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予想外

 

 ヤックが気絶から回復したので、俺達は奥の扉を潜って先へと進む。


 大広間から奥へと続く道はマナ鉱石が壁に埋め込まれているせいか、燐光を放っており明るい。これがずーっと続いているものだから賢者は相当な改築好きである。


 賢者の木の中にある道には、全部マナ鉱石が埋め込まれているのであろう。


 相当な労力である。よくこの作業を一人でやったものだと感心しかけたが、ゴーレムにやらせれば楽にできるな。


 というか壁にあるマナ鉱石はどうやって魔力を供給しているのだろうか。不思議でならない。


 長い間光を放ち続ければ魔力が失われるはずなのだが……。


 一体どうなっているのだろう。


「ねえ、ジェド。本当にそれ持っていくの? 爆発とかしない?」


 俺がマナ鉱石の考察をしていると、隣を歩くフェリスがおそるおそるいった様子で俺の中にあるそれを指さした。


 フェリスが怖がって見ているのは、ゴーレム一号から取り出したエルドラ鉱石。


 ゴーレムを停止させるには、動力となっているエルドラ鉱石を取り除いてやるのが一番だ。


 それを取り除いた俺は、土精霊の話を聞いて爆弾代わりに使えないかと思って頂いたのである。


「大丈夫だって。爆発するほどの魔力は込められていないから」


「本当に? ジェドごとボンッて爆発したりしないわよね?」


 大昔の人が、エルドラ鉱石を爆発させていたと教えたせいか、フェリスはかなり怯えている。まあ、確かに今の俺は爆発物を持ち歩いているようなものだからな。ビビるのも仕方がないと思う。


