第9話《エレボス鉱山》
お久しぶりです。テストが終わったので、中断していた執筆活動を再開致しました。
エドワード騎士団長の宣言通り、ユウト達はエレボス鉱山の入口へとやって来た。
入口は巨大な岩を削って造られており、とても広い。松明がたくさん立て掛けてあるので、地下にしては明るく感じられる。
中へと進むと、何本ものトンネルが目に飛び込んで来た。どうやら、鉱石の種類によって採掘場所が異なるらしい。
「我々の行き先はこっちだ。この先の洞窟は、エレボス鉱山で唯一異形が出没する区域だ」
そう言ってエドワードが指さしたのは、一際大きなトンネル。入口付近に看板が立てられており、『騎士見習い専用。安心してください、ザコいですよ』と書かれてある。
「くすくす……そんなにザコいのなら安心だわ」
「ははっ、楽しみだな。俺が一騎当千してやんよ!」
気の利いた看板のおかげで緊張がほぐれた様子のクラスメイト達。実践練習と聞いて、実は少し不安に思っていたのである。
「心配はいらんぞ。ここに蔓延っている奴らは、魔法は使わずに武器だけでも倒すことが出来るレベルだ。お前達のスペックは我らとは次元が違う。だから大丈夫な……はずだが……」
安心しろとは言うものの、どうも歯切れが悪い。エドワードの視線の先にはユウトが。つられてクラスメイト達も振り向く。皆に好奇心と侮蔑の視線を向けられ、ユウトは顔を赤くして俯いてしまった。
「では、進もうか。道中で、異形の種類について話そう。ついて来い!」
近くに置いてあった松明を掲げ、エドワードが皆を先導する。
(くっそぅ。今に見てろ、あの筋肉野郎!俺が異形を倒しまくってヒーローになってやるからな!)
心の中でエドワードを罵りながら、ユウトは最後尾をついていく。
エドワードに話によると、この世界には多様な種類の異形が生息しているらしい。魔力量や知能の発達、固有魔法の有無などによって七つの階級に分類されている。
“一等級”は最下層の異形であり、粗野で凶暴な性格をしている者が多い。また知性が低く、彼らの殆どは本能のままに行動するので楽に討伐することが出来る。魔法を使用することは出来ず、もし襲われても滅多に死ぬことは無い。
ちなみに、今回の実戦訓練で倒すのもこの一等級だ。
“二等級”の異形は言わば一等級の上位互換である。その性格は残忍で凶暴、しかし魔法を使うことは滅多に無い。おそらく二等級の中でも上位の異形のみが使用可能なのだろう。
“三等級”ともなってくると、魔法を使うようになる。
三等級以上の異形達は知能が発達しており、彼らの思考回路・思考レベルは人間とよく似ている。対人戦では戦略を駆使して挑んでくるという。使用可能な魔法の種類も豊富なので、なかなか厄介な相手だ。
“四等級”はかなり強力な異形で、個体によっては上級魔法に匹敵する強力な魔法を行使することが出来る。王国騎士団の中でも上位の騎士達がパーティーを組んでやっと倒せるレベルである。
“五等級”は、滅多に人前に姿を見せることのない孤高の神獣達である。その強さたるや人間にはとても太刀打ちできないという。テオドレド王国の長い歴史においても、確認されているのは僅か数件のみ。
ちなみに、五等級以上の異形達は“固有魔法”が使える。
固有魔法とは、異形が個体ごとに持つ特殊な魔法のことである。同じ等級の異形でもそれぞれ異なり、目撃情報は五種類のみ。ちなみにその五つは、【毒霧】・【怒髪天】・【溶岩流】・【自動回復】・【速度強化】である。
“六等級”には、異形という名は相応しくないというのがエドワードの見解だ。彼らは実体の無い超自然的な存在で、【地・水・火・風】の四大元素から成る精霊である。彼らの固有魔法は他の魔法とは威力・効果の格が違うので、精霊魔法と呼ばれている。過去には人類と手を組んで異形と戦ったこともあるが、今では人間の前に滅多に姿を見せることは無くなったという謎の存在である。
“七等級”、別名“魔王級”の彼らは、もはや怪物を通り越して天災である。ひとたび目覚めれば、一国、いや、一大陸を混乱の渦に陥れるほどの力を持つ者達。彼らに寿命は無い。名前も無い。あるのは、己が敵と認識した者を塵すら残さず滅するその強さと、彼らに忠誠を誓う配下の異形達のみである。そして現在確認されている魔王は六人である…………
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「よし、着いたぞ。ここからが本番だ。覚悟は出来ているか?」
エドワードの問いに、不敵な笑みで応えるクラスメイト達。覚悟など、とっくに決まっている。
「では、ライトアップだ!愛の源なる天主よ。遼遠を照らす紅き光を我に与え給え!ーー【紅炎】!」
彼らの頭上、正確には天井の岩に描かれた魔法陣が突然赤く光り始めた。暗闇での視界を確保するための補助魔法だ。
ユウト達があたりを見渡すと、奥の方で蜥蜴のような生き物が蠢いているのが分かる。音からして複数いるようだ。
「何がいるんだ?」
好奇心旺盛ボーイ・ユウトが不意にそちらへ歩き出した。
「ば、馬鹿者ッ!戻ってこんか!」
慌ててエドワードが制止の言葉をかけるが、彼に敵対感情しか持っていないユウトは無視してずんずん進んでいく。
そしてユウトは見つけた。闇に光る幾数もの紅を。
生まれて初めて感じた殺気。研ぎ澄まされた威圧は知覚速度を何倍にも引き伸ばし、たったの一秒が千秒ほどに感じられる。
(あ、やばい。俺殺される)
心の中でそう呟いた直後、恐怖が遅れてやって来た。
やばい。どうしよう。どうしたら良い?
―あいつらを撃退しろ!殺せ!
どうやって?
―魔法に決まってるだろ!
でも、呪文が思い出せないッ
―なんのための完全記憶能力だ!使えねぇな!
ち、違う!俺がパニックに陥ってるせいだ!
―それなら早く落ち着け。さもないとお前、死ぬぞ?
ユウトが自問自答を繰り返していると、目の前の異形が突如後ろ足で立ち上がった。
「「ゴアァァァァァァ!!」」
近距離で放たれた音の波が耳を直撃。脳まで揺さぶられ、まともに思考することが出来ない。
思わず尻餅をついたユウトの顔が、影で黒く染まる。
異形が襲いかかってきたのだ!!
読んでいただきありがとうございます。
魔王級はマジでパネェっす。