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第17話《死線を越えて得たもの》

約束いたしました通り、水曜日に投稿しました。

さてさて、今回はどんなお話なのでしょうか?


 姿を現したのは、体長四メートルほどの巨軀(きょく)

 驚異的なことに、二本の足で歩いている。長い腕と長い爪、鋭い二対の牙を持つ、赤黒く濁った目の異形だ。人間とよく似ている。


「お、お前は……!」


 絶句するユウト。

 冷静さを失い、後ずさる。

 無理もない。目の前に立っているのは、宇宙艇の墜落直後に対峙した()()()()だったのだから。


 ユウトは叫ぶ。


「お前はクリスティーナに殺されたはずだ!何故ここに居るッ!?」


「ククク……コノワタシガ、アンナ、コウゲキデ、シヌトオモッテイタノカ……?アレハワタシノ、コユウマホウ、ブンシン、ダ」


 異形はユウトを嘲笑う。


「なっ、お前喋れるのか!?」


「アタリマエダ。ワレヲダレト、ココロエル?マオウ【ルドヴィーク・キリアーン】サマノ、ハイカノ、リクハルド、デアルゾ?」


 異形改めリクハルドは、七等級である魔王の配下であるという。

 突然の告白に驚きを隠せないユウト。固有魔法【分身】を持つということは、相手は五等級に違いない。


 ユウトは慌てて剣を抜く。


「カンタンニハ、コロサヌ。タップリト、クルシメテヤル」


 直後、リクハルドの姿が水面(みなも)に石を投げ入れたかのように揺らいだ。

 巨大なドロドロのスライム状になると、ドポンッという音と同時に、両側から直径一メートル程の液状の球が飛び出した。


 明らかに無防備だが、生まれて初めて見る光景を前にユウトはなかなか踏み込めないでいる。


 立ち尽くすユウトの目の前で、三つのスライムが膨れ上がる。

 現れたのは三体のリクハルド。


 ユウトは全身の神経を研ぎ澄まし、いつでも動けるように爪先に力を込める。


「「「サァ、タノシイアソビノ、ハジマリダ!」」」


 三体同時にそう叫んだ瞬間、両脇二体が視界から消えた。超速移動だ。


(なんて速さだ、これじゃ目で追えない!)


 ユウトが注意を逸らしたその刹那の間に、真ん中の異形がゼロ距離まで急接近していた。


「ドコヲミテイル?」


 小馬鹿にしたような言葉と共に放たれる右脚の蹴り。

 重機で押しつぶされたかのような負荷がユウトの右脇腹を襲う。


「ぐうっ!」

 

 己の知覚速度を超えたスピードに、ユウトは為す(すべ)もない。空気を切り裂きながら吹っ飛ばされる。

 その先には尖った大岩が。

 あわや激突するという寸前、もう一体のリクハルドが間に割り込んできた。彼の右拳は既に握られている。

 切れのある重い一撃が、今度は鳩尾に叩き込まれた。

 ユウトはまたもや吹き飛ばされる。


 ベキッ!ゴキバキッ!


 肋骨の折れる音が鳴り、激烈な痛みがユウトの体内で爆発した。口からは、悲鳴ではなく、(ただ)血のみが流れ出る。

 彼が進行方向に目を向けると、案の定そこには三体目のリクハルドが立っていた。


 鼻に鋭い衝撃が走り、視界がぐらりと揺れる。

 一体に殴られ吹き飛ばされると、今度は別のリクハルドが待ち構えている。

 四発……五発……六発……七発……殴られた数を覚えていたのは二十発くらいまでだった。

 口の中が錆びた鉄の味でいっぱいになり、少しずつ意識が薄れていく……


 力の入らなくなった右腕を酷使して、やっとのことで剣を抜いたユウトは、リクハルドの分身めがけて振るおうとする。


「ククク、オソイ!ソンナコトデハ、ワタシニハ、カテンゾ?」


 振りかぶられた長い腕。五本の長い爪が月明かりに照らされて怪しく光る。


 それを見て、ユウトはふと思い出した。分身体に胸を引き裂かれたあの戦闘を。


「く、くそぉぉぉぉ!!」


 無念の咆哮。


(俺は……俺はまた負けるのか!?)



