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第8話《弱者の運命》

今回は主に説明回です。

 ユウトが己の最弱ぶりを突きつけられて一週間がたった頃。


「せいッ!……せいッ!……せいッ!」


 早朝の闘技場に、威勢の良い掛け声が響き渡る。現在、ユウトは素振りの鍛錬の真っ最中だ。

 西洋風の剣を両手で持つ。中段に構え、右足を前に出しながら大きく振りかぶる。そして、左足を引きつけると同時に振り下ろす。いわゆる剣道の正面素振りである。早朝の二百回と昼食後の二百回、そして夜の二百回。合計六百回がここ一週間のユウトの一日のノルマである。


 なぜ早朝から一人で鍛錬をしているのか。それは、ここ一週間前にクラスメイト達と合同で行った訓練において、自分の無能さを痛感させられたからである。完全記憶能力はあるものの、呪文の詠唱を覚えたところで魔力の最大量が圧倒的に少ないので、すぐにバテてしまうのだ。


 エドワード騎士団長によると、この世界の魔法は強さごとに階級があり、下から、初級、中級、上級、最上級であるそうだ。この国の八割以上の人々、主に一般人が使用可能な階級は、中級までらしい。つまり、ユウトが行使可能な魔法の階級も中級まで。それより上位の魔法は、魔力消費量が己の総魔力量を上回ってしまうためである。


 魔法についてもう少し詳しく触れておこう。

実はほとんどの場合、魔法を行使するには、呪文の詠唱だけでは足りないのだ。

 魔法陣。これが必須である。

 魔法陣は、武器や鎧、手袋など、己の身につけるものに刻印するのが主流である。紙に魔法陣を書いて用意する場合は多様性に富むが、一回の使い捨てで威力も弱まる。

 詠唱により力の方向性を得た体内の魔力は、魔法陣に注ぎ込まれることによって初めて魔法となって発動する。もちろん、書き込む式は、火・水などの属性や攻撃・防御などの目的によっても違ってくる。更に、魔法の規模や複雑さが増すにつれて式も増えていくのだ。中級魔法だと直径約五センチーメートル、上級魔法だと直径約十センチメートルである。

 ただし例外もある。それは職業による適性だ。例えば職業が治癒師の場合、治癒魔法の行使に魔法陣は必要なく、呪文の詠唱のみで十分である。



「ふぅ、とりあえず朝のノルマは終わったぜ!」


 額に浮かぶ玉のような汗をタオルで拭きながら、ユウトはその場に胡座(あぐら)をかく。そしておもむろに全知全能板を取り出し、スキャンする。


 いつも通り緑の閃光がユウトの全身を包み込む。

 ボードの画面に現れたのは……


――――――――――――――――――――――――


名前:轟ユウト

性別:男

年齢:16歳

職業:研究者

魔力:15

筋力:15

体力:15

俊敏:60

通常スキル:言語理解

特殊スキル:学習


――――――――――――――――――――――――


 一週間欠かさず真面目に努力した結果である。


(あーあ、これがもしゲームの世界だったら今頃相当強くなってるはずなのにな……)

内心相当ヘコんだのは言うまでもない。


 ちなみに健吾はというと、


――――――――――――――――――――――――


名前:剛臣健吾

性別:男

年齢:17歳

職業:拳闘士

魔力:300

筋力:300

体力:300

俊敏:300

通常スキル:不屈の闘志・剛力・打撃強化・物理耐性・知覚速度2倍・魔力感知・言語理解・念話【+思念伝達】


――――――――――――――――――――――――


 エドワード騎士団長には及ばないが、騎士団の中でもトップレベルの強さに成長していた。


 他のクラスメイト達も、ここまで強くはないが似たりよったりである。どうやら、地球人は一部の例外を除いて魔法の適性がとても高いらしい。


(はぁ……なんで俺だけ……)


 地面に仰向けに寝転び、空をぼんやりと眺める。


(魔力だ。もっとたくさんの魔力が欲しい。俺は戦闘系の職業じゃないから、魔力量の絶対値が圧倒的に足りないんだ。学習のスキルは、上手く使えばとても強いはず。それなのに生かすことが出来ないんだよな〜)


 そんなことを一人で考えていると、突然表が騒がしくなった。クラスメイト達のお出ましである。


(あ、やべっ!今日は一日訓練の日だった!くぅ〜、朝ご飯食べ忘れた……)


 慌てて皆の元へ向かう。


 ユウトが走ってくるのが見えたのだろう。健吾と華音が出迎えてくれた。


「おはよう、朝っぱらからよく頑張るなぁ、お前。ほんと尊敬するぜ」

「おはよう、ユウト。毎日お疲れ様だね!」

「おう、ありがとな!努力しなきゃ強くはなれないからな!」


 そう言って笑いながら、ユウトは周りを見渡す。全員揃っているようだ。


「おはよう諸君。それでは訓練を始める」


 エドワードの号令で地獄の訓練が始まった。


 訓練は、剣技と魔法の二種類がある。

 戦闘系の職業を持つものは主に剣技を、非戦闘系の職業を持つものは魔法に重点を置いて練習するのだ。


 もちろんユウトは魔法の練習。五人ずつ一列に並び、二十五メートル先の的に攻撃魔法を当てる訓練だ。

 魔力量の少ないユウト、初級魔法も八回ほど使用するとバテてしまう。バテたら休憩。魔力の回復を待ち、また参加。これを繰り返す。

 周囲の人間のユウトを眺める視線は、どこか優越感を抱いているように思われる。しかしそれも無理もない。クラスのムードメーカーであったユウトに引け目を感じていたのに、彼は今では落ちこぼれなのだ。完全に立場が逆転してしまっているのである。


