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第11話《見えざる恐怖》

今日は台風が我が家にやってきました。昼起きたら自転車置き場が凄い事になっていました。

「さぁ、戻るぞ、ユウト?」


 今度は背後を振り返り、エドワードが告げる。


「はいっ!団長!」


 ユウトは精一杯の誠意を込めて応える。

 それが伝わったのか、エドワードはニッコリ微笑み、そして眉をひそめた。


「全身血だらけだな。汚れを落とさねばならん。異形の体液は人体に少々害があるからな」


「げっ!マジかよ……ちょ、どうすればいいんですか?」


「俺が浄化しよう。よし、そこに立ってくれ」


 白金のオーラがエドワードの全身から溢れ出した。右手を突き出すと、魔力が手のひらに集中する。

 オーラは等身大に膨らみ、そのままユウトを包み込む。

 すると、ユウトの服や肌に染み込んでいた赤黒い血がオーラによって吸収され、あっという間に元の色を取り戻した。それに加え、血を多く被って赤く腫れていた左腕さえも次第に癒え始める。


 エドワードの創作である吸収・状態異常回復複合魔法、【天恵(てんけい)】だ。


 才能の塊であるエドワードだからこそ出来る神芸である。


 そんな二人に慌てて駆け寄る足音が二つ。


「おい、ユウト!大丈夫か?」


「こら!勝手に行ったらダメじゃない、この馬鹿ユウト!怪我はない?大丈夫なの?」


 もちろんそれは健吾と華音。よほど心配したのだろう、二人とも顔が真っ青だ。


(心配かけちまって、申し訳ないな……)


 自分のことを本気で心配してくれている二人に、ユウトはこっそり感謝する。


「おう!なんとも無いぞ!すまねぇな!」


 彼の顔は自信と野望に満ちている。どうやら、色々と吹っ切れたようだ。



「皆待たせたな、すまなかった。ではこれより、訓練を開始する!まず諸君には、パーティーを組んでもらう!一つのパーティーにつき三人だ。薫殿は俺と二人で組んでもらおう」


「えっ?団長と薫ちゃんの二人きり?ま、まさか……薫ちゃんを狙ってるのか!?」


 思わずユウトがつっこむと、


「え、まさか……」

「薫先生、団長よりも二十歳くらい年下ですよ?実はそんな趣味が……?」

「薫ちゃんを守らなければ……くっ……団長を倒すしか方法は無いのか……」


 最後の厨二野郎はほっておくとして、クラスメイト達に動揺が広がる……


「ば、馬鹿もんッ!俺にはもう妻と娘がおるわ!断じてそんな趣味ではないぞッ!いらん事を言うな、ユウト!」


 ゴンッ!


「あひぃっ!」


 エドワードの拳骨(げんこつ)がユウトの頭頂部にクリーンヒット☆


「ちょっ、団長に殴られたら冗談抜きに死にます!まじで危ないっすよ!」


 涙目になって必死に訴えるユウト。この少年は本当にトラブルメーカーである。

 クラスメイト達も一部を除き爆笑している。



「チッ……」

 

 ふと視線を感じて、ユウトは後ろを振り返る。負の感情がたっぷりと詰まった、ねばつくような不快な視線だ。今までも学校生活で感じていた視線だが、それとは比べ物にならないくらい、深くて重い。

 

(な、なんだ?今のは誰だ?)


 慌てて辺りを見回すが、その気配は既に消えていた。



 数分たち、やっと笑いが収まった頃。


「よし、皆三人ずつ分かれたな?ではこれから、俺の監督の元、異形と戦ってもらう!」


 エドワードの号令のもと、初の実践訓練が幕を開けた。


「ユウト、健吾、華音。まずはお前達が前に出ろ!」


「「「はい!!」」」


「奴らは第一等級だ。お前達にかかれば大した敵じゃない!華音、二人に付加魔法!攻撃力・防御力上昇させろ!」


「はいっ!愛の源なる天主よ。我が右手には障害を薙ぎ払う強靭な神気を、我が左手には何事にも揺るがぬ鋼のごとき加護を与え給え!ーー【攻防特化】!」


 中級の付加魔法だ。ユウトと健吾の全身を橙色のオーラが包み込む。

 と同時に、一匹の異形が飛びかかってきた。


「まずは健吾だ。皆にお手本を見せてやれ!」


「おう、任せてくれ!【剛力】!」


 全身の筋肉がグググッと盛り上がる。


 異形が健吾の間合いに入った!


