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第2話《宇宙からの墜落……かと思いきや?》

『修理班から緊急連絡ッ!動力炉が完全損傷!オーバーヒートによる熱で動力制御室に火災が発生!冷却装置はもう限界です!過冷却装置の使用許可をくださ……ブツッ!……ツー……ツーツー…………』


 館内に響き渡る叫び声と(つか)の間の静寂。



「っ!おい、どういう事だこれ!?何があったんだよ!」

「ね、ねえ。今通信途中で途切れたよね。まさか今の人……」


(死んだんじゃあ……)


 それ以上は続けることが出来なかった。無言で視線を交わし合う彼らの顔は酷く青ざめている。しかしそれは至極(しごく)当然のことである。彼らの本業は学生。本来ならば、このような事態に(おちい)ることなど、万に一つも有り得ないのだ。


「き、キャァァァァーー!!」


ひとりの女子生徒があげた悲鳴を皮切りに、旅客席は地獄と化す。


「みなさーん!落ち着いてくたさい!落ち着いてッ!自分の席に座ってください!」


薫の必死の呼びかけも、騒音に呑み込まれてしまう。


 そしてついに。


 ……ギイイィィィィィィァァァァァァア!!


 凄まじい音がした。いや、人間の断末魔の悲鳴だろうか。嫌悪感を覚えずにはいられない、ひどく耳障りな音がロケット後部から響いた。


 無我夢中で叫んでいたクラスメイト達も、死を連想させる不吉な音響に黙り込む。

 

 刹那の静寂。


(この音はまさか……金属のちぎれる音!?)


「みんな、しっかり座席に捕まりなさい!シートベルトを付けて、絶対に手を離さないように!歯を食いしばりなさい!」


 薫の渾身の叫びが今度こそ生徒達の耳に届いた。彼らは急いで指示に従う。


 彼女が予期したとおり。まさに今、動力制御室を起点として宇宙艇の前部と後部が真っ二つに折れようとしていた。負荷に耐えられず、動力機関がついに爆発したようである。


 幸いなことに艦長は無事であった。彼は操縦士であり、操縦室は前方にあったのだ。

 しかし脱出ポッドは無い。宇宙艇の後部に設置されており、今の爆発で離れ離れになってしまったのだ。

 更に、遠距離通信用のアンテナも爆発の衝撃で吹き飛んだ様子。

 さて、これで緊急脱出は非常に困難になった。


 

 クラスメイト達と搭乗員を含めた七十人弱もの大人数を長期間養うことの可能な物資、特に食料は、この宇宙艇には積載されていない。

 つまり、艦長が今できる唯一のことは何処かの惑星に不時着することであった。


 データベースを用いて近くの惑星を調べる。


(地球と似た環境の惑星なら、なんでもいい!頼む!)


艦長は必死に検索を続ける。


(見つけた、これだ!)


 ついに条件に合う惑星を見つけた。


(不時着できるのならどこでも良いが、どうしたものか。操縦歴二十五年の俺でも、半分になった宇宙艇なんて操縦したことは無いぞ。恐らく運が良くても大破、運が悪ければこの船もろとも全員死ぬな)


「覚悟を決めるか」


 彼は一人きりの操縦室でそう呟いた。

 胸元のポケットから、ペンダントを取り出す。開くと、そこには若い女性と幼い女の子の写真が。


 (しばら)くして顔を上げた彼には既に迷いは無い。ガラスのように()みきった顔には表情はなく、目の前の機械群を手練(てだれ)た動きで流れるように操作していく。


 宇宙艇の全ての抵抗板が開いた。少しでも空気抵抗を大きくし、速度を落とすためだ。


 大気圏までおよそ三十秒。


 船体の先端が惑星の大気圏に突入した、いや、突入しようとしたその瞬間。船体を飲み込むほどの大きな円形の門が突然目と鼻の先に出現した。


「は?」


 艦長が反応する暇もなく、制御不可能な宇宙艇は光り輝くそれに突っ込んだ。


  とてつもない揺れだ。数百メートルはあろうかという巨人に掴まれ、そのまま地面に叩きつけられたかのようなとてつもない衝撃が船内の全ての人間を襲う。搭乗員もクラスメイト達も、舌を噛まぬように、体が吹っ飛ばぬように、歯を食いしばるので精一杯だ。


 ひたすら耐え続けること五分。揺れは突如おさまった。


 艦長が窓から外をのぞくと、目下に広がるのは延々と続く荒野。海は無い。


(ここは一体何処だ?さっきまで俺の目に映っていたのは地球によく似た青い惑星のはずだが)


 念のため高度メーターを確認すると、高度約一万八千メートル。

 

(なッ!?マズい、高度が低すぎる!早く機体を起こさなければ!)


 慌てて操縦桿を握り締める。


 一万四千……一万二千……一万を切った……八千……七千……


 高度が四千を切ったその時。操縦桿を両手で真上に引き上げる!


 両腕に膨大な圧力がかかる。なんという力の大きさ。引き戻されるッ!一瞬でも気を抜けばもう二度と引き上げることは出来ない、そんな絶体絶命の危機。 


 ピシッ。ピシピシッ。


 力を込めすぎたせいか、彼の両腕の至る所には切り傷が。大量の鮮血が操縦室を舞い、辺り一面が朱に染まる。

 

 高度は既に千メートルを切っている。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぁぁ!!!!」


 渾身の力を振り絞る。絶対に、絶対にこの手だけは離さない!


(この手を離したら彼らが死んじまうんだ!艦長の俺が全力を尽くさないでどうするッ!!耐えろ!あと少しだけでいい!もってくれよ俺の腕!!)


 地面まで残りあと数百メートル。辺りには赤土色の荒野が広がっている。着地にはもってこいだ。生徒達の目にも、眼下の光景が鮮明に見えてきた。

 残り百メートルを切った。地面はもう目の前に迫っている。


(よし、今だ!反重力装置、起動!)


やっと操縦桿から手を離し、今度は反重力装置をONに。重力場を荒野の一点に定める。ついでに旅客席の左側のドアを開く。生徒たちを墜落から逃がすためだ。


『お前らぁ!俺を信じて飛び降りろぉ!!』

船体を左に思いっきり傾ける。


「あああぁぁぁぁ死ぬうぅぅぅぅ!?」

「うわーーーんおかあさあぁぁぁぁぁん!!」


 口々に叫びながら落ちていく生徒たち。地球の約十分の一という微弱な重力に引き寄せられ、ゆっくりと降下する。意外と余裕がありそうだ。



 束の間の静寂。そして。


 天地がひっくり返った。いや、そう錯覚するほどの振動が船体を襲ったのだ。全身の骨が複雑骨折を起こすほどの衝撃と共に。


 すさまじい爆発音。燃え上がる炎。もくもくとキノコ雲が発生する。


 宇宙艇は木っ端微塵だ。跡形もない。


 爆発の瞬間、生徒たちは空中遊泳の真っ最中であった。生じた爆炎を直接浴びた訳ではないが、急激に熱せられた大気が膨張し、空気の壁となって彼らに襲いかかる。


 重力場のおかけで吹き飛ばされることはなかったが、それは彼らの意識を刈り取るには十分すぎた。


 意識の無いまま、ゆっくりと地面に吸い寄せられていくクラスメイト達。



 そして彼らは、数時間後に未知の世界で目覚めるのだ。

読んでいただきありがとうございます。


艦長のご冥福をお祈りします。

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