第4話《戦慄・異形の襲来》
夏休みの課題、本気でやればあっという間に終わってしまいました……。
ということで、やっと戦闘シーンが書けました!
五百メートルほど先に巨大な影が。
体長三メートル、長い腕と長い爪、鋭い二対の牙を持つ、赤黒く濁った目の“異形”。二足歩行で、例えるならば人間だが、大きさ、存在感共に人間とは桁違いだ。
宇宙艇の残骸を踏みつけながら、そんな化け物がこちらへゆっくりと歩いてくる、顔に獰猛な笑みが浮かべながら。
「ヤバいッ!逃げろみんな!こいつに捕まったら絶対殺されるぞ!!」
ユウトが叫ぶが、フリーズしている彼らは目の前の光景に脳の処理が追いつかないのか、身動きすらしない。その目は異形に向けられ、完全に金縛り状態である。
「先生!気をたしかに!生徒たちの目を覚ましてください!」
華音が叫び、ようやくのろのろと動き出す薫。
「は、はい……。はいッ!みんな動いて!!あいつから逃げるのですよ!」
ようやっと覚醒する。クラスメイト達の周りを駆け回り、耳元で叫んで彼らを正気に戻す。
が、時すでに遅し。クラスメイト達と異形との距離は既に三十メートルを切っている。
見かねたユウトは、親友でありこのクラス最強でもある健吾を呼ぶ。
「おい、健吾!みんなが逃げるまで時間を稼ぐぞ!なにか武器になるものはないか?」
「これでどうだ。当たったらだいぶ痛いぞ。それに先が尖ってる」
そう言って健吾が差し出したのは、鉄パイプ。そう、暴力団が持ってそうなイメージのある、あれである。ただし、爆発の影響で燃えたのだろうか、先端が鋭利に尖っている。
「健吾、お前は何も持たなくていいのか?」
「心配無用!この身体が俺の武器だ!」
「ハッ!頼もしいな!華音、生徒と薫ちゃんは頼んだぜ!」
「うん、任せて!あんた達、絶対死ぬんじゃないわよ!」
「「おう!任せろ!!」」
異形の進路に壁のごとく立ちふさがる二人。
ん?とでもいうように、異形は首を傾げる。そしてニヤリと笑うと……
「「「「「ゴアァァァアアア!!」」」」」
咆哮した。
ただそれだけで発生する尋常でない風圧。
「ぐわっ!?」
「ぬぅ!?」
思わず身体が浮き上がりそうになるのを、足を踏ん張り必死に耐える。
ユウトが慌てて顔を上げると、眼前には振りかぶられた長い腕が。
防御は間に合わない。そう判断したユウトは咄嗟
とっさ
に鉄パイプを胸の前に前に構え、衝撃に備える。
そして衝突。
なんという怪力。もはや生物ではない。拳の直撃は避けたが、異形の五本の爪によって左肩から胸まで一直線に肉が裂けた。一拍置いて、五本の筋から鮮血が飛び散る。
「ぐッ、ぐあああぁぁ!?」
灼熱の痛みが身体の中で爆発し、無意識に叫んでしまう。
ユウトの身体は血飛沫を上げながら吹き飛んでいく。そして、五メートルほど先にある大きな岩の側面に背中から思いっきり叩きつけられた。
背筋に走るあまりの痛みに呻きながらも体を起こそうとするが、電子レンジで熱せられたかのように身体の内部がグジュグジュで、まともに動くことが出来ない。
内臓も傷ついたのだろう。健吾に『俺は大丈夫だ』と伝えたいのに、口から吐き出されるのは血、血、血。
「うおおおおぉー!《剛臣
つよおみ
流体術其ノ壱・正拳突き》!!」
ユウトが異形の腕によって吹き飛ばされるその刹那、健吾は異形の後ろに回り正拳突きの構えをとった。
脇まで引かれた右拳に持てる力のすべてを注ぎ込み、裂帛の気迫と共に打ち出す。
剛臣流では初級の技だが、玄人が使うと上級並の威力が出るのだ。
拳の当たった背中を中心に、波紋状の振動が伝わる。
健吾レベルの達人が人間に使えば骨折では済まないほどの大怪我になるのだが……
振り向いた異形は笑っていた。
(まさか、効いてないのか!?俺の渾身の一撃だぞ?)
二撃目を打ち込む暇さえなかった。
異形はその場でクルッと回ると、ありえないスピードで蹴りを繰り出した。空手の達人健吾をしても知覚能力ギリギリの速度。咄嗟に腕を胸の前でクロスさせて防御するが、後退は免れない。
足を踏ん張ったまま五メートルほど後方に滑り、防御の構えを解く。
(こいつ、マジでやべぇな。ガードは出来たが、両腕とも痺れて動かねえ。む?)
ーーッ!?
突如目の前から異形の姿が……消えた。
(な、なに!?)
異形への警戒は怠っていなかった。では何故……?
ボキッ!!右腕から不吉な音が響く。いや、それだけではない。
天地がひっくり返った。
否。吹き飛ばされたのだ。異形は消えてなどいなかった。ただ、圧倒的なスピードで健吾の右隣に出現し、健吾を殴りつけたのだ。
たったそれだけである。しかし圧倒的な力の差。相手は本気を出してすらいないだろう。
思考するだけの余裕もない。尖った岩肌に叩きつけられる健吾。
隣には吐血しながらも起き上がろうとしているユウトの姿が。
しかし、健吾が真隣にいることにさえ気づいていない。おそらく意識が途切れかけているのだろう。
岩肌に削られ全身血まみれとなった健吾は、痛みを堪えて立ち上がろうとする。
しかし、その努力を嘲笑うかのように肩を踏みつける異形の赤黒い足。
血管が浮き出ており、皮膚全体がドクドクと波打っている。
「くそが!足をどけろ、このバケモンがぁ!」
渾身の力で立ち上がろうとするが、健吾の身体はピクリとも動かない。
二人を覗き込むように顔を近づける異形。
その口が耳元まで裂け、直径1メートルの円状に開く。もしも食べられたら、生きては戻れないだろう。まさに地獄への入口だ。
頭上に広がる漆黒の顎門。不快な臭気が健吾の鼻をつく。
(やばいッ!食われるッ!!)
健吾は死を覚悟した。
その瞬間。
「真理の源なる天主よ。万里を照らす紅き灯火を以て神敵を滅せよ!ーー【炎弾時雨】!」
高く澄んだ声が辺りに響き渡ったかと思うと、
ズドドドドド……!
直径一メートルの巨大な炎の球が、次々と目の前の異形に命中する。
声の元に目をやると、そこには三人の騎士が。人間なのだろうか。西洋風の鎧兜を纏っているため判別しづらいが、一人は女、残りの二人は男のようだ。
女騎士はレイピアを、男騎士達は剣を構えている。
一発目、二発目までは耐えた異形だったが、三発目からは踏ん張ることもかなわず、吹き飛ばされていった。
更にそれを追うように、幾数もの火球が異形へと殺到する。
「グオオオオオオオォォォ!!!」
攻撃が効いたのだろうか。苦悶の叫び声をあげる異形。
しかし次の瞬間には立ち上がり、迎撃体制に入る。
「「「「ゴアァァァアアア!!」」」」
先程と同じく咆哮した。いや、今度は属性が付加されているようだ。
異形の顎門が白い輝きを帯びる。異形の咆哮に合わせて輝きは増すばかり。
数秒後、チャージ完了。貫通特化の風属性である。
己を阻むあらゆる障害を切り裂く、一点集中の真空波が解き放たれる。
「恵みの源なる天主よ。神敵を阻む聖なる盾を以て我を守り給え!ーー【聖壁】!」
今度は力強さを感じさせる男の声が叫ぶ。
三人の騎士と真空波の間に、一辺約三メートルの正方形の形をした、金色に輝く結界が現れる。
二つの魔法がぶつかりあう。
なんと、拮抗している!凄まじい光と音の奔流。誰もが、異形さえもこの光景に釘付けだ。
しかし、少しずつ、結界の表面に刃が浸透し始めた。
(おいおい、このままじゃ負けちまうぞ!頑張ってくれ!!)
健吾がそう思った矢先、
「愛の源なる天主よ。その壮麗なる力を以て、我に何事にも揺るがぬ鋼のごとき加護を与え給え!ーー【防御特化】!」
三人目の男が、テンポよく呪文を唱える。
すると天から聖なる光が降り注ぎ、結界が黄金に輝きだした。そしてあっという間に回復し、真空波を押し返し始める。
(す、すげぇ。あれは魔法じゃねぇか。これなら勝てる!……でもあの女騎士、さっきから三十秒くらいずっと一人で呟いてんぞ。まさか、詠唱してるのか!?)
そう。異形に初撃を食らわせたあの女騎士。三番目の男騎士が結界を強化する前からから今に至るまで、ずっと詠唱を続けているのだ!
そして一拍の後
のち
。
「真理の源なる天主よッ!全てを灰燼に帰す紅蓮の刃を以て神敵を穿てッ!!ーー【不知火】!!」
女騎士の持つレイピアに炎が宿る。それは段々と大きくなり、刀身の十倍以上もの長さになった。
彼女は異形に向かって駆け出す。
異形もまた、女騎士に向かって駆け出す。注意が逸れたせいだろうか、その瞬間真空波は消えた。
魔法にはインターバルでもあるのだろうか、異形が魔法を使う素振りはない。
距離が十五メートルを切ったその時、女騎士はレイピアを構える。狙うは異形の首ッ!
「はぁぁぁぁァァァァァッ!!」
裂帛の気迫と共に繰り出される剣撃。まさに神速!
彼女の狙い通り、レイピア、否、紅蓮の刃は異形の首にクリーンヒット。
「グアアアアアァァァァ!!!!!」
異形の断末魔の悲鳴が響き渡る。そしてその全身を舐めるように、炎がまとわりつく。
ついに異形は灰となり、消え失せた。
三人の騎士は拳を合わせて勝利を喜び合い、直後クラスメイト達の元へと歩いて来た。
「ちょ、ちょっと!貴方達は一体誰なのですか?」
慌てて薫が止めに入るが、彼女たちはスルーし、
「怪我人が二人います。一刻を争う事態です。自己紹介は後にするとして、まずは彼らを我々の王国へ。早く治癒師に見せなければ、彼らは死んでしまいます。」
そう言って、ユウトと健吾を二人の男に運ばせ、近くにある一際大きな岩まで歩いていく。戸惑いながらもクラスメイト達がついて行くと、そこには金属製の扉が。
「さあ、我々に着いてきてください。」
読んでいただきありがとうございます。
戦闘時の描写、とても難しいですね。色々な方の小説を見ながら勉強しました。
これからも雪風だいふくをよろしくお願い致します。