なんだこんなもんか
遂に重労働の日がやって来た。
前日に寸法を測り、拵えた燕尾服に腕を通してみる。
服は素人の俺でもわかる程質感が良く、金がかかっている。
確か柚木の母親の逸見は俺に対して批判的だった気がしたが、この服を用意すると言う事はなんの狙いがあるんだ?思い切って聞いてみた。
「なんでこの服を?」
「執事とは言え、立派な貴族の1員だ。ここで安っぽい服なぞ頼んだら貴族としての敷居が落ちる。それだけは避けたいからな。」
「だからってこの服は流石に高すぎるんじゃ?」
「じゃあ質問だ。お前は謁見する時にあまり見られないからと靴下は安物のボロボロで穴が空いてる靴下にするか?」
「いえ、しません。」
「どうしてしないんだ?」
「もしそんな靴下を履いている事がバレたらあまり良い目で見られません。もしかしたら不敬罪もありえます。それに、王様相手にそんな靴下を履いていると考えたらバレるのが怖くてまともに話せません。」
「つまりそういう事だ。見られるのが少ないと思っても、絶対に見られない事はない。もし見られたとして、安物の服で働いていたら奥様や旦那様の評価が下がる。俺らみたいな部下がそんな事で評価を落としたら万死に値するからな。」
予想以上にここはしっかりと育てられているらしい。
よく考えられているな。
そして、玄関前の少し開けた所に執事や庭師、料理人が集まり、朝礼が始まった。
点呼、そして本日の掃除場所の割り当てや朝昼晩の献立を確認し、これから労働が始まる。
起床が6時で、朝礼が6時15分スタートのため、中々起きるのがきつい。
そして、6時半に、掃除や朝食の支度が始まる。
そして7時に如月家の朝食が始まる。
本日俺に割り当てられたのは庭師の手伝いだけだ。
庭師が切り落とした枝を拾い、一部分に集める。
そしてある程度集まったら1km近く離れている焼却炉に入れて、焼く。そしてまた1km近くある道を歩く。
一見シンプルかつハードそうだか、実際そうでもない。庭師達は驚愕していたが、俺にはそうでもない。何往復も何往復もする。おかげで切った枝がすぐに綺麗になり、庭師は「いつもより早く終わるぞ!」と目を少年のように光らせ、枝を切っていく。
そして遂に一つ目の狙いがここで開花する。
俺がまだ幼いのが相まって、庭師を初め色んな人から支援とは名ばかりのお小遣いを貰う。
庭師以外には少し歳の行った使用人や、メイドがチョコレートや金銭をくれる。
息子や孫みたいに扱ってくれるので、今度おねだりしてみよう。
このまま働いていれば普通に買ってもらえるだろうな。
今日の仕事はこれで終わりだった。
いそいそと働き、走り回っていたらあっという間に日が沈み、夕方になっていた。
だが俺の狙いはここでは止まらない。
ぐったりしている庭師達に「お疲れ様でした。」と労う言葉と共に、お小遣いがてら貰ったチョコレートの一部を配って行く。
疲れたが、早く終わり、その上に甘い物まで渡されたら感涙にむせぶだろう。
そしていつか仕事が休みの日や、偶然遭遇した日には、「お礼」と行って一部のチョコレート以上のプレゼントをくれる。
そうした布石を打ち、今日の仕事は終わる。
そうして部屋に入る前に呼び止められ、夜の予定を聞かされる。
風呂に入ったり、飯を食う時間だ。そして消灯時間まである。そして2時間交代制で奥様や旦那様やお嬢様。もとい逸見と屋露や柚木の護衛がある。それはもう既に皆が慣れていて、急に1人が入ったら狂ってしまうと言う事で、これは抜きになった。
そうやって生活して行き、数日。いつも通りに枝を持ち、焼却炉へ走っていると、頭に固くて思い「何か」が当たった。
そしてそのまま前のめりに倒れ、ムクっと起き上がると、服についた土を払い、「何か」を確認する。
それは真っ黒な卵だった。
「?なんだこれ。」
そう言って拾おうとすると、一瞬心臓に鋭い痛みが走った。
そして心臓を確認すると、胸部に謎の紋章が入っていた。
真っ黒な卵を焼却炉付近に隠すと、また戻る。そしてトイレと称して真っ黒な卵を持ち、裏口から入り、自分のベッドの中にしまう。
この卵の中身を知らないまま、夜になり、ベッド以外温めるところがないため、抱えて寝る事にした。
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