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第10話《不屈の精神》

三日ぶりの投稿です。今回の話は書くのに疲れた……

(くっ……やばいッ!)


 慌てて剣を構ようとするユウト。しかし、腰が抜けて立つことが出来ない。

 異形は跳躍し、既にユウトの頭上へ。

 その双眸(そうぼう)は狂気の色に燃えている。

 異形の顎門が開く。現れたのは、ノコギリのような鋭い歯。しかもびっしりと二重に並んでいる。


 気が付くと異形の牙が既に目前に迫っていた。思わず顔を背ける。



 ブシャァァァァ……



 一拍の後、血が降り注いだ。ユウトの上半身が赤黒く染まる。




 しかしそれはユウトの血ではなく、異形の血であった。


 

 数秒経っても訪れない痛みを奇妙に思い、ユウトは訝しげに顔を上げる。そして、眼前の光景にまたしても目を見開いた。


 ユウトに背を向けて立つのは、王国騎士団長の証である聖剣を持つ男。身に纏う鎧は黄金に輝いている。

 すなわちエドワード。


 スキル【超加速】を用いてユウトの目の前に一瞬で現れた彼は、無音の超速袈裟斬(けさぎ)りで異形を真っ二つに切り裂いたのだ。


 エドワードは剣を鞘に収める。そして、背後を振り返らず、小さな、しかし万感の想いが込められたような声音で……


「俺の目の前では、誰も死なせない」


 そう宣言した。


 

 実はエドワードは知っていた。ユウトが特定の生徒達からいじめを受けている事、そして、健吾と華音を除くクラスメイト達の殆どがそれを見て見ぬふりしていることを。

 しかし彼はあえてユウトを助けなかった。

 何故か?

 如何なる逆境にも耐え抜く不屈の精神を持って欲しかったのだ。

 


 話は二十五年ほど遡る…………



 それはエドワードがまだ十五歳の少年であった頃。 

 テオドレド王国に古来より仕える名家“アルフォード伯爵家”の長男として生まれた彼は、幼い時より家庭教師を付けられ、勉学・武術・芸術を学ばされた。


 両親の期待に応えようと、エドワードは必死に努力した。そして、その成果は勉学と芸術において如実に発揮された。

 “文官採用試験”では一位を死守し続け、二位以下になったことは一度もなかった。

 また、絵画コンクールで最優秀賞を取った縦二メートル横四メートルの壮大な絵画は、王宮の貴賓室に飾られた。

 天賦の才を持つ者が血の(にじ)むような努力をしたのだ。他の者の追従など許す事無く、彼は常に最前線を走り続けた。


 武術を除いて……


 英俊豪傑 (えいしゅんごうけつ)かと思われたエドワードであったが、武闘の才能、特に魔法の才が周囲に比べて欠如していた。


 ここは異形の蔓延る世界。生き残るために最低限必要とされるのは、勉学の才でも芸術の才でも無く、戦闘能力である。

 いくら他の方面に優れていようと、戦えなければ意味が無い。『戦わざる者、死すべし』。当時はそんな風潮であった。

 それは名家の長男であろうと関係なく、エドワードは陰で誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)され続けた。格上の貴族に直接悪口を言うことは法律で禁じられている。だから面と向かって悪口を言われる事は決して無かったが、聡いエドワードは気がついていた。いや、誰でも気づいたであろう。嘲りと軽蔑を含んだ、粘つくようなあの視線。必要も無いのにわざわざ挨拶をしにやって来て、これぞとばかりに嘲笑する俗物たち。

 

 辛かった。苦しかった。なんども自殺を考えた。それほどまでにエドワードは追い詰められていたのだ。



 そして彼を徹底的に打ちのめしたのが、最愛なる妹の死であった。


 エドワードの妹、アンナ・アルフォード。彼女は生まれつき莫大な魔力を有していたのだが、それを制御する事が出来なかった。止まることなく湧き出る自身の魔力に身体を侵され、それが臨界点に達すると必ず暴走した。魔力を消費するには魔法を行使するしか無いのだが、生まれたての彼女に呪文の詠唱など出来る訳がない。

 自分はいつ暴走するのか、家族を傷つけはしないか、将来自分はどうなってしまうのかなどを四六時中考え戦々恐々とした日々を過ごすうちに、いつしか彼女は塞ぎ込み、家の外へ出なくなった。食事時以外は自分の部屋に籠るようになり、たまに自宅の庭を散歩するくらいであった。


 そんなある日のことである。今日は昼から武術の訓練があったのだが、エドワードは途中で水筒を忘れたことに気がつき、一度訓練を抜け出した。闘技場を出て数分後、家に辿り着く。門に手をかけようとしたその刹那、庭の方から発せられた悲鳴がエドワードの耳に突き刺さる。


(なッ!?こ、これはまさか……アンナに何かあったのかッ!?)


 エドワードの心臓が尋常でない速度で胸を打つ。急いで門を開き、庭へ駆けつける。


「アンナ!!何があった!?だいじょ……」


 エドワードはあまりの光景に言葉を失った。

 

 魔法で椅子に縛り付けられた妹。

 そして、彼女を取り囲むように立ち、口々に罵詈雑言を浴びせ続ける5人の青年達。いつもエドワードの事を馬鹿にする者達である。


 朝の稽古を終えた彼らは談笑しながらアルフォード家の前を歩いていた。そしてその時、家の敷地内から鼻歌が聞こえたのだ。それも幼女の声の、である。エドワードに妹がいるなど知らない彼らは不審に思い、塀を登り内側を覗いた。すると、なんとそこには一人の見知らぬ女の子がいたのだ。 

 伯爵も伯爵夫人も王宮で仕事だ。エドワードは先ほど闘技場で訓練をしていた。したがって家には彼女しかいないはず。そう考えた彼等は、その真偽を確かめるため庭に侵入した。あわよくば、エドワードを馬鹿にするネタをいくつか手に入れようと思ったのだ。


 突然家に侵入してきた見知らぬ男達に驚いたアンナは慌てて家の中へ逃げ込もうとしたが、一人が魔法で縛って無理やり椅子に座らせた。

 そして現在に至るのである。


「なぁ、お前。なんで家から出ないんだ?」


「ほんとだ。お前もしかして魔法使えねぇのか?公爵家の子どもなのに?」


「ぎゃはは!落ちこぼれじゃないか!兄も落ちこぼれなら妹もかよ……!」


「そりゃ傑作だ!名家の名が(すた)るぜ!」


「「「「「ぎゃははははは!!!」」」」」


 止まることのない誹謗中傷。体を直接傷つけはしない。ただ、悪口を並べ立てるだけ。しかし、言葉の暴力は時に修復不可能な傷を精神(こころ)に刻む。長年家族としか接しておらず耐性のないアンナは尚更だ。

 彼女の目は虚ろで、既に意識を手放しているように見える。


「お、お前達!何をしている!」


 大声をあげて初めて、彼らはエドワードに気がついた。慌てて後ろを振り向き、一斉に『やべっ』という表情を浮かべる。


 そんな彼らを押しのけてエドワードは妹の元へ駆け寄る。


「アンナ!大丈夫か!!僕だ。僕が助けに来たぞ!起きてくれ!頼む!」


「……ん……お、お兄ちゃん……?」


「そうだ!エドワードだよ!あぁ……こんな酷い目に……可哀想になぁ……守ってやれなくてごめんなぁ……」


「大丈夫……だよ?お兄ちゃんが助けてくれるって……私、信じてた……もん」


「ありがとう、アンナ……少し待っていてくれ、あいつらをぶっ飛ばしてくる。」


 そう言って背後を振り返ったエドワードの瞳は、静かな怒りと悲しみの炎を宿している。


 思わず後ずさる青年達。初めて見るエドワードの本気の表情に気圧されそうになるが、


「おい、ちょうどいい機会だ。いつも調子に乗ってる伯爵家の長男様に灸を据えてやろうぜ?」


「お、おい。でもよ、そんなことしたら俺ら、罰せられるぞ?」


「馬鹿野郎!娘をこんな目に合わせたんだ、あの雑魚が親に絶対チクるだろ!」


「そうだな……。どうせ罰せられるなら、エドワードをぶっ飛ばそうってことか。いいな、それ!」


「よし、決定だ」


 当時の法律では、同時に複数の罪を犯した場合、全て合わせて一回分としてカウントされていたのだ。


 五人の凶賊(きょうぞく)達は剣を抜くと、不敵な笑みを浮かべる。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 エドワードもまた剣を抜き、彼らに突撃する。



 相手は魔法も剣技も得意な貴族達、それも五人。対するエドワードは、魔法が殆ど使えないのに加えて剣技もそこまで得意ではなく、たったの一人である。


「はっはっは!さぁいくぜ!覚悟しろや!」


「おぉら!一発入れるぜ!!」


 あっという間に拘束魔法で動きを封じられ、剣の柄でみぞおちを思い切り殴られる。


「ぐっ、ぐはぁぁ……!?」


 口から血を吐き吹っ飛ぶエドワード。


「お、お兄ちゃんッ!!」


 アンナの悲痛な叫び声が響き渡る。


 彼らはエドワードを引きずり、アンナの目の前でひたすら殴ったり蹴ったりを繰り返した。


「あ、あぁ……ぁぁぁああああああ!!!!!」


 数分後、突如アンナに異変が現れた。

 白目を向き、体はぐったりしているのに、身体が纏う魔力のオーラが凄まじい。

 暴走である。

 彼らの精神攻撃に加え、眼前で愛する兄が致死級の暴力を受けている。幼い彼女の精神を崩壊させるには、それだけで十分であった。


 庭全体を覆う禍々しいオーラ。今までとは暴走の格が違う。


「あああああぁぁぁぁぁ…………!!」


 耳をつんざく悲鳴があたりに響く。

 オーラがどんどん増大し、遂に家全体が赤黒く輝く魔力に覆われた。


 ゴォォォォォォォォォォォォォォォォォ……


 魔力の渦が発生した。それはとてつもないスピードで一点に集中し、解き放たれる。


 一瞬の静寂。そして世界が歪んだ。




「……ん、んぁ?」


 エドワードは地面に倒れていた。目を覚ました彼はなんとか起き上がり、辺りを見渡す。辺り一面瓦礫と煙で覆われており、見通しがきかない。


(ッ!?アンナは!アンナはどこだ?大丈夫なのか?)


 粉塵の嵐の中を、手探りで必死に探し回る。

 そして煙が収まってきた頃、エドワードは遂に彼女を見つけた。


 アンナは既に事切れていた。


 魔力のあまりの強大さに身体が耐えられなかったのだろう、全身から血を流し仰向けに倒れている彼女の目には既に光はなく、虚ろな目がただ空を見つめていた。


(そ、そんな馬鹿な……アンナが……し、死ぬはずがない!嘘だ。嘘だあぁぁぁ!!!)


「アンナ…………う、うあぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 声にならない叫びが、途切れることなく溢れ出る。エドワードの悲しみは想像を絶するものだった。血の涙を流す彼はまさに鬼神。


 ゴォッ!


 エドワードの全身から白金のオーラが溢れ出る。常人では想像することも叶わぬほどの絶大なパワー。研ぎ澄まされた気迫。


 妹を救うことの出来なかった己の虚弱さ、不甲斐なさ、そして彼女を失った悲しみと絶望に心の芯まで打ちのめされた彼は、進化を遂げた。


 『全ての人間を救いたい。もう誰も自分の前で死なせはしない!』


 毅然(きぜん)たるエドワードの想いが、内に秘めたる凄まじい能力、特殊スキルを解放したのだ。


 その名も【守護者】。


────────────────────────


 自らが仲間だと認識した全生物(クリーチャー)に天の加護を与え、その数にもよるが、全てのステータスを約二倍から五倍に上昇させる。

 回復魔法・防御魔法を呪文の詠唱無しで最大展開することが可能。その際、 魔力の消費量は通常の半分である。

 また、仲間の受けるダメージを任意で一手に引き受けることが可能だ。


────────────────────────



 身体の内から溢れんばかりに湧き出る聖なる魔力にエドワードが驚くことは無かった。

 アンナからの祝福であるに違いない。そう信じて疑わなかった。



 エドワードは、壁に押しつ潰され瀕死の重傷を負っていた五人を回復させると、役所につきだした。彼らはアンナの仇であり、生かすか殺すか悩みに悩んだエドワードであったが、葛藤に苦しんだ後、『誰も殺させない』という信念のもとに生かすことに決めた。


 彼らは貴族評議会で裁かれ、貴族の地位を追われることになった。

 また、法律も改正されて、同時に罪を犯した場合はその罪の数全てをカウントされることになった。


 妹の死。この出来事が運命の交差点となり、エドワードの以降の生き様を決定づけることになる……


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 この全てが、エドワードの“思念伝達”によりユウトの頭に直接伝わった。


(エドワード騎士団長。あんたは……なんて……なんて強いんだッ!俺も……俺も強くなりたい!貴方のように!)

読んでいただきありがとうございます。

特殊スキル【守護者】。エドワード騎士団長に相応しいスキルだと思います。これからも活躍してくれよっ!

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