第6話《俺に宿ったのは雑魚スキルでした》
先の戦いで気を失ったユウト。眠っている間に、彼の頭の中では何が起きていたのでしょうか?というお話です。
ユウトは長い間眠っていた。
そして唐突に目覚める。
目を開けると、そこは何も無い真っ白な空間だった。
辺りを見回すが、視界に入ってくるのは延々と続く白い世界。下を見渡しても床が無い。
俺はどういう原理で立ってるんだ?そしてここはどこなんだ?
試しに何か喋ってみる。
「俺はユウト。みんなのヒーローだ」
…………
誰もいないとわかってはいるが、何故か場が白けたような気がしてならない。さすがに堪える。
もういいよ……俺が悪かったよ。だから誰か出てきてお願いッ!まさかここ、あの世じゃないよねッ!?
『ここはあの世ではないぞ。お前の夢の中じゃ。』
突然、女性の艶めかしい声が頭に響いた。
「な、なんだ!?お前は誰だ!」
まさか麗しき女神様なのか?
バッ!
俺が振り向くと、そこにはいた……
ジジイが。
「な、てめぇ……おいふざけんなよ。俺の夢を潰しやがって……瀕死の俺が女神様に助けてもらうっていうシナリオが台無しじゃねぇかこの野郎!どうしてくれるんだよ!?」
『す、すまぬ。儂なりのジョークだったのじゃが……首を掴むのはやめてもらえんかの?もちろん儂は神じゃから苦しくなんぞ無いが、老人に暴力はいかんぞ?』
鬱陶しいジジイにイライラが溜まる。
「だろうな!そう思ったわ!こんなしょうもない事する奴なんて神様しかいねぇもんな!!しかもおまえ、老人じゃないだろ!ていうか、人間でも無いじゃねぇか!ふざけんなッ!人生で一度しか味わえない全人類の憧れを台無しにしてくれやがって!!」
首根っこを掴むどころか、思い切り振り回すユウト。
『こら、やめいやめぃ。儂はお主に用があって会いに来たのじゃ!取り敢えず落ち着いて話を聞くのじゃ!』
「ああ、お前がそのいやらしい女声を引っ込めたら黙ってやるッ!てめぇ、つくづく俺をイラつかせるな!」
『わ、わかったのじゃ!わかったから振り回すのはやめてくれぃ!目が回る……なんてことは無いのじゃが、流石に辛いのでのう。これで良いかの?』
声が老人のものに変化した。
取り敢えず自称神の喉元から手を離すユウト。よほど興奮していたのだろう。息が上がり、目が血走っている。それでも何とか落ち着きを取り戻し、神に先を促す。
『うむ。儂はの、お主に特別なスキルを授けに来たのじゃ』
「なんだって!?スキル……だと?」
怒っていた事など頭から吹っ飛び、思わず素で聞き返すユウト。
『そうじゃ。スキルというのは、己の使用可能な魔法の系統のことじゃ。そしてスキルによって、自らの職業が決まる』
「なるほど……自分の魔法の系統か……じゃあ、職業っていうのは一体なんなんだ?」
『職業というのはの、例えば拳闘士や剣士のような戦闘職か、または治癒師や付加術師などの非戦闘職などのように、己のスキルの適職を示すものじゃ』
「なるほどな、要するに、スキルによって職業が決まるってことだな」
『その通りじゃ。先の戦いで、お主は仲間を救うため死の恐怖に打ち勝った。そしてお主の決死の覚悟が時間を稼ぎ、仲間は救われた。儂はお主に敬意を評し、特殊スキルをさずけようと思った訳じゃ』
「良かった!みんな助かったのか……で、でも!それなら健吾は?あいつも命を懸けて戦ったはずだ!何故俺だけなんだ?」
『ああ、そうじゃった。説明するのを忘れておったわい。儂、つまり神が住む世界は天上界といってな、お主たちの生活しておる世界とは位相が異なるのじゃ。したがって、儂の住む世界からお主らの世界に干渉することはほとんど叶わぬ。しかし、お主は長い間生死の境を迷っておった。これほどまでの深い眠りならば、なんとか干渉することが出来たという訳じゃ。それに、自分でも分かっておるじゃろう?リーダーに向いておるのは健吾君ではなく己自身じゃと、な』
そう言われては言葉を返すことが出来ない。たしかに俺は、自分こそがリーダーの器であると確信している。しかしそれは俺のエゴであり、本当はそんなこと無いんじゃないのか……?
