトウモロコシやカボチャ、トマトや落花生、サツマイモやパイナップルなんかも育てているよ」

 「とうもろこし?」

 「さつまと言ったのか?」

 「あ……」 


 さつまの単語に義弘が反応した。

 それは直茂の留まっていた村の畑で見つけた野菜だったが、まだ日本に伝わっていない野菜にサツマは不味いだろう。


 「間違えました。唐芋からいもです」

 「唐芋? 唐の国の芋なのか?」

 「そういう事です」


 どうにか納得してもらえた。

 分けてもらった野菜を隆景らに披露する。 


 「これがトウモロコシだよ」

 「珍しい形をしているな……」


 それは日本のスーパーにあった物に比べて小ぶりで、乾燥しているからか非常に堅く、中身の色も紫だったり白だったりして初めは奇妙に思えたが、見た目はトウモロコシそのものだった。


 「トウモロコシは粉にして、トルティーヤにして食べているみたい」

 「とる? 全く想像がつかぬが……」

 「水に溶いた粉を焼いて皮を作り、野菜とかの具を包んで食べるんだよ」

 「ほう?」


 実演せねば分からないだろう。

 とりあえず続けた。


 「唐芋は焼いたり蒸したりすれば丸のまま食べられるよ。小さく切って粥に入れてもいいし、蒸してから薄く切って日干しにすれば携行食に持ってこいかも」

 「それは良いな!」


 焼けば風味が増すが、そのまま食べられるので兵士の食事にはぴったりかもしれない。


 「これがカボチャで煮つけにしたら美味しいよ。莢に入っているのが落花生で、乾煎りすると香ばしくて酒の肴にぴったりかも。トマトは別名医者要らずと言われている野菜だけど、煮込み料理なんかに使うといいね」

 「どうしてそんな事を知っているのだ?」

 「村で教えてもらったのと、本で読んだんだよ」

 「そうであるか」


 一応村人に聞いてはいるが、多くは前世の知識である。 

 秀包の説明に頷きながら義弘が言った。


 「秀包殿は医食同源として、日々の食べ物によって病から遠ざかろうという養生訓を出しているそうだな」

 「えぇ、まぁ、そうですよ」


 栄養価の話は置いておいて、塩分を控える事や果物を多く摂る事、豆腐や魚を食べるように勧めている。

 その噂を耳にしていた義弘が尋ねた。


 「その効果は?」

 「塩分を摂らないように勧めた事によって、むくみに悩む人は確実に減ったかな」

 「それは凄い!」


 漬物を多く摂りがちな当時、むくみに悩む者は多かった。


 「その話は後で好きなだけしてもらうとして、我らの腹を満たす算段をつけよう」

 「そうだった……」

 「これは失礼した」


 二人は恐縮した。


 「植える野菜がある事は分かったが、問題は量だろう?」


 隆景が尋ねる。


 「トウモロコシは一本から採れる種の数が多いし、畑で育つから、水がない所は全部畑にしてトウモロコシを育てればいいと思うよ」

 

 秀包の答えに義弘が眉を動かす。

 口を開きかけたが隆景に目で制された。

 何か考えがあるのだろうと義弘は開きかけた口を閉じる。

 そんな動きに気づいていない秀包は話を続けた。

 

 「さつま、じゃなくて唐芋は茎を刺して育てるから、殖やすのは結構簡単な筈だよ」

 「成る程」


 色々と出来る事はある。


 「バナナの成長は早く、水分を必要とするから川沿いに植えまくればいいと思うよ。土が肥えていれば1年で収穫出来るみたいだし」

 「それは助かるな」

 「ココナッツは落ちている物を丹念に拾って歩かないとね」

 「落ちているのならそうだろうな」


 異世界に転生し、農業でチートをする為に蓄えた知識が役に立ったようだ。


 「船はあるから海で魚を獲らないといけないよね」

 「陸に打ち上げられた船を海に持って行かねばな」

 

 漁も最大限行うべきだろう。

 それとは別に考えた事を話す。


 「出来るだけ米を温存して、ここらに在る物から食べていくようにすれば良いと思うけど……」

 「儂もそれに賛成だ」

 「私もそう思います」


 義弘も三成も秀包の案に賛成した。


 「非常事態なれば仕方あるまい。その方向で調整しよう」


 隆景が締めくくる。


 日をおき、ベラクルスに向かうのは総大将宇喜多秀家の代理として小早川隆景、その補佐役として安国寺恵瓊えけい、通訳としてルイス・フロイス、イエズス会を代表してアレッサンドロ・ヴァリニャーノ、その見張り役として小早川秀包、無理を言って参加した立花宗茂に決まった。


 「私は宣教師なのですが……」


 やや不満げにフロイスが口にした。

 あっちこっちと呼ばれ、良いようにこき使われている気がする。

 

 「フロイスさんがいるから御父上も交渉しているんだと思うけど? 通訳してくれる人がいないと、問答無用で船も食料も奪うんじゃないの?」

 「うっ!」


 秀包にそう言われ、フロイスは返答に窮した。

 フロイスが来た頃から日本は戦乱に明け暮れ、各地でひっきりなしに戦が起こっていた。

 そんな彼らが言葉の通じない相手に手加減するとも思えず、欲しい物は力で奪うだけだろう。

 自分がいる事によってそれが回避出来ていると考えれば、寧ろ喜ぶべき事なのかもしれない。

 命が無闇に奪われる事態を防いでいるからだ。

 イスパニア人は自分がここにいる事に感謝すべきだろうとさえ思う。


 「分かりました。私に出来る事があるなら喜んで協力致します」

 「そう言ってくれて助かるよ。フロイスさんがいなかったら、ここがどこかさえも分からなったからね。義弘さんだったら助けに来た人達も皆殺しだったろうし、その勢いでベラクルスの町も攻め滅ぼしていたろうし」

 「そ、そんな事にならなくて良かったです」


 秀包の言葉に冷や汗を流す。


 「フロイスさんが僕達とここにいる事こそ、尊き神の御心ってヤツなんじゃないの?」

 「そ、その通りです!」


 力強く頷いた。


 同じ頃、清正と長政が探索より戻って来た。

 特に清正は道中で仕留めた獲物を数多く持ち帰り、この土地が豊かな事を証明してみせた形だ。

 鹿、猪、珍しい色をした鳥などを得意げに披露する。

 どちらも豊かな自然が広がるばかりで、集落の跡はあっても人の姿は見えなかったという事であった。

20万人が2年も持つ量の米って城の蔵に入りきらないですよね。

1人が1年に食べる米の量が1石らしいですが、1石で2.5俵らしいので、20万人×2年×2.5で百万俵!

ありえねぇぇぇぇ!

現実的にするとイスパニア人もメキシコ人も皆殺しにして食い物を奪う必要があり、血も涙もない物語になってしまうのでファンタジーとさせて下さい。


野菜の名前は、本来であればアステカ人の使うナワトル語であってしかるべきですが、面倒なので日本語にします。

名詞が違うとアステカ人と意思の疎通が出来なくなる筈ですが、目を瞑って下さいませ。

その伝でいけばサツマイモのままで良い気もしますが、何となくです。

トマトはナワトル語でトマテ、トウガラシはチーレくらいは分かりましたが、他が分からないのでルビが中途半端になるからです。


4月25日、一部修正加筆しました。

トウモロコシの説明を付け加え、トウモロコシを植えればいいという秀包に義弘が何か言いかけてます。

最後に清正と長政に帰ってきてもらいました。

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