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賢者の日記

 

 ――○月×日


 長い時を生きていると、どうも記憶というのが曖昧になりそうだ。


 そう思った俺は、自分の生い立ちをこの日記に記していこうと思った。


 毎日は俺の性格からして無理だと思うけど、印象に残った出来事は記していこう。たまに書くくらいなら三日坊主の俺でもできそうだわ。



 ――○月×日


 日本で死んだ俺は、女神様と出会った。いや、マジで本当だってば。


 踊り子みたいな露出の多い女神で凄く美人だった。


 そんな女神様が、剣と魔法のファンタジー世界に転生させてくれると言い出した。


 能力を一つくれると言うので、失われし古代魔法とかいうカッチョイイのを選んだ。


 女神様はドン引きしていたけど、莫大な魔力を捧げたり、自分の身を犠牲にしたりする魔法って何かヒーローっぽくてカッチョイイじゃん!




 ――○月×日


 どうやら俺はエルフに転生したらしい。


 水面を見て自分のイケメン具合にビックリした。こんな美形な俺を放っておく女なんていないはずだ。


 やばい、俺ってばかっこよすぎる。これなら彼女の一人や二人余裕だわ!




 ―――○月×日


 …………やっべえ、エルフってば本当に美男美女しかいねえ。


 つまり、俺の顔もここの森に住むエルフからしたら、何ともない普通の顔だというらしい。


 あやまれ! 前世の俺にあやまれ! こんな超絶美形な顔をしておいて普通だと!?


 前世でこの顔ならアイドルにだってなれるし、俳優にだってなれるぞ! もう顔だけで食っていけるレベルなのに!


 そんな不満を押し殺しながら過ごしていたが、元異世界人の俺はどうも価値観がエルフと合わないらしい。可愛い幼馴染の女の子だっているのに彼女は俺のことを変態扱いする。どうも異性として見てくれていないようだ。扱いが雑すぎる。


 というかエルフって性欲薄すぎなんだと思うね! 十二歳って言ったら、皆お年頃でしょ?


 もういいだろうと思って、ちょっと下ネタ振っただけなのに、小首傾げやがって。そんでさ、そんでさ? 俺の両親にチクりやがったんだぜ? 俺が下品な事を言ってきたって。信じられないだろ? おかげで俺が大人達から怒られたじゃないか。


 ―――○月×日


 何だよ。エルフの成人年齢って六十歳だったのかよ。前世の成人の三倍じゃないか! それほどまでの年月をかけないと大人と認めてもらえないって? 精神の成熟が人間と違ってかなり遅いじゃん。子供だとは思っていたが、道理で同年代と話が合わない訳だ!


 他の子供達の年齢と精神を比較して分析してみると、個人差はあるが大体年齢の半分ほどが精神年齢だと言われているらしい。


 となると俺の年齢を精神年齢に直すと……俺ってば六歳とかで下ネタ言っていたわけ? それは変態だわ。怒られるわな。幼馴染の女の子もそりゃドン引きするわ。


 身体は成長しているのに無邪気なこいつらが眩しい。


 ごめんよ。〇○○とか○○○○とか、子供の作り方とか教えてごめんよ。


 純情な君達の心を汚してごめんよ……。



 ―――○月×日


 同年代には引かれて、年上の奴等にも引かれる日々。


 精霊だって俺のことを馬鹿にして言う事をきいてくれないし散々だ。もう知らん。


 そんな事で俺の輝かしい幼少期時代は齢十五歳にして幕を下ろし、それからはクソ難しい古代魔法の修行へと青春を費やすことにした。




 ―――○月×日


 本当ここってば森しかないわ。暇だわ。


 エルフの寿命って三百年以上だろ? 長すぎだわ。


 でも、その長い年月のお陰で古代魔法をある程度使えるようになった。俺ってばもう五十歳。前世の父ちゃんと同い年だよ。


 人間に転生していたら、ほとんど使えないまま人生を終えるところだったじゃないか!


 女神様もそこのところをちゃんと教えてくれてもいいと思うんだ。こんなの詐欺じゃないか。


 ったく、これならもっと簡単に使える魔法にしとけば良かった。


 古代魔法って一文字紡ぐだけで、えらい魔力を食われるわ、頭痛がするわで使い勝手が悪すぎるんだけど。発音も意味が分からんし。


 どうにかならない? これならどんな文字でも読んで発声できる能力とかとセットにしておけばよかった。


まあ、そんな意味のわからん能力なんてあるはずないよな……。




 ―――○月×日


 ついに六十歳。これで俺も晴れて大人の仲間入りだ。


 誕生日に両親が二人して俺の部屋に入って来たから、お祝いしてくれるのかと思ったが、働かないなら家を出ていけと言われた。


 そ、そんな! ただ俺は家にこもってひたすら古代魔法の修行しては、食っちゃ寝していただけなのに!?


