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第12話《悪魔の囁き》

更新するの、何日ぶりでしょうか?久しぶりの投稿です。今回のお話は読み応えがあるのではないかと期待してみり。

 直下型地震であろうか。あまりの揺れの強さに、まともに立つことさえ出来ない。


 エドワードが上を見上げると、天井の岩盤に大きなヒビが……


(これはまずい!崩落でもしたら、閉じ込められるぞ!)


「【聖絶】!最大展開!」


 頭上に、白金に輝く直径十メートルの円が現れる。


 直後、負荷に耐え切れなくなった岩が崩れて天井諸共(もろとも)落ちてきた。

 聖なる壁に、凄まじい数の石片、いや岩片が降りかかる。


 しかし流石は王国騎士団長。彼の防御魔法は(いささ)かも衰えることなく、岩の雨に耐え抜いている。


 数分後、やっと轟音が収まった。


(うむ、なんとか耐えたな!)


 安心したのも(つか)の間、今度は地面のあちこちにヒビが入りだす。あっという間に広がった割れ目は、皆を深淵へと(いざな)った。


「「「ああああああああぁぁぁ……」」」


 皆で仲良く落ちていく。


 落ちていく、落ちていく……


  ん?あれ?


 落ちていく、落ちていく……


 え、これってまさか。


 落ちていく、落ちていく…………


「ま、待ってくれ!これってまさか底無し穴か!?誰か明かりを!」


 流石に寡黙を貫くことが出来なくなったユウトが叫ぶ。


「分かったわ!愛の源なる天主よ。遼遠を照らす紅き光を我に与え給え!ーー【紅炎】!」


 華音が右手を突き出すと、篭手に紅い光が灯る。

 光は足下を数百メートルほど下まで照らすが、それでも底は見えない。


「団長、この鉱山にこんなに深い洞があるなんて、知ってましたか!?」


 クラスメイトの一人、神崎(かんざき)歩花がエドワードに問いかける。


「いや、王国の領土については網羅しているつもりだったが、まさかこんな底場所があるとは……」


 どうやらエドワードも知らないらしい。



 更に落ち続けること数分。頭上の光など、とっくの昔に消えている。


(このままどこまで落ちていくのだろう……心配だ。早く上に戻らないと)


 皆が強迫観念に囚われかけていた頃、ようやっと奈落の底が姿を現した。


 ユウトが皆に呼びかける。


「おい、底が見えたぞ!団長ー、このままじゃ皆地面に衝突して肉塊になっちゃいますよ!なにか良い対処法はありますか!?」

「当たり前だ!ではまず、防御魔法を使える非戦闘員は全員【聖絶(せいぜつ)】を!急げ!」


「「「はい!恵みの源なる天主よ。我は神の使徒なりて、神敵を阻む絶対の盾と成れ!【聖絶】!!」」」


 華音を含む数名の生徒&薫が上級の防御魔法を発動させた。

 色とりどりの魔力光が(ほとばし)り、巨大な正二十面体の防御壁へと変化する。

 

「よし、良くやった!ではいくぞ!【鎖状龍(さじょうりゅう)】・【衝撃変換】!」


 エドワードの胸当てに刻印された五芒星の魔法陣が、蒼い光を放つ。

 顕現したるは一体の蒼龍。胴体があるはずの場所には鎖が連なっている。

 クラスメイトの一人一人を鎖で雁字搦(がんじがら)めにした龍は、その顎門を聖絶の内側に浸透させて皆を固定する。

 本来は敵の動きを封じ込める上級魔法なのだが、こういう使い方もあったりする。要は使い手の能力の有無によるのだ。その点、エドワードは素晴らしいと言えるだろう。

 

