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調査

 翌朝、東の空が白むのに合わせて今一度天守閣に登り、探索班を中心に城の周りを確かめた。

 付近の調査には加藤清正、鍋島直茂、黒田長政が出る事となっている。


 「改めて見ると凄まじい広さだな……」

 「見渡す限りの平野とは!」


 眼前の光景に心を奪われる。

 城の東には海があり、残りの三方には平らな大地が広がっていた。

 北と西には山が見えたが、南の方向には遮る物がない。

 誰もが土地の大きさに圧倒されていた。 


 「二つの川に挟まれた土地とは、田を作るのにもってこいだな」

 「違いない」 


 城は一本の川に隣接し、少し離れた南側にも川が流れているのが見える。

 水利には申し分がないように思えた。 


 「関東の平野を見るようでござる」

 「そう言えば、宗りんは小田原征伐に参加してたんだね」

 「関東は広うござったよ」

 

 城下の風景を関東と比べ、宗茂が言った。

 

 「関東どころではない気がするが……」


 それに対して長宗我部元親が意見を述べた。


 「元親殿は船から関東を見ているのでござったな」

 「左様。印象でしかないが、こちらの方が広いように感じる」

 「元親殿の見立てならば確かでござろう」


 息子を失って荒れているという噂であったが、土佐の出来人の判断を尊重する。


 「しかし、開墾されているようには見えんでござるな」

 「原野って感じだね」


 久留米城からも柳川城からも、目に入ってくるのは良く耕されて整った耕地であった。

 雑草が綺麗に抜き取られ、等間隔に並んだうねが走る畑と、不規則な形で枠取られた水田が、山の斜面から何枚も何枚も続く風景である。

 それは秀包と宗茂だけでなく、その場にいた者全員に共通した思いであった。

 しかし今、眼下にあるのは、無秩序にあしが茂る川の中州のように思える。

 人の手が入っている風には見えなかった。


 「ここを開墾したらどうなるのだ?」


 誰かがふと口にした。 

 それは戦国の武将であれば当然のように考える思考であろう。

 石高が国力を示す当時、耕せる土地は田畑にするのが国を治める者の勤めである。 

 誰もが心でそう思いながらも、敢えて言葉にしなかった。


 「馬鹿を申せ! 我らは早々に帰らねばならんのだぞ!」


 自重していたのはそれが理由だ。 


 「しかし、帰るまでには兵糧が尽きるのであるから、米を作らねばならない事に変わりはあるまい?」

 「それはそうだが……」 


 帰国への道は遠い。

 蓄えている物資が尽きる日は、僅か数年後には訪れる。


 「何にせよ、付近を調べない事には始まらんぞ?」

 「全くだ」


 こうして探索隊は城を出発した。

 各陣屋に繋いでいた馬を使っての調査となる。


 一方、秀包と宗茂は川を調べに行く。

 住血吸虫でもあろうモノなら一大事だからだ。


 「見た目は普通の川だね」

 「生えている草木は違うでござるが、確かに川でござるな」

 「二人共何を言ってるの?」


 弥助が呆れた顔をする。


 「あれはヤシの木で、これはバナナ。アボカドもあるね」

 「ほほう? 食えるのでござるか?」

 「バナナは多分料理バナナだろうけど、全部食べられるよ」


 そんな弥助に構わず、目についた植物について説明した。

 流石はメキシコであるのか、熱帯に育つ果物がそこらに生えている。


 「御館様はバナナを知ってるの?!」

 「まあね」


 驚く弥助に得意げな顔をした。


 「ここは日の本と比べたら暑いよね。だから日の本とは違う果物や野菜が育つんだよ」

 「確かに季節を考えると暑いでござるな」


 まるで夏を思わせる暑さである。


 「果物はお土産を持って帰るとして、今は川を調べよう」

 「その為に来たのでござるからな」


 とは言え顕微鏡がある訳ではないので水を直接観察する事は出来ない。

 日本の住血吸虫はミヤイリガイを中間宿主とするが、ここは違うかもしれないので貝を調べるだけでは足りない。


 「なりませぬぞ秀包様!」

 

 すそを捲った秀包を景俊が止める。


 「でも、他に確かめる方法がないんだよ? 住んでいる人はいないみたいだから聞く事は出来ないし」

 「私がやります!」


 と言って景俊はジャブジャブと水の中へと入った。


 「無理しないでいいのに……」

 「拙者がやるつもりでござったのに……」

 「虫が体の中に入るんだっけ? 怖い……」


 心配げに景俊を見守る。

 暫くし、景俊が叫んだ。


 「体に変化はありませぬ!」

 「良かった!」

 「住血吸虫はいないようでござるな」

 「それでもそのまま飲む訳にはいかないけど!」


 生水の飲用は何かと危険である。

 川の調査を終え、傍に生えていたバナナなどを収穫して帰った。


 


 「どうにかしてくだせぇ!」

 「どうにかしろと言われてもどうするというのだ!」

 

 城の前では大勢の農民達が詰めかけていた。


 「何があったの?」


 見知った顔を見つけ、秀包が尋ねる。

 先頭にいたのは、小早川家の陣屋の周りの村の長であった。


 「お助け下せぇ秀包様!」 


 秀包に気づき、声を出す。

 彼にとり秀包は気さくに声を掛けてくれ、親身になって自分達の話を聞いてくれる存在である。

 また、久留米の領地経営のやり方も知っていた。


 「田んぼが大変なんでごぜぇます!」


 必死な顔で叫ぶ。


 「田んぼがどうしたの?」

 「田にも水路にも水がねぇんでごぜぇます!」

 「何だって?!」


 川に行くまでの間には、偶然にも田畑がなかったので気づかなかったようだ。


 「見に行かないと!」

 「ありがてぇ事でごぜぇます!」

 

 村人に連れられ、一番近くの水田を確認に行く。


 「水がない?!」

 「これは大変な事態でござるな!」


 その光景は日照りに遭った年を思わせた。

 水田なのに水が一切なく、乾いた土に緑の苗だけが生えている。

 水路はあったが水が全く流れていない。


 「何とかしないと!」

 「でも、どうするの?」


 弥助が問う。


 「宗っち、どうしたらいいの?」


 秀包は宗茂に聞く。

 何を思ったか宗茂は田の土を触った。


 「何をしているの?」

 「土は乾いてはおらぬので、稲が直ぐに枯れる事はないでござろう」

 「そ、そういう事!」


 宗茂の行動の意味が分かった。


 「されど緊急事態には変わり申さぬ」

 「何か方法はあるの?」


 秀包の問いに答える。


 「まずは川から水を汲み、苗が枯れないように水を掛けるしか方法がないでござろう」

 「やっぱそれしかないか!」

 

 田の数は多いので、想像するだけで大変な重労働である。


 「併せて川から水を引く作業を進めるしかないでござろうな」

 「でも、高低差があるよね?」


 低い所から水を引いて来る事は出来ない。

 川が近くても、それだけで水を引く事が可能な訳ではない。


 「水路をどこにどう引くか、今すぐ計画を練る必要がござろう」

 「御父上に言おう!」


 隆景であれば上手い事考えてくれるだろう。


 「切れ者である官兵衛殿もござるしな」


 名護屋城の縄張なわばりを担当した、城作りの名人黒田官兵衛。

 彼の手に掛かれば、こういう類は時間をおかずに為されよう。


 「水が引けない所はどうするの?」


 それでも無理な場所が出るかもしれない。


 「川の周りを早急に開墾し、水田を作って移植すれば良いのではござらんか?」

 「流石は宗っち!」

 「だったら初めから川の周りを開墾した方が早いんじゃ?」

 「そう言えばそうかも?」

 「弥助殿の言う通りでござるな」


 そうと決まれば話は早い。

 心配げに見守っていた村長に言う。


 「当面は城の人手を使って川から水を運ぶから心配しないで!」

 「ありがとうごぜぇます!」


 村長は地面に額を付けて感謝した。


 「早急に川の周りに田んぼを作るから、稲の移植をするつもりでいてね!」

 「皆に伝えます!」


 そして思い出したように秀包に尋ねる。


 「それはそうと昨日は何が起こったのでごぜぇますか? お天道様が突然陰るわ田んぼから水が消えるわ、周りの景色もおかしくなるわで、皆も不思議がっているんでごぜぇます」

 「そう言えば村の人には何も説明してなかったね……」

 

 昨日の今日なので仕方がないが、転移に巻き込まれたのは自分達だけではない事を忘れていた。


 「実はね」


 秀包は分かっている範囲を説明していった。


 「まさかそんな事が?!」


 狐に化かされたような顔で秀包を見つめる。

 

 「御免ね。田の水の事もあるから急がないと! 今は深く考えずに体を動かして!」

 「へ、へぇ!」


 促されて作業に向かう。

 秀包はそれを見送り城へと入った。 


 「御父上に報告しないとね!」

 「人の数だけは多いでござるから、開墾も直ぐでござろう」 


 20万の手があるので、手を付ければ早い筈だ。

 以上の事を隆景に報告していると外が騒がしくなった。

 何の騒ぎだと思っていると、支度を整えに陣屋に帰っていた義弘が甲冑姿で登場し、告げる。


 「豊久の奴が帰ってきた。約百名の兵がこちらに向かっている」

 「たった?!」

 「拍子抜けでござるな」


 秀包でさえそう思ったのであるから、甲冑にまでなった義弘は尚更かもしれない。

 平素と変わらぬ表情に見えたが、心なしか不満げに見えた。




 一方の探索隊は草木の茂った道なき道を進んでいた。

 

 「村があったのは確かだな」


 廃墟となった家屋を見つけ、長政が言う。

 家の中までも草が覆い、人手が入らなくなって長い事が知れる。


 「このような土地を放ったままにするとは愚かな!」


 西に向かった清正が吼えていた。

 途中で見つけた鹿を狩り、野鳥を仕留め、手柄首よろしく馬からぶら下げて進んでいたが、その顔には呆れを浮かべている。


 「イスパニア人は一体何をしているのだ?」


 それが正直な所であった。 


 「直茂様! 村がありました!」

 「何?! 村人はいるのか?」

 「いるのはいるのですが……」

 「どうした?」


 言い淀む家臣を促す。


 「どうやら痘瘡のようです」

 「何?」


 報告を受けて直茂はその場に急いだ。

 用心して町の方向は避けていたが、馬が通れるだけの道があったので、村があるのではないかと予想はしていた。

 それが的中した訳だが、まさか痘瘡が蔓延中とは思いもしない。


 「至急牛痘を持って参れ!」


 壊滅状態の村を前にし、直茂は家臣に命じた。

 これ以上の感染が広がらない為にも必要な事だ。


 「言葉が分からんのも難儀なので、宣教師も連れてな!」


※探索班の進路

挿絵(By みてみん)

田畑が移ってきて、元から生えていた草木は?との疑問はスルーして下さい。


城の位置を変更しました。

若干上流に移っています。

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