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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編集

花粉症の者たちよ、戦え!


 年々、罹患率の上がっていく花粉症。そんな中で開発されていく治療薬。


 そんな中で唐突に花粉症の真実が明らかになった。

 20XX年の花粉症が大々的に猛威を振るい始める頃にその時は突然に訪れた。


 ーー大森林の暴威の幕開けであった。



 花粉症。それはかつてはアレルギー性の鼻炎や目の症状などとされてきた。決してそれは間違ってはいなかったが、正しいとも言い切れなかったのである。

 それは花粉ではなく、花粉に偽装した木々達が放った刺客であったからだ。植物にも明確な意識があり、かつては人類と共に世界を過ごしてきた。だが、近年による人間の自然への無配慮さが、彼ら木々を怒らせた。


 ただし木々としても無駄に皆殺しなどする気はなく、無血で人類の横暴さを終わらせようと画策したのが始まりだった。花粉に偽装して体内に潜り込ませ、人類を気付かないうちに支配する。それが木々の初期の計画だった。

 だが、そこで木々にとっては予想外の事が発生した。人類の中にそれを無自覚に感じ取り、アレルギー反応として体外へと排出しようとする者が現れたからである。木々は焦り、花粉に偽装した刺客を増やしていく。気付かれないように、だんだんと時間をかけて……。


 しかし計画とはそのまま素直には進ませて貰えないものだ。木々が刺客を増やすに従い、花粉症を罹患する者が増えていったのである。木々は大いに焦った。人は侮れないからこそ、気付かれずに事を終わらせなければならなかった。だが、このまま進めていけばいずれ人間の誰かに気付かれる。


 そこで新たな計画を立てていく事にした。表面上の治療薬のみの開発を既に支配した人間を使って行う事にしたのだ。あくまでも表面上はアレルギー反応であり、酷いくしゃみや鼻水、目の痒みなどは只々辛いだけなのだ。その治療薬を拒む者など居ないであろう。

 治療薬で症状を抑え込んだふりをして、体外に排出されない様にする。それが新たな計画だったのだ。



 半ば成功したように思われた。それでも花粉症の根絶という事にはならず、人類の1%は花粉症を患ったままとなってしまった。そこで木々は無血で人間の支配は諦める事にした。


 そして既に支配した99%の人間を操って、残り1%の人類を駆逐することにしたのである。


 その始まりは酷いものであった。各国の代表者を乗っ取り、こう宣言したのである。


「あー、全世界の花粉症の諸君、君達は私たち植物にとって非常に危険な存在だ。あー、この肉体の持ち主は君達人類の代表者の一人だったね? 見ての通り、私たち植物のモノとなった。しかし花粉症の君達にはそれが出来ない。だからこれから君達には絶滅してもらう事にした」


 そんな演説を前に、花粉症を患っている人達は困惑する者、怒り狂う者、絶望する者と様々な人がいた。


「ふざけんじゃねぇ! ただでさえ花粉症で辛いってのにそれを理由に死ねってか!?」


 街頭の大画面に映されたその演説映像を見て怒り狂った男が叫ぶ。花粉症で鼻が詰まっているせいか、鼻声であるのがしまらない。


「そうだよ?」「そうよ?」「さっき言ってたじゃないか?」「早く死んで?」「死ねよ、お前!」「早く殺しましょう」「そうね、そうしましょう」「死ね」「殺そう」「邪魔なの」「ねぇ、早く」……


「ひっ!? 一体なんだってんだよ!?」


 周囲にいた人間が感情の籠もらない目で男に視線を集めて、口々に呟いていく。花粉症の者は死ねと……。既に正気はなく、彼らは植物の支配下にあったのだ。

 突然のその出来事に男は逃げる事も出来ずに息絶える事となった。そして、同様の事件は世界中で起こったのであった。




 それから半年が経つ。

 生き残った花粉症の者たちは地下に潜って逃げ延び、組織を作り反撃の術を模索していた。


 半年間で分かったことは、花粉症の一番酷い春が一番危険な事。花粉症でない者はもはや人間と思わないほうがいいという事。そして、自分達が人類が人類として意思を残す最後の者であるという事だ。

 花粉症の人類が絶滅すれば、その先にあるのは木々に支配された世界。そこに人類の意思はない。こういう事態を引き起こしたのは人類の傲慢さ故であろうが、それでも一方的に殺される事を許容する事など出来はしない。


 花粉症の者たちは、様々な分野の人間がいた。戦闘に長けた軍人や研究に長けた学者、漁師や畜産農家、農業の専門家、そして普通の一般人や子供達。それぞれの知識を出し合い、結論付ける。

 このまま反撃に出なければ、次の春には花粉症の者たちは絶滅すると……。


 作戦を立案するが、敵は花粉症ではない人間ではなく、それを操る木々である。おそらく木々を全滅させなければどうにもならないだろう。だが、それでも絶滅したい者などいなかった。


 だからこそ、その後のことがどうなるかわからず、非常に困難な道が待ち受けているという事も理解した上でその作戦は実行されることになった。


 あると特定の地域だけでもいいから、春までに草木一本残らない植物の殲滅をする事を……。


 決行は冬。それがタイムリミットだ。

 おそらく木々が寒さに弱っているために、花粉症でない人の支配も弱まっている。それでも正常な状態ではなく、同じ人間同士でも戦う事になるだろう。花粉症であるか、そうでないかの違いだけで……。



 やがて秋が終わり、冬が訪れた。

 作戦の決行がこれから始まる。人類の意思を奪い返す為の木々との全面戦争が始まるのだ。


「これより、作戦を決行する! 目標は日本の植物の殲滅及び、支配下にある人々の解放だ!」


 リーダーとなった軍人の男が目的を告げていく。花粉症の者たちは固唾を飲んで、その言葉に耳を傾けている。これからが人類がどうなるかの分水嶺だ。否が応でも緊張していくものだ。


「花粉症の者たちよ、戦え! そして我ら人類の意思を取り戻すぞ!」

『おぉ!』


 そうして作戦は始まった。

 勝っても負けても、行き着く先は地獄かもしれない。

 負ければ死に、勝っても花粉症でない人々は木々を全滅させた花粉症の者たちを許さないだろう。


 どうせ花粉症の者たちの気持ちなど、支配されていた者たちにはわかるまい。だが、それでも花粉症の者たちは戦う事を選んだのであった。



彼らが勝ったのか、負けたのかは想像にお任せします。


この時期は花粉症って辛いんでよね。

ってことで花粉症を題材にして書いてみました。

予想以上にヤバい環境になってしまいましたけども……。

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