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第5話《テオドレド王国へようこそ》

夏休みが開けたら実力テストかぁ……つらい。


 女騎士に続いて、薫とクラスメイト達は薄暗い階段を下りて行く。負傷したユウトと健吾は二人の騎士が先に治癒師の元へと連れていった。


「紹介が遅れましたね。私はクリスティーナ・フィネル。テオドレド王国騎士団の一員であります」


「姫神薫と申します。なるほど、それであんなに強かったわけですね。しかし、何故私たちを助けてくれたのですか?」


「王国近衛隊の結界師が、我が王国領土への異形の侵入を察知したのです。私たち三人は奴を討伐するために派遣されました。すると貴方達が異形に襲われているではありませんか。私達は急遽(きゅうきょ)救助することに決めました。というか、知人でも見知らぬ人でも、襲われている人を助けないなどという選択肢は私達にはありません。王国騎士は決して民を見捨てないのです!」


 彼女の真剣な眼差しとその言葉にやっと安心したのだろうか。皆、安堵の表情を浮かべて微笑み合う。


 そんな会話をしながら階段を下りていくと、次は真っ直ぐ伸びる通路が現れた。さらに歩くこと五分。


「到着致しました」


 クリスティーナの言う通り、目の前には大きな両開きの扉が。


 彼女はスタスタと扉の方へ歩いていき、古びた取っ手に口を近づけ少し大きめの声でこう言った。


「テオドレド王国騎士、クリスティーナ・フィネル、只今帰還致しました。開門願います」


 すると、


 ゴゴゴゴゴゴゴ……


 荘厳な音を立てながら扉が開いた。


「さぁ、参りましょうか!」


 笑顔でくるっと振り向くクリスティーナ。

 彼女に連れられて、一行は扉をくぐり抜ける。


「おお……これは……」

「わぁ……すっごく綺麗……」

「素晴らしい芸術だ……」


 彼らの口から思わず感嘆のため息が洩れる。

 

 そこには、全長百メートルにも渡る、贅の程を使い尽くした大回廊があった。広大な中央回廊の両脇には、直径十メートルを超える柱が立ち並ぶ。天井はとても高く、幾何学模様の装飾があまりに美しい。随所に散りばめられたその精巧な細工は、見る者を少なからず圧倒する。そして、床の真ん中に巨大な魔法陣が描かれている。桁違いなほど豪華絢爛な空間だ。地球の誇るベルサイユ宮殿など、比較することさえおこがましいほどの優美さ。


 思わず見とれる彼らに、クリスティーナもちょっぴり自慢げだ。


「では、王の元へご案内致しますので、私に付いてきてください」


 いきなりの爆弾発言。

 ぼーっとしていた彼らは途端に現実に引き戻される。


「「「「なんだって!?王様!?」」」」


 皆一斉に叫ぶ。


 さまぁ……さまぁ……さまぁ……さまぁ……


 大回廊に彼らの叫びが虚しくこだまする……


「あ、ごめんなさい!言い忘れてましたッ!騎士団長から、念話で王の元へお連れせよと言われまして。なんでも、異世界人に会ってみたいということで……」


「ま、まじかよ……日本の首相にも会ったことないっていうのに」

「ほんとそれ。やば、めっちゃ緊張するんだけど」

「ていうか、無礼なこと言ったりしたらすぐ死刑とかあるかも……気をつけようぜ」

「ここ薫ちゃんに任せようぜ、大人だし」

「ひぇっ!?わ、私ですか?私ですよね……大人ですもんね……頑張ります……」


 教え子たちの、にっこりスマイル&サムズアップに危うく殺意が湧きかけるが、そこは教師。無理やり押さえ込む。そして、


「で、では、案内してください」


意を決して、クリスティーナを促す。


「かしこまりました。あの、ほんと、緊張なさらないでくださいね。王は見かけによらず気さくな御方です。見かけによらず……」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 王宮もまた豪華絢爛であった。先程の地下宮殿の入口に負けずとも劣らない、素晴らしい出来栄え。


 薫達は、真っ直ぐに玉座の間へと案内された。


 意匠の凝らされた大きな両開きの扉の前に着くと、両脇には直立不動の姿勢で騎士が立っていた。

 薫達の到着を大声で告げ、扉を開け放つ。


 扉をくぐると、白いカーペットが真っ直ぐに伸びており、その奥には豪華な椅子──玉座があった。座っているのは初老の男。研ぎ澄まされた覇気と威厳を纏っており、いまにも空間が破裂しそうなほどの威圧を放っている。