「おおおおらぁ!」


 渾身の右ストレートが放たれる。音速を超えた拳が異形の顔面にクリーンヒット。


 ゴキ、グシャ、バキッ!


 拳の接面から衝撃波が発生し、異形は断末魔の悲鳴をあげる事さえ出来ず、一瞬でグシャグシャの挽肉と化した。


 ドパンッ!!


 一拍遅れて音が響く。


 生々しい音と共に飛び散る鮮血と肉片。地球では目にすることの無かったリアルなグロさと恐怖に、地面に膝をついて嘔吐する生徒も……


「健吾……流石にそこまでやれとは言っとらん。オーバーキルすぎるぞ!」

 

 健吾の優秀さに苦笑いしながらも、一応注意しておく。


「す、すみません……まさか俺がこんなに強かったなんて思わなくて……」


 異形をミンチにした張本人さえも、あまりの光景に唖然とする。

 

 しかし、なんとウザいセリフか!健吾だからこそ許されるが……


 


「まぁ、良い。次からは気をつけるのだぞ?では次、ユウト!気を緩めるなよ?」


「はいっ!」


 今度はユウトが飛び出し、剣を上段に振りかぶる。


「せいっ!」


 裂帛の気合と共に異形の真正面で振り下ろす。


「ギィィィィィィィィィィ!?」


 異形は見事に真っ二つ。断末魔の悲鳴をあげ、美しい左右対称を描いて地面に落ちる。


「「「「「おおおおお……」」」」」


 思わず感嘆の声があがる。剣を振りかぶって振り下ろすだけ。たったそれだけであるが、ユウトの迷いの無さが、その動作を完璧なものに仕上げていた。


「うむ、ユウト。素晴らしい!良くやった!」


 エドワードも賞賛するほどであったらしい。彼の顔には、若干嬉しさが滲み出ている。


「ありがとうございますッ!団長!」


 ユウトも満面の笑顔で応える。



「では次、華音!フィナーレを飾ってこい!」


「了解です!」


 華音が剣を抜き、切っ先を異形に向ける。


「真理の源なる天主よ。闇を照らす聖なる輝きを今、我に与え給え……」


 呪文の詠唱と共に黄金の輝きが増していく。


「【光芒一閃(こうぼういっせん)】!」


 そして今、ビームが放たれた!


 聖属性の中級攻撃魔法だ。


 光線は異形に突き刺さり、一瞬で焼き殺した。そして灰すらも残さず消滅させる。


 ビームはそのまま一直線に進む。更に何匹かの異形を道連れにし、百メートル先の岩にぶつかった。鼓膜が破れるかのような轟音とともに岩が粉砕される。

 そのまま他の岩を粉砕し続けること数秒後、聖なる光は消滅した。


 皆、もはや開いた口が塞がらない。エドワードでさえ、あまりの強さに若干引いている。


「な、なんということだ……華音、お前聖属性の適性があるのか?王国にも片手で数えるほどしか存在しない希少な性質であるというのに……」


「あ、この前サーチしたら、スキル【聖属性適性】が増えていたので。とりあえず使ってみました!てへっ!」


(なんだよその破壊力!?中級魔法でこれはぶっ飛んでるだろ!てか、『てへっ!』ってなんだよ!?キャラもぶっ飛んでるじゃねぇか!まさかの異世界デビューなのかッ!?なぁ、華音!?)


 ユウトは心の中で死ぬほどつっこんだが、現実でそんな事をすると本気(まじ)で半殺しにされかねないので我慢する。


 その後は、ユウト達と同じように、パーティーごとでひたすら戦闘訓練を行った。

 流石に彼らのように上手くはいかないが、クラスメイト達もなんとかこなしているようだ。


 ユウトは時折感じる視線の主を探そうとするのだが、視線を巡らせるとそれはすぐに霧散する。いい加減うんざりだ。


 訓練と休息を繰り返し、五時間ほど経った頃。


「よし、今日の訓練は終了とする!皆、よく頑張ったな!」


 エドワードの号令で、初の戦闘訓練は終わりを告げた。


「よし、王宮に帰るぞ。俺について来い!」


 彼らが訓練場を後にしようとしたその矢先。


 (かす)かに地面が振動した。


「む?これは……地震か?皆、俺の周りに集れ!」


 「皆さん!私達の所に来てください!」


 エドワードと薫の呼びかけで生徒達がぞろぞろと集まる。


「よし、皆集ま……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


 大砲のような大音響がエドワードの言葉をかき消した。

 


いや、華音強すぎ……

皆さん忘れているかもしれないので言っときますが、あいつ非戦闘員ですからね!?

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