 でも、これは火がついたり、衝撃を与えたりすれば即爆発というわけではないのだ。


 魔力を過剰なまでに注いで臨界させなければいけない。


 そう簡単に爆発するものではないのだ。


 いざとなったら使える爆弾として持っておくだけだ。


 まあ、エルドラ鉱石についてはこれでいい。今はゴーレムについてだ。


「なあ、ヤック。本当にゴーレムのことを知らなかったのか? ここに住んでいたんじゃなかったのかよ?」


『本当に知らなかったんだっつうの。俺が暮らしていた時はあんなの見た事なかったぞ!』


「じゃあ、何でゴーレムがいるんだよ。賢者とやらが作っていたんじゃなかったのか?」


 木のトンネルの中を進みながら、俺はポーチから顔を出すヤックに問い詰める。


 俺の家に案内するぜとか息巻いていて、いきなり知らないゴーレムがいたでは不安になってしまうぞ。


『俺だってずっとあいつの傍にいたわけじゃないし、管理していたわけじゃねえんだよ』


 ヤックもヤックで訳がわからないらしく憤慨しているようだ。


 本当に知らなかったらしい。


 ここを改造して管理していたのは賢者と言われるエルフらしいし、改造者でもないただの動物のヤックがその全て把握しているというのは無理があるだろう。


 どうせこいつの事だ。ただのほほんと暮らしていただけなのだろう。


『昔は俺もバカだったから気付いていなかったというのもあり得るけどよ……』


「今もバカじゃねえか」


 俺が即座にそう言ってやると、ヤックが威嚇するように前歯をこちらに向けて。


『何だと! もういい! お前の食料全部食ってやる!』


 ポーチの中に潜り始めた。


「ちょっと待て! それは洒落になってないぞ!」


「……ちょっと、ゴーレム以外に何がいるかわからないのよ? 静かにしてよ」




 ◆  ◆   ◆




『あー、このまま真っすぐだ。突き当りに出たら左……いや、右だわ』


 先を歩くヤックの頼りない案内の声を頼りにして俺達は、賢者の木の内部を突き進む。


 ヤックの言っていた通り、賢者の木の内部はかなり入り組んでいた。


 同じような見た目の道が枝分かれしているために、闇雲に進めば自分がどっちの方角から来たかさえも分からなくなってしまう。まさに迷路だ。


 念のために塗料で壁をマーキングしているが、はぐれたら一生再会できる気がしないな。


『あー、そうそう。ここをこのまま真っすぐ真っすぐ……あれ? 次で右だったっけ?』


「おいおい、本当に大丈夫かよ?」


 どうもうろ覚えな様子なヤックが気になり、俺は声をかける。


『大丈夫大丈夫だって。大昔のせいでちょっと忘れかけているけど、ちょっとずつ思い出しているから』


「大昔って何年くらい前だよ……」


『あん? 確か人間とエルフが戦争をやっていた時だったかな?』


「それってもう千年前とかの話じゃないか」


 途方もないくらい昔の頃だと聞かされて、俺は絶句する。


 てっきり長くても二百年くらいだと思っていた。


 いや、エルフは長命な種族だ。それくらい前の事なら賢者の事についても詳しく知っているだろう。


 逆にそんなエルフがよく知らないという事は、途方もないくらい過去か、戦争のどさくさで分からなくなったというのが濃厚だろうな。


 ヤックが一体どれほどの期間の間、ここで過ごしていたのかは知らないが軽く数百年は前の記憶のようだ。


 ここはあまり急かさずにじっくりと行こう。


 ヤックがいなければ俺とフェリスは迷いながら進んでいたであろうからな。


 ヤックが自らの記憶を思い起こすかのように進んでいる中、ヤックとフェリスの足が急に止まった。


 何となく嫌な予感がしたので、俺もそれに倣って立ち止まる。


 すると、フェリスがエルフ特有の長い耳をピクピクと動かし。


「……さっきのゴーレムね。多分こっちへ来るわ」


『間違いねえな。さっきの奴と同じ足音だ。数は一体だな』


 その声を聞いて耳を澄ましてみるが何も聞こえない。


 動物のヤックとエルフであるフェリスにだけは聞こえているようで、緊張感を露にしていた。


 俺だけ聞こえないという状況がもどかしい。疎外感を感じる。


 それにしてもやはりゴーレムは一体だけではなかったようだ。どうやら彼らはこの大樹の内部を警護する存在のようであちこちうろついているのだろう。


 となるとこの先も戦闘は避けられないであろうな。


 そんな事を考えていると、徐々に俺の耳にも届くような足音が聞こえてきた。


 この少し鈍重そうな足音はゴーレムだな。


 俺達が今いる道は残念ながら一本道だ。


 曲がり角に身を隠してやり過ごすことも奇襲を仕掛けることもできない。


 ここはさっきのように真っ向からの戦闘になるな。


「相手が一体なら大丈夫だよ。俺が剣で斬り込むからフェリスは弓で援護を頼む」


「わかったわ!」


『俺はフェリスのポーチにお邪魔しよう』


 フェリスがそう返事をして弓を構え、ヤックがフェリスのポーチへと身を潜り込ませる。


 俺は剣を構えて、敵が奥から姿を現れるのを待つ。


 敵はランスを持っているだろうから、この狭い内部では不利なはずだ。


 フェリスが矢を射かけて注意を逸らし、俺が懐に飛び込めば何とかなるであろう。


 そんな風に頭の中で戦闘イメージを膨らませていると、予想通り騎士ゴーレムが姿を現した。


「って、武装が剣じゃないか!」


 俺達の前方に現れたゴーレムの武装は、長大なランスと円形の盾ではなかった。


 ごく普通の鉄の剣である。


 そりゃそうですよね。さっきみたいな大広間ならともかく、洞窟のような内部ではランスなんて邪魔ですものね。武装を変えるに決まっていますよね。


 さすがは賢者様。


 予想とは違ったゴーレムの装備に驚いていると、向こうもこちらを敵として認識したらしく剣を構えて走って来た。


 当然ランスなんて重い武器を持っていないためにスピードは先程よりも速い。


 先程から予想外の連続だ。こちらから踏み込むつもりだったのに、向こうから踏み込まれてしまった。


 ええい、ここは仕方がない!


「『ティム・スラッシュ』ッ!」


 俺は即座に魔法言語を唱え、風の刃を発射する。


 俺の手から射出された翡翠色の刃は、真っすぐに突っ込んできたゴーレムの胴体を綺麗に切り裂いた。


「あれ?」


 後方でフェリスが間の抜けた声を発しているが気にしない。俺は即座にゴーレムに近寄り落とした剣を遠くに蹴り飛ばす。


 それからゴーレムの肩をそれぞれ剣で斬り落とし、エルドラ鉱石を剣でくり抜いた。


 ジタバタともがいていたゴーレムの瞳から光が消え、静かになる。


「よし、これで大丈夫だね」


「……剣で斬り込むんじゃなかったの?」


 俺が一仕事終えたとばかりに一息ついていると、フェリスが呆れたような声を出して寄って来た。


「いや、ちょっと予想外の連続だったから魔法を使ってみました」


「この先ゴーレムがたくさんいるかもしれないから魔力は節約しようって言ったのはジェドじゃないの」


「まあまあ、俺の魔法もちゃんと効果があると確かめられたことだしいいじゃないか」


 俺がそれらしい言い訳をするとフェリスはため息を吐いて弓を背負いなおした。


「まあ、怪我をしないのならいいのだけれど」


 フェリスはゲームで例えると、回復アイテムをケチって最後まで取っておくようなタイプな気がする。


『それにしても、お前ってばよく人型のゴーレムを躊躇せずに斬り刻めるよな。ビックリするぐらいの手際だったぞ』


「さっきは油断して殺されかけたからね。遠慮はしないよ」


 実際は自分でもさっきの手際を思い出してビックリしている。


 人って生きるための理由があれば非道にもなれるんだって思った。


 このエルドラ鉱石を使っているゴーレムの事だ。最後には爆発なんてこともしでかすかもしれないしな。


「さて、このゴーレムは何番だろうか?」


 俺はワクワクしながらゴーレムの胸鎧に手をかける。


 順番的には次は二番だろうか? それとも三番かしら?


「……ジェド、追い剥ぎみたいよ」


『俺、山の中で同じような事をしている薄汚い連中を見たことがある』


 失敬な! 俺を山賊や盗賊と同等に扱うとは。これは相手の戦力を正確に測るためのものなのだ。ゴーレムの番号を見ればゴーレムが大体何体いるか把握できるのだ。決してやましい行いではない! 


 ……ただ、何となく山賊たちの気持ちがわかってしまった瞬間であった。


 何が出てくるであろうというこのワクワク感がちょっと心地よいと思ってしまