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道雪の企み

主人公のお尻の貞操が破られるお話ですので、苦手な方はご遠慮下さい。

 「話は理解した。領民の身と暮らしを案じ、我が身を犠牲にして尽くすその姿勢、誠に素晴らしい!」


 道雪は秀包の行いを手放しで褒めた。


 「じゃあ、許してもらえ」

 「それとこれとは話が別じゃ!」


 秀包の言葉をピシャリと遮る。


 「川に硫黄を撒いて貝を殺すじゃと? それでは魚も全て死に絶える! 下流の柳川は大迷惑じゃ!」

 「だ、だからそれを防ぐ方法も」

 「つべこべ抜かすでない!」

 「ご、ゴメンなさい!」


 道雪の剣幕に秀包は飛び上がる。

 幾多の修羅場を潜り抜けてきた古強者ふるつわものの迫力は凄かった。 

 一睨みされただけで縮み上がってしまいそうだ。

 

 「柳川の名が示す様に、この町は川がなければ生活が成り立たぬ! その川を硫黄で汚すじゃと? 冗談では済まぬのじゃ!」 

 「それは分ってます!」

 「分かっとらん!」


 反論する秀包を一喝する。

 

 「川の水が汚れてみろ! 日々の生活だけでなく、田畑までも大きな影響を受けるじゃろう!」

 「それはその通りですけど、生活には井戸水を使ってもらって、農閑期の水をあんまり使わない時期を狙ってやれば、田畑への影響も少ない筈です!」

 「その様な不便を他に押し付ける気か?」

 「だからこうしてお願いに来てるんです! 病気を根絶する為なんです! 僕が頭を下げて済むならいくらでも下げます!」


 秀包もスゴスゴとは引き下がれない。


 「若造に頭を下げられても何の足しにもならん!」

 「だったら何をすれば良いって言うのさ!」


 秀包は言葉遣いを忘れ、必死で食い下がる。


 「何をすれば良いのか、じゃと? 若造に何が出来るというのじゃ!」

 「そ、そりゃ何でも出来るとは言わないよ! でも、僕に出来る事なら何でもやるさ!」

 「何でもじゃと? どうせ出来もせん癖に、口だけは一人前じゃな!」

 「やってもいない内に言わないでよ!」


 強く抗議した。


 「じゃったら証明してみよ!」

 「望む所だ!」


 売り言葉に買い言葉、つい安請け合いをしてしまう。


 「その言や良し! 早速やってもらおう!」

 「分かったよ! 一体何さ?」

 「なぁに、あの者に抱かれてやれば良いのじゃ」

 「へ?」


 そう小声で言って道雪は、顎でクイっと秀包の後ろを指し示した。

 そこには離れた場所から秀包らを心配げに見つめる、道雪の娘夫婦がいる。


 「ちょっと何を言ってるのか分かんないんだけど?」


 道雪の言っている意味が理解出来なかった。 


 「舌の根も乾かぬうちに出来ぬと申すか!」

 「そうじゃなくて意味が分かんないって言ってるんだけど?」

 「頭の巡りも悪いようじゃな! 儂の娘夫婦には子が出来そうにないので、代わりに抱かれてやってくれと申しておるのじゃ」 

 

 道雪が噛み砕いて言った。


 「やっぱり意味が分かんないだけど? 第一誾千代さんは女の人でしょ? どうして僕が抱かれる側なのさ?」


 まずは素朴な疑問を述べた。


 「見れば分かろう。あ奴の心は男じゃ。お主は抱く方ではなく、抱かれる側じゃ」

 「えぇぇぇ」


 確かにおかしいなとは感じていた。

 

 「で、でも、子供が出来ないのは色んな原因があっての事だし、簡単には解決しないと思うよ? 二人共若いんだから、気長に待てばいいんじゃ?」

 「甘いのぅ!」

 「甘い?」

 「誾千代は婿殿に手を触られる事さえ嫌がっておる。こんな事で子が出来る筈がなかろう」

 「えぇぇぇ」


 不妊以前の問題ではなかろうか。


 「しかし誾千代の奴め、お主には心惹かれておる様子。この様な娘を見るのは初めてじゃ。この機会を逃せば次はないじゃろう」

 「どうして結婚相手を良く選ばなかったのさ?」

 「焦っておったし、全ては儂の不徳の致す所じゃ」

 「胸を張って言う事じゃないし……」


 自信満々に言う道雪に呆れる。


 「儂の育て方が悪かったのじゃろう」

 「育て方っていうよりは、そういう個性なんだと思うけど……」


 そんな考え方は当時には通用しない。


 「赤子を産んで育てる女の幸せをこのまま味わせてやれんと思うと、爺は死んでも死に切れん」

 「子供のいない夫婦があってもいいんじゃないの?」

 「何か言ったか?」

 「い、いえ……」


 ギロリと睨まれ、慌てて引き下がる。


 「儂の手前もあって二人共夫婦でおるが、儂が死ねばその関係も終わるじゃろう。二人を繋いでおく為にも子が必要なのじゃ」

 「養子を取ればいいんじゃ……」

 「実の子であれば言う事はなかろう」

 「それはそうなんだろうけど……」


 道雪はイラついた。


 「あれこれ言うとらんと大人しく抱かれてやれ」

 「で、でも、夫である宗茂君はどうなのさ?」

 「それは問題ない。代わりを見つけたのでな」

 「っていうか誾千代さん本人はどうなのさ? 勝手な事をと思っているんじゃないの?」


 どうにか回避しようと粘る。

 しゃらくさいと道雪が声を張り上げた。


 「誾千代! 婿殿!」

 「何だぁ親父?」

 「何でござるか?」 


 先程から道雪と秀包が言い争いかの如くしていたのを二人共心配していた。

 これ幸いとばかり、ググっと近寄る。


 「誾千代、この者をどう思う? 隠さずに正直な所を申せ!」

  

 まるで敵を斬る顔の道雪に問われ、誾千代はしばし逡巡したが、覚悟を決めたのか口を開く。


 「可愛いと思うぜ!」

 「うそぉぉぉ」


 その答えに秀包は唖然とする。

 道雪は畳みかけた。


 「今ならコヤツを抱けるのじゃが、抱くか?」

 「ちょっと! まだそうと決まった訳じゃないじゃん!」


 秀包は抗議したが道雪親子の耳には届かない。


 「親父の冗談か?」

 「冗談ではないぞ! 今ならこの者をお前の好きに出来る!」

 「好きに出来るって何さ?!」


 何だか話がどんどんおかしくなっていく。

 誾千代は秀包を見つめ、呟いた。

 

 「コイツを好きにしてもいいのか?」

 「ヒィッ!?」


 誾千代がジュルリと舌なめずりした様に思えて秀包から悲鳴が出た。

 取って食われると感じた。

 慌てて逃げ道を探す。


 「宗茂君はどうなのさ! 君のお嫁さんでしょ! こんなの可笑しいよね?」

 

 何やら心ここにあらずな感じの宗茂に不安を抱きながらも、秀包は必死で助けを求めた。


 「……誾千代だけズルいでござる……」

 「え?」


 その答えが理解出来ない。

 道雪は承知しているのか宗茂に言い放つ。


 「この際じゃから婿殿も一緒にコヤツを抱けば良い!」

 「ちょっと何言ってんの?」


 何を言っているのかまるで分からない。


 「良いのでござるか?!」

 「え?」


 宗茂の返事に耳を疑う。

 そして秀包を他所に、三人が盛り上がった。


 「婿殿はそうじゃろうと思っておったのじゃ!」 

 「流石は義父殿、慧眼にござる! 実は一目惚れでござる!」

 「奇遇だな! 俺もだ!」

 「仲の良い夫婦じゃな!」


 三人でガハハと笑い合った。

 思えば、これが初めての家族の笑いであったかもしれない。


 「この人達オカシイよ……」


 秀包は呆然として眺めた。

 道雪が高らかに宣告する。


 「そういう訳で大人しく抱かれるが良いぞ!」

 

 こうして秀包のか細い悲鳴が道雪の屋敷に響き、誾千代は秀包の子種を宿し、宗茂と秀包は義兄弟の契りを結んだ。

 



 「ようやくお戻りですか!」


 城に帰ってきた秀包を、心配げな顔の景俊が出迎えた。


 「た、ただいま……」

 「元気がございませぬな? 交渉は不首尾に終わりましたか?」

 「成功したよ……」 

 「それは良かった!」


 しかし秀包の顔は暗かった。


 「一体どうされたのですか?」

 「いや、何でもないよ……」

 「何でもない様には見えませぬが……」


 何かあったのは明らかだが、秀包が何でもないと言う以上、問い質すのも気が引けた。

 と、秀包の腰にある物に気が付いた。

 出る時には身につけていなかった太刀がある。


 「秀包様、それはどうされたのですか?」

 「もらった……」

 「もらった? 誰にです?」

 「道雪さんに……」

 「道雪に?」

 「雷切だって……」

 「何ですと!?」


 あの雷切とは信じられない。

 

 「すまんかったって、くれた……」

 「すまんかった?」


 一体柳川で何があったというのか、景俊は恐ろしくなった。

 そんな景俊に秀包が指示する。


 「僕の事はいいから、今は住血吸虫だよ……。硫黄でミヤイリガイを殺せるのか実験を始めるよ……」

 「秀包様がそう仰るのなら……」


 景俊は不承不承頷いた。

史実でも宗茂と秀包は義兄弟となっております。

誾千代と宗茂の仲は良くなかったみたいで、子供も生まれていません。


次話から天然痘問題に取り掛かります。

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