 家に居場所がなくなったし、働きたくないので俺は家を出て行ってやることにした。


 もう親なんて知らん。俺は一人で生きていけるもんね。


 一人で生きていく事になった俺だが、まずは住む場所が必要だな。どうせならデカい家がいい。


 いい場所がないかと散歩していると、ふと大きな大樹が視界に入ってきた。


 長老があの大樹はデカいぞーと言っていたので、俺は大樹を家にして住む事に決めた。


 でも、やっぱり一人は寂しいなぁ。


 そう思った時に偶然道で白いイタチみたいな動物を発見。


 モフモフで尻尾がある。可愛いな。あんまり大きくないし世話にも手がかからなさそうだ。


 よし、こいつを俺のペットにしよう。


 ペットにするからには名前を付けないといけないな……。


 うーん、ヤックルバンクでいっか。


 何かファンタジーな生き物でこんな名前の生物がいた気がする。何とかバンクだかバンクルだかで。まあ、ヤックの額には宝石とかついていないんだけどね。


 俺はヤックを抱えて意気揚々と大樹に向かった。


 また誰かがやってきても面倒なので、大樹の周りを古代魔法で沈めておいた。


 ちょっとやりすぎて、底が見えないほどの穴ができたけどまあいいや。


 俺に会いたかったら空でも飛んでこい。




 ―――○月×日


 何か戦争が始まった。人間と小競り合いをしていたのは知っていたけど、まさか戦争にまでなるとは思ってなかった。


 当然、村の若い者は戦士として戦うことになる。


 そして、ついに俺にも声がかかった。


 出てこなければ、この大樹を燃やすとか穴の外から長老が叫んできた。


 森と生きるエルフが大樹を燃やすなんてバチ当たりなことできるはずがないと、高をくくっていたら本当に火精霊を使って火をかけてきやがった。


 よっぽど、切羽詰まっている状況らしい。


 くそ、もっと穴の範囲を広くしておくんだった。


 とにかく、長年改良を加えた自宅を燃やされてはたまらなかったので、大人しく戦士として戦う事にした。


 俺なんて戦いに行っても役に立たんのに。




 ―――○月×日


 エルフは人間の数に敗れて敗戦。ただいま絶賛逃走中。


 長老がありったけの魔法をぶち込めっていうから、思いっきり古代魔法を人間の軍団に放ってやった。何か面白いくらいに人が奈落へと沈んでいった。


 長老がそれに満足しながら『もう一発だ!』とか言ったけど、もう撃てないですって言ったら慌てて掴みかかってきた。そんなに首を絞めても魔力は出てこないっつうの。


 え? もしかしてこれぶっ放すだけで勝てると思ったの!? 馬鹿じゃん! 古代魔法なんてポンポン使えるわけないだろ! 古代魔法舐めんな!




 ―――○月×日


 人間達は古代魔法を使った俺の位置を割り出し、物量で攻めてきた。


 俺ってばそれはもう必死に逃げた。長老とかは知らん。


 俺が古代魔法の使い手だと人間はあたりをつけてきたのか、やたらと俺を追いかけて来る。男に追いかけられる趣味はないのに。


 もし捕まったら、美形である俺に目を付けた貴族や王族に売りとばされて、一生奴隷としての生活を送らされるかもしれない。そして毎夜の如し、貴族令嬢や王妃様が俺をベッドへと連れ込み奴隷生活――いいかもしれないな。


 美形のエルフだし古代魔法使いなんだ。そう簡単に殺されることはないだろう。そんな幻想を抱いて、追いかけて来る刺客に交渉してみたら、『お前は絶対に死刑台送りだ』と言ってきた。やっぱり多くの人間を奈落の底に落としたのがイケなかったらしい。


 とにかく、俺は放たれる刺客を振り払うかのように、あちこちに寄り道し潜伏。時には撃退しながら自宅を目指した。


 エルフなんだから森にさえ逃げ込めばこっちのもんだ。簡単には見つかることはないだろう。






 ―――○月×日


 ようやく帰ってこれた。


 俺が自宅に帰ってくるなり、ヤックが出迎えてくれた。何ていい子なんだろう。


 相変わらずモフモフとして可愛いヤツだ。


 よーし、今日はお肉をたくさん取ってきたから干し肉をくれてやろう! たくさん食えよ。


 今回の戦争で痛感したがこいつもいずれは外の世界に返してやった方がいいだろう。


 エルフは長い寿命を生きるというし、寿命の限られたヤックを大樹の中だけで生活させるのは忍びない。


 ヤックには、もっと色々なものを見てもらいたいしな。


 そういえば、こいつって俺と同じくらいの時間を生きているけど寿命とかどうなんだろう? もう七十歳は超えてるよね? だけど、こいつは今日も元気だな。

 

 あれ? お前って尻尾が二つもあったっけ? まあ、いいか。尻尾が二つで可愛らしさとモフモフが二倍だな。あはは。




 ―――○月×日


 人間達がここに攻めてきても困るので、古代魔法で森に結界を張る事にする。


 エルフしか入れないようにだ。古代魔法って燃費悪いけど威力だけは絶大だよな。


 その分デメリットが多いのだけれど、汎用性は高いから便利だわぁ。


 あれ? これなら森に籠って一生平和に暮らせるんじゃないか?


 俺って天才じゃん! どうして早くこれをやらなかったのだろう。


 まあ、いっか。過ぎたことは仕方がない。


 あとは、この森でずっと平和に暮らせばいいか。


 よーし、手始めに俺だけの最強の家とか作ろう。



 ◆



 日記が一区切りついたところで、俺は日記をぱたりと閉じた。


 エルフが迫害された原因、森にある結界、大樹の周りにある穴といった謎が全てわかった。


 実際にそれらは、大体が堂本という日本の転生者のせいであったとのことなので、それを知った俺としては何とも言えない気持ちになった。

 女神メリアリナ様、何という奴をこの世界のエルフに転生させているんですか……。


ちなみに11月22日には『転生して田舎でスローライフをおくりたい』四巻が発売します。

よろしければ動物共々手にとって頂けると嬉しいです。

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