 そんなことをしているうちに、地面がもう目の前に迫ってきた。


 皆衝撃に備えて、歯を食いしばる。


 すんっ。


 聖絶は地面に埋まった。とても綺麗に、もう、すっぽりと。あたかもウミガメが砂浜で穴を掘り、そこに卵を産み落としたかのように。


 【衝撃変換】により、激突時の全ての衝撃を重量に変換したのだ。おかげでなんの影響も受けることなく不時着することが出来た。


「もう魔法を解除しても良いぞ。よく頑張ったな」


 エドワードの(ねぎら)いを合図に、聖絶は消滅する。後に残るのは蒼龍のみだ。

 鎖を巧妙に操り、クラスメイト全員を見事に穴から脱出させる事に成功した。



 ユウトは早速周囲の探索を始める。どうやらこの奈落は人工の崖だったらしく、すぐ横には縦五メートル、横三メートルほどの巨大な石造りの洞窟がそびえている。

 中を覗いても光が全く届かないことから、相当な長さがあるように思われる。まさに奈落の洞窟といった感じだ。


「団長、どうします?探検してみますか?」


 好奇心旺盛なユウトはエドワードに提案してみる。


「ふむ……こんな洞窟があるとは知らなんだ。どうしたものか……」

「思いっきり怪しい感じがするんですけど。ねぇ、辞めときましょうよ」


 一人の女子生徒が反対するが、


「いや、俺は行ってみたい。もしかしたら、お宝が眠ってるかもしれないじゃないか」


 と、男子生徒が反論する。


 長い討論の末、皆で探索をすることに決定した。

 ここは安全かどうか確信が持てない。したがって探索組と居残り組の二つに別れるよりも皆一緒に行動した方が良い。それに、エドワードがついていれば安心だ、という華音の意見にクラスの大多数が賛成したためである。



 さて、厳戒態勢を敷き洞窟内を歩き続けること暫し。大きなサークル状の広間がクラスメイト達の目の前に現れた。

 先頭のユウトが一歩足を踏み入れた途端、円周上に点々と設けられた炬火(きょか)に、手前から奥へと次々に炎が灯っていく。

 不安に視線を彷徨わせるクラスメイト達。

 彼ら全員が大広間に入りきったのを見計らったかのように、背後の洞窟が音を立てて崩れ落ちる。


「な、なんだと!?」


 エドワードの額に冷や汗が浮かぶ。


(これは……閉じ込められたか)


 即座に状況を把握するが、時すでに遅し。赤黒い光を放つ幾数もの小さな魔法陣が彼らを囲んで現れた。


「皆、円状に広がれ!敵を迎え撃つ!戦闘系職業を持つ者は前へ、非戦闘系の者は後ろへ!」


 エドワードの号令を聞き、生徒達は迅速に戦闘体型を整える。三週間にも及ぶ訓練の成果が今やっと発揮された。


 魔法陣は光り続け、敵はどんどん召喚されている。そろそろ百を超えそうだ。しかし幸運なことに、いずれも第二等級である。


(敵は、数は多いがそこまで強くないようだ)


 エドワードは冷静に分析する。


「後衛部隊、前衛に付加魔法を!」


「「「愛の源なる天主よ。我が右手には障害を薙ぎ払う強靭な神気を、我が左手には何事にも揺るがぬ鋼のごとき加護を与え給え!ーー【攻防特化】!

我が肉体よ。神の息吹(いぶき)を与えられし今、五体を縛る(くさび)を解き放ち天を駆けよッ!ーー【俊敏特化】!」」」


 ユウトは体が急に軽くなったのを感じた。心臓は強く脈打ち、血は勢いよく全身を駆け巡る。


 敵が何体いようと問題ない。これなら勝てる!

 

 ユウトは静かに敵を見据える。

 特殊スキル【学習】を発動。異形との戦闘訓練の詳細を呼び覚ます。

 戦闘中も休憩中も一等級の異形を観察し続けていたユウトは、ある時気づいた。奴らが何かしらの攻撃を行おうとする時、必ず特定の予備動作が生じるのだ。それは二等級も同じ。体が大きくなるだけで、基本的な動きは一等級と変わらない。


 そうこうしているうちに異形が次々と流れるように襲いかかって来た。


 先頭の一匹が宙を跳ぶ。


 ユウトはスッと腰を落とし、そのままの低姿勢で地面を蹴る。

 ありえない速度で異形に肉薄した彼は、異形が反応する間もなく剣を抜き放つ。そして、抜刀術の要領でその腹を縦横十文字に切り裂いた。


 それは、エドワードに瓜二つの妙技。

 【学習】を用いた、他人の動作を見てコピーする能力である


『お前は弱い。足でまといだ』


 皆に蔑まれ嘲笑われ続けてきたユウトであったが、努力は決して怠らなかった。


 人間が成長する上で絶対に欠かしてはいけないもの。それが努力である。

 動作の仕組みを理解したところで、己の体がその動きについていけなければ意味など無い。


 また、実戦経験を積むことも大切だ。生きるか死ぬかの真剣勝負でなければ得ることの出来ないものもある。


 今のユウトには、“努力”・“類稀(たぐいまれ)な能力”・“実戦経験”の三つの条件が揃っている。


 彼の秘められた才能は、今まさに開花しようとしていた。



 切り裂かれた異形の腹から臓物が飛び散り、辺り一面が血の紅に染まる。

 