『で、儂からスキルを受け取るのか、それとも辞退するのか。どうするのじゃ?先に断っておくが、特殊スキルと言うても、戦闘スキルだけではないのじゃぞ?お主は勇者になりたいそうじゃな。勇者になるためには、もちろん特殊スキルの会得が不可欠じゃ。しかし、非戦闘スキルを手にした場合、二度と勇者という職業につくことは叶わぬ』
「雑魚スキルを手にすることもあり得るってことか……」
『その通り。特殊スキルはその名の通り、特殊なだけで全く強くないスキルも存在するのじゃよ。一か八かの賭けじゃな……さて、どうする?』
しばしの沈黙。そして、俺は遂に口を開く。
「ああ、受け取ろう」
上等だ!やってやろうじゃねぇか!
「俺が最強になって皆を引っ張り、必ず地球に帰るんだ!」
『さすが、儂が見込んだだけの事はある。そのハングリー精神は見事じゃ。その想いの強さは必ず君を強くするじゃろう』
初めて神は微笑んだ。彼の頭上に、無数の数字が浮かび上がる。
『では、一から九十九までの数字の中からひとつ選び、答えるのじゃ。特殊スキルは九十九個存在する。どの番号を選べばどんなスキルが出るのかは、儂にも分からん』
俺は一瞬の躊躇もなく答える。
「もちろん、一だ!俺は最強となる男ッ!全てにおいて一番だッ!」
『ふむ。一番じゃな』
頭上に浮かぶ数字が、一を除いて消えた。
『では御開帳じゃ!お主のスキルは…………』
『“学習”……じゃ!』
「へ?」
え?なんだって?
思わず聞き返してしまった。現実を直視することが出来ない。
空中には“学習”の二文字が大きく浮かんでいる。
「……嘘、だろ?」
『……あー、これは……やってしもうたのう。非戦闘スキルじゃな。このスキルは、己が見たもの、聞いたもの、読んだものなどを記憶し、絶対に忘れないというものじゃ』
「う、うそ……嘘だぁ!!俺、勉強がこの世で一番嫌いなのにぃ……」
『し、しかしじゃな!これでもう暗記科目はバッチリじゃろう?もう記憶に困ることは無いぞ!』
「うるせぇ!俺はもう詰んだんだよ……!」
『まだ分からぬぞ?スキルは進化することが稀にあるのじゃ。本人の努力次第じゃがの。このスキルがどのように進化するのかは分からんがのう……』
必死にフォローする神。
神にフォローされる俺って一体……やばい、これは萎えるなぁ。これからどうしたらいいんだ。異世界に来て!剣と魔法のファンタジーかと思いきや!学習スキルだと!?ふざけんなぁッ!
『……じゃあ、儂はここらで帰るとしようかの……』
でも、こうなることは覚悟していた。スキルを受け取ると言ったのは俺だし、文句は言えねぇよな。頑張って、努力して、立派なスキルに進化させてやるぜ!!……え、おい待てよ。あの神今帰るとかほざいてなかったか?おい!
「おい、てめぇ勝手に帰んな!待て!!」
…………
「……あいつ絶対コロス!次に俺の顔を見た時があいつの最期だ!ゴッドスレイヤーに、俺はなるッ!」
そんなことを叫んでいると、突如空間が崩れだした。足場がなくなり、コロスコロスと連呼しながら俺は落ちていく……
そして今度こそ目覚めた。
特殊スキル“学習”。ユウトはこのスキルをどのように扱うのでしょうか。結局、勇者にはなれませんでしたね……