 王の左隣には王妃と思しき女性が、右隣には十代前半の美少年、十代後半の美少女が控えている。そして彼らの両サイドには、剣と盾を持った騎士が二十人ほど並んで佇んでいた。


 あまりの迫力に固唾を呑むクラスメイト達。


 王の口が開く。


「ようこそ、我がテオドレド王国へ。異世界人よ、歓迎する。私の名前はコルネリス・ヨルダーン・アルベルト・コニング・テオドレド。テオドレド王朝の第十三代国王である。して、お前達は何者だ?何故王国の領土へやって来た?詳しく話すがよい」


「あの、私たちは、地球という惑星からやって参りました。シーキャットという星に予定だったのですが、乗っていた宇宙艇が故障してここに不時着いたしました。ここに墜落したのは偶然で、意図があったわけではございません」


 薫が一歩前に進み出て、そう返答する。


「ふむ。それは災難であったな。異形に襲われたそうだが、何か心当たりはあるか?」

「いえ、ありません。異形と呼ばれるあの怪物についても、全く存じておりません」

「そうか。よくわかった。お前達、墜落したと言うからには食料も衣服も持っておらぬのであろう?宮殿の部屋を貸し与えよう」


「あ、ありがとうございます!」


「礼には及ばぬ。しかし、地球とやらの惑星に帰るのは厳しいのではないか?この世界には、お前達が乗ってきた宇宙艇のような高度な技術は無いぞ?」


「そ、そんな……」


 薫は肩を落としてうなだれる。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。


「え?私達家に帰れないの?」

「そんな馬鹿なことがあってたまるかよ!」

「ふざけんなっ!地球に返せよ馬鹿野郎!」

「もうおしまいだ……」


 パニックに陥る生徒達。


 そんな中、華音が床に(かかと)を叩きつけた。


 バンッ!


 突然の音にビクッとする生徒達。彼らは華音に注目する。


 広間が静まり返ったのを確認すると、彼女はおもむろに口を開いた。


「みんな、王国の人々に文句を言ってどうするの。この方々が私達を呼んだわけじゃないのよ?それに、あんた達も見たでしょ?クリスティーナ達が魔法を使ったのを。あの魔法を極めればあるいは、地球に帰ることが出来るかもしれないじゃない!嘆く暇があったら努力するのよ!」


 ──その手があったか!

 華音の発言に虚をつかれた表情になるクラスメイト達。


「よく言った。その通りだ!この世界には魔王と呼ばれる六体の異形が存在すると言われている。それぞれが独自の城や迷宮に住み着き、人の前には滅多に姿を現さないそうだ。現に私も魔王を見た事はない。しかし、王族に代々伝わる記録書には彼らの存在が記されていた。それによると、ある日突然魔王が上空に現れたそうだ。魔王が両手を天に掲げた途端、空が鼓動を始め、空間が歪んだ。そして魔王は時空の穴に飛び込み、姿を消したのだそうだ。つまり、魔王級の魔力と技術があれば、お前達は故郷に帰れるのではないかという事だ。どうだ?試してみる価値はあると思うが?」


 王の言葉に、絶望の表情だった生徒達が冷静さを取り戻し始める。彼を見る生徒達の目は希望に輝いている。


「ぜ、是非お願い致しますっ!!」


 皆を代表して薫が答える。


「よし、そうと決まれば宴じゃ!皆、宴の用意をせい!王朝始まって以来初の異世界人訪問だ。客人をもてなすのだ!」


 そう言って破顔する王。クリスティーナの言った通りであった。笑うと覇気が収まり、とても優しそうな顔になる。


 その後は王国の要人達の自己紹介がなされた。王妃はシルヴィアというらしい。先程の美少年はエドヴァルド王子、王女はレベッカという。


 皆、異世界の料理を堪能したようだ。地球の洋食と良く似ていたが、特に肉料理の場合は使われている食材が違うので、とても新鮮に感じたのだろう。

 

 王はとても寛大な御方で、衣食住だけでなく、魔法の訓練までも保障してくれるらしい。

 明日から騎士団と共に訓練だそうだ。


 さらに良いことが起きた。

 先程、健吾が目覚めたとのこと。ユウトは依然として寝たままだが、一命は取り留めたという。

 その報告に、クラスメイト達だけでなく、王国の人々も喜んだ。

 華音が泣いて喜んだのは言うまでもない。


 歓迎会が終わり解散すると、一人につき一室ずつ用意された部屋に案内された。


 初めて見る天蓋付きベッドに生徒達、特に薫は大喜び。


 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろうか、ベッドに横たわると、皆すぐに意識を落としたのであった。

読んでいただきありがとうございます。


主人公の出る幕無し……まだ寝たままです。

次回は登場するかも?


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