 地面と垂直に凪いだ刃はリクハルドの眼前で宙を斬る。


「ザンネンダッタナ、ヨワキモノ。サァ、シネェ!!」


 防御不可の斬撃がユウトの顔めがけて振り下ろされた。


 ──ザシュッ


 肉を裂く、身の毛のよだつような音と、宙を舞う朱色の鮮血。

 ユウトは辛うじで首をひねり、直撃はまぬがれた。しかし完全に回避することなど叶うはずもなく……


「が、がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!?」


ユウトの口から絶叫が(ほとばし)り、樹海に木霊する。

 

 地面に仰向けで叩きつけられた彼は、見るに堪えない状態であった。全身をくまなく切り傷とアザが覆い、露出している肌は無事なところを探すほうが困難なくらいである。傷口からこんこんと溢れる血液が血溜まりをつくっていることから、既に致死量を失っていることが見て取れる。


 しかし、最も酷いのは顔の部分だ。

 ユウトの顔は、鼻の骨が完全に折れ、更に、右の側頭部から左頬にかけて一直線に切り裂かれていた。リクハルドの五本の爪のうち、三本が直撃したのだ。顔を斜めに横切るように走る傷は三本。

 左目は完全に潰れ、溶けた眼球の白と血の赤が混じりあって毒々しい(くれない)を作り出している。

 辛うじで息はある様子だが、心臓の鼓動はだんだんと弱まっている。今にも止まりそうだ。


「チッ。マダ、イキテイタノカ。シブトイヤツダ」


 毒づきながらも驚きを隠せないリクハルド。自分が主人である魔王【ルドヴィーク・キリアーン】に名を与えられてから五百年。数え切れないほどの人間を殺めてきたが、こんなにしぶとい奴は生まれて初めてだ。

 しかしそれももう終わりだ。心をへし折ったのだから。


 ──では、なぜ自分の手はこんなにも震えているのだ?


(マサカ!ワタシガ、コノ、シニゾコナイニ、マケル!?ソンナコトアリエナイ!アッテタマルカ!)


 リクハルドは否定する。


(コイツヲ、ヨク、ミテミロ!シヌ、スンゼンジャナイカ!)




 ──ユウトは生と死の境をさまよっていた。


(斬られたはずなのに全く痛くねぇ……これが死ってやつか……不思議と怖くねぇもんだな)


 もう体を動かす力は残っていない。


(どうせ俺はどう足掻いても皆の足でまといだ。しかしこんな、何処だかわからないような場所で一人寂しく死ぬとは思わなかったぜ……はは……)


 諦めて目を閉じたユウトの脳裏に、二週間前の闘技場での出来事が浮かび上がる。


(ほら、俺には味方なんていないんだ……)


 しかし、あの時ユウトを救ってくれたのは華音ではなかったか?


(──ッ!?そうだ……俺にも頼れる奴らがいるじゃないか!華音。健吾。それにレベッカだって!父さんも母さんも今頃俺のことを心配してるだろう……!)


 萎えたはずの全身に謎の力が満ち溢れる。


(俺は……まだ……死ねないッ!!)

 

 カッ!

 目を見開くユウト。


「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」


 それは、この世界の誰よりも強い意志を手に入れた者の魂の叫び。

 ふらつきながら立ち上がったユウトの左目、光を失ったはずの眼窩(がんか)に蒼穹の輝きが宿る。



 彼は遂に、進化に成功したのだ。



(何だこれ……力が、力が溢れてくる!)


 ユウトは己の五体を見回す。全身傷だらけだ。


(今の俺ならなんでも出来る気がする)


 試しに回復魔法を行使してみる。華音の十八番であり、今まで何度も目にしてきたものだ。


「【快癒】」


 詠唱破棄したにも関わらず、魔法はきちんと発動した。

 ユウトは蒼いオーラに包まれる。裂けていた肉が素早く閉じ、出血も収まり始めた。


「なるほど。じゃあこれはどうだ?

【攻撃・防御・俊敏特化】最大展開!」


 噴き出す魔力が激しさを増した。その勢いは天を突かんばかり。知覚能力は約百倍にまで引き上げられ、全身の血管が強く脈打つ。


「そうか分かったぞ、このスキルの仕組みが。俺が今までに目にしたあらゆる全てのものを再現するすることが可能というわけか」


 そう呟くと、ユウトは正面を見据えた。

 視線の先にはリクハルドが。驚愕に目を見開き、一歩、また一歩と後ずさっている。


「バ、バカナ……アリエナイッ!オマエノ、ソノ、マリョクハ、イッタイナンダ!?」


 恐怖に震える体を必死に抑え、声を絞り出す。


 そんなリクハルドを見て、


「ふん。お前のおかげで進化できた。礼を言う代わりに、今から三十秒待ってやる。本気でかかってこい」


 ユウトは、傲慢不遜にも宣戦を布告をする。


 まさにこの瞬間、彼の逆襲が始まろうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

ついに!ついにこの時がやって参りました。ずっと書きたかったんですよ、このシーン。今日は満足して寝れそうです!


次の更新はいつになることやら……水曜日にはしたいですね。

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