第一話 ネルピア村
『契約は続いている。忘れているはずないよな?オレ、精霊との約束。』
地面から黒い砂が湧き上がって形成する浮遊物、その黒い精霊が話す。
それだけは聞き間違えることなく聞こえた。黒い精霊がそう言うのだ。その物体が何なのかということ、それは疑問に思うことは不思議と沸くことはなかった。
ただ湧き上がってくるのは。
――契約?約束?
それだけが引っかかり、考えるほど頭痛が酷くなるばかりだ。フラフラと身体が上手く保てずにいるが視界のモヤが引いていく。視界が晴れていく。
黒い精霊の表情が何となくわかる。笑っているのだ。黒い物体の裂けている口に、目が半月になっている。
『オイ、大丈夫か?ヨチヨチと赤ん坊みたいだな。少し歩いてみろ』
頭が重い。頭の上に重石が乗っているかのように、頭が垂れる。歩行は辛うじて行えるが、一歩二歩が限界。膝に手をつき息を荒く吐くことで落ち着けるかと思ったのだが、そうはいかなかった。体が言うことを聞かず、重い体は今にも倒れてしまいそうだ。
『急にどうしたんだ?ホラ、元気出せよ?』
黒い精霊が肩を叩くとあらゆる症状が無くなっているのを感じる。重かった体も阻まれていた視界も鮮明に映るようになっている。回りは、きっとここは村の外れだろうか。奥に見えるのは民家の屋根が見える。牧場には牛が歩いている。厩舎もあり、馬が綱で繋がれているのが見える。見渡すと何一つおかしいことはないが、おかしいことは目の前にいるのは黒い浮遊物に目と口がついていることだけなはずだが気にすることはなかった。
『こっちだぜ。ついてこいよ、ホラ』
黒い精霊は案内をしてくれるようだ。黒い精霊についていくと、やはり村だったようだ。さまざまな色をしている民家の屋根に、ニワトリが歩いていたり、主人と歩く牛や馬がいる。この村には似合わない派手な格好をしている人もいる。通行人はこちらを気にしておらず、黒い精霊のことを見たりしない。時々黒い精霊は付いてきてるか確認するために、こちらを振り向くことがあった。それに気にせずに、案内されている道中は辺りを見渡していた。
坂道を通るとカカシが並ぶ広場に出た、そこには頭の天辺は髪がなく側面だけに髪が生えている老人が座っているのを確認できる。
『きっと村長だから話してみろ。マア、「冒険者」といえば歓迎されるだろう』
と言い、地面に沈んでいってしまった。普通は驚くところだが、動じなかった。それは見慣れた不思議な感覚だった。
「こんにちは。ここに来るのは初めてですかな?私はここの村長でしてねえ。何の御用ですかな?」
話しかける前に村長のほうから話しかけてきた。表情は笑顔で、そう言ってきたあとお茶を啜っている。聞きたいことは沢山あるけど、何から話せばいいのか。黒い精霊は冒険者を自称すると歓迎されると言っていたから従うことにした。
「はじめまして。冒険をしている者ですが、」
「冒険者さまでしたか!よくぞ来られましたなあ。ハッハッハ。ようこそ、ネルピア村へ。ここは木材生産を盛んに行っています。」
ここはネルピア村というらしい。村長から話を聞くには、ネルピア村では以前から品質の高い木材が生産されてきましたが、最近は軍需が高まってきており更に品質の高い木材が求められるようになった。そして各地で戦争が勃発するため、木材を使った兵器の需要が急上昇している。ネルピア村の周辺から取れる木材ではケルトの木が最高品質らしい。
ケルトというのは、木のような木々が生い茂る体をした生物。その木(毛皮)はとても丈夫で、どの木材よりも強度が優れており高価で買い取りされている。
ここで得た情報は、ケルトという生物、各地で戦争が勃発しているということ、戦争により兵器の需要が高まっているということだ。
『アーハッハハ。どこもかしこも物騒な世の中だナ。』
地面から黒い砂が舞い上がり塊を形成する、その浮遊する黒い物体に目と口が現れる。目の前にこんな不思議な物体が現れたというのに村長は驚かず。黒い精霊は村長の周りをグルグル回っている。
「最近は木材を実際に見るために訪れる貴族さま達や、出稼ぎにきたスケルガ族もいますなあ。で、冒険者さんは何のためにこの村へ?」
グルグル回る浮遊物を見ていたら村長が話しかけてきた。冒険者だから何かと理由が必要か。これは何と答えるべきか、旅行でもないし、仕事でもないし、その木材関係でもない。深く考えるべきではない、きっと不安がられる。なんと理由をつけようか。
一瞬間できたことに黒い精霊は『ッハッハハ』と笑いながら未だに村長の周りをグルグル回っている。なんかむかつくな。 息を深く吸い込み、ゆっくりと息を吐く。
「記憶を探すためです。」