 だが、そこにはもうユウトの姿は無い。


 彼の意識は既に二匹目の異形へと移っていた。


 二匹目は、一匹目よりも慎重であった。

 直ぐに飛びかかって来ようとはせず、ユウトの剣の間合いにも入ってこない。


 しかし睨み合いをする余裕などユウトにあるはずも無く、しびれを切らして切りかかる。

 異形は咄嗟に飛び退くが、ユウトのスピードに(かな)うはずもなく、前足を二本とも切り捨てられる。


「グオオオオォォォォ!!」


 異形の絶叫が響き渡るが、ユウトは知ったこっちゃない。


「叫ぶぐらいなら防御しろ、馬鹿」


 一切の躊躇い無しに首を刈り取る。


 崩れ落ちる異形には目もくれず、新たな敵を見つけては次から次へと倒していく。


 いつしかユウトの背後には死体の山が。


「皆、気を緩めるな!敵を制圧するんだ!」


 クラスメイト達を鼓舞しながら戦場を縦横無尽に駆け回るユウト。



 そんなユウトを後方から苦々しげに睨む(やから)がいた。

 名前を松井(まつい)俊太(しゅんた)というその男子生徒は、ユウトいじめの張本人であった。


 彼は中学の時から、いつもクラスの中心的存在であったユウトを妬ましく思っていた。そして高校に上がると、その感情はいつしか憎しみへと変わり始める。


 もしもユウトが、頭が良くてスポーツ万能、顔もカッコイイという完全無欠の存在であるのならばまだ我慢のしようもあるが、よりによって自分より劣っているはずのあいつが何故あんなにも皆の人気者なのか?

 俺の方が全てにおいてあいつに勝っている。周りの人に聞かれたならば「はぁ?」と聞き返されそうな馬鹿げた考えであるが、俊太は本気でそう思っていた。


 そんな時にこの世界にやって来た。皆に比べて平凡なユウトを見て、やっとあいつを人気者の座から引きずり落とせると考えた。


 なのに…………

 なぜあいつはあんなにも活躍しているんだ。あの落ちこぼれがッ!どうしてッ!


 俊太がそんな思いを巡らせていると、不意に背後、つまり広間の中央が赤黒く輝き出した。


 浮かび上がったのは巨大な魔法陣。


「これは……転移魔法陣!皆、絶対にこの魔法陣に触れるな!何処かに飛ばされるか分からん!危険だ!」


 エドワードの叫び声が聞こえる。


 転移……だと?

 俊太は、今も必死で奮闘しているユウトに視線を転じる。


 彼に悪魔が囁きかける。

 その顔に、どす黒い笑みが浮かんだ。



 おいおい、あの異形ども、次から次へと召喚されてるぞ。これじゃキリがない。


 ユウトは心の中で独りごちる。


 正しくその通り。あの魔法陣をどうにかしなければ、異形は永遠に湧き続けるのだ。


 切っては捨て、切っては捨てを繰り返すユウト。


 突如、その耳にエドワードの怒鳴り声が飛び込んできた。


「これは……転移魔法陣!皆、絶対にこの魔法陣に触れるな!何処かに飛ばされるか俺にも分からん!危険だ!」


 なに?それはまずい、前後を囲まれた。

 ここは一旦引き、後衛部隊と作戦を練るか。


 ユウトが中央に向かって走り始めたのと、彼に異形が飛びかかって来たのは同時だった。


 一瞬の不覚。


 なんとか避けることには成功したが、バランスを大きく崩して倒れ込む。


 なんとか起き上がり迎撃体勢を整えようとする。

 しかし、まるでその瞬間を狙ったかのように、足元付近に中級風魔法【風撃(ふうげき)】が直撃する。


 莫大な風圧に捉えられ、後衛部隊の方へと吹き飛ばされるユウト。衝撃をまともに食らったせいで、受け身をとることさえ叶わない。


 かろうじて首を回して下を見ると、眼下には巨大な魔法陣が。

 何かを喋る暇すらなく、ユウトは背中から魔法陣に激突した。


 フッ。


 突如、ユウトの姿が広間から消えた。

 

呼んでいただきありがとうございます。

はい、主人公が消えてしまいました。現在、主人公の覚醒度は序破急の破ぐらいでしょうか。

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