「はっ、あいつまた休むのかよ。ほんと無能じゃねぇか」


 聞こえよがしに呟く輩まで現れ出した。



 剣技の練習でも、筋力値がクラス平均の約十分の一であるユウトは一撃で吹き飛ばされてしまう。

 それを利用してか、日頃の劣等感を払拭するため、ストレスを発散させるために、剣でユウトをどこまで飛ばせるかを競う遊びにまで発展したりもした。もちろん木製の剣ではあったが。



「おい轟。ちょっとこっち来いよ。俺たち友達だろ?」


 数人のクラスメイトに囲まれ、ユウトは人目につかない場所へと連れていかれた。


「ぐあ!?」


 背後からの突然すぎる攻撃に十メートルほど吹っ飛び、背中から地面に落ちるユウト。なんとか立ち上がるが、目の前には既に振りかぶられた剣が。


「がはッ!?」


 剣は腹部に直撃し、またもや吹き飛ばされる。肺から空気が抜け、腹を抱えながら倒れる。そんなユウトを見て彼らは馬鹿笑いする。


「おい轟ぃ〜。なんでお前訓練しに来んの?お前みたいな無能は剣なんか持ってても意味無いだろうが」


「ぎゃははははは!マジ正論すぎて草〜」


「それな!こんな醜態晒すくらいなら、来ない方がマシだろ!俺なら絶対行かね〜わ〜」


「そうだろ?だから俺らが稽古してあげるんだよ!なぁ、轟?嬉しいだろ?」


 ギリッ。痛みに耐えながら歯を食いしばるユウト。


(くそっ!コイツら……!いくら反撃したくても、俺なんかの力じゃ返り討ちにあっちまう!だから……我慢だ!我慢しろ、俺!!!)


 その後も稽古という名のいじめは続く。痛みのせいでそろそろ意識が薄れてきた頃、


「あなた達!何をやってるの!!」


 怒りに満ちた女子の叫びが響く。華音である。

 ユウトの姿が見えないので探していたら、偶然見つけたのだ。


「や、柳川?俺たち、轟の練習に付き合ってただけだぜ?なぁ、みんな?」


「お、おう。そうだ!」


「轟がどうしてもって言うからよぉ。善意でやってあげたんだぜ。」


「こ、これが…………善意ですって……?」


 怒りのあまり二の句が継げない華音。いまにも、主犯の男子に掴みかかりそうである。


 しかしその時。ゴホゴホと咳き込みながら、ユウトが立ち上がった。


「華音、心配してくれてありがとう。でも、俺は大丈夫だぞ。自分の事ぐらい自分で出来る」


「で、でも……あなた……ボロボロじゃないッ!!」


 ユウトの全身は見るに堪えない状態だった。肌が露出しているところは、ほぼ全てが(あざ)で青紫に染まっている。服は所々破れており、所々出血している。全身が砂や泥で汚れ、今にも倒れそうだ。


 華音は慌ててユウトのそばに駆けつけ、その場に座らせる。


「愛の源なる天主よ。神の(いしずえ)たる慈愛の心を以て、()の者を救いたまえーー【神癒(しんゆ)】!」


 中級治癒魔法により、ユウトの全身が若葉色の光に包まれる。みるみるうちに痣が消え、出血も止まり傷口が塞がっていく。


「はは、これからは怪我したら華音に治してもらおうかな」

「もう……ユウトのばかっ!当たり前でしょ!いつでも来ていいんだから!」

「何泣いてんだよ、これくらい大丈夫だぞ?」

「な、泣いてなんかいないわよ!これは……目に砂埃が入っただけで……」

「ありがとな、華音」

「うぅ……そ、そんな、お礼なんかいらないわよ!幼なじみでしょ!」


 ユウトが軽口を叩けるほど回復してきたことに安堵する一方、これから彼がどうなるのかがとても気がかりな様子の華音。


 くるりと後ろを振り向き、突っ立っている男子達に絶対零度の視線を向ける。


「次ユウトにこんなことしたら、分かってるわね?私があなた達を殺しに行くから。それに、今回のことは健吾に必ず伝えておくわ。さぁ、分かったらさっさと私の目の前から消え失せなさいッ!!」


 男子達は愛想笑いを浮かべながらそそくさと去っていった。



「さ、練習に戻ろうぜ!」

「そ、そうね、行きましょう……」

「ん?お前、顔が赤いぞ?熱でも出したのか?」


 そう言ってユウトは華音の額に自分の額を当てる。


「わわわ!ち、ちょっと!何やってるの!?」


 盛大に慌てる華音。


「だってお前の顔……林檎みたいだぞ?」

「し、失礼ね!これでも一応女子なのに……」

「そんなこと知ってるよ。今までずーっと一緒にいたんだから」

「ずっと一緒……!?そ、そうね……」

「おう。これからも一緒だろ?」

「……もちろんよ。ふふふ」


 華音はユウトの腕に手を絡まらせる。

(こいつぅ。自分の行動に自覚が無いのが少し腹立つのよね〜。もう、ほんとに……)



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 二人が皆と集合すると、ちょうど訓練が終わり、解散するところであった。


「これで今日の訓練を終わる。ところで皆に聞いてもらいたいのだが、来週から異形との実践練習をする。安全を期すため、レベルの低い異形との戦闘を体験してもらうつもりだ。場所はエレボス鉱山。ここから東に三十分ほど歩いたところにある、王国の有する唯一の鉱山だ。必要なものはこちらで用意しておく。では、解散!」


「「「「「ありがとうございました!!」」」」」



 皆について闘技場を後にしながら、ユウトはため息とともに空を見上げる。


(異形との戦闘かぁ……下手な失敗しないと良いけど……)


読んでいただきありがとうございます。


魔法って、なかなか設定が難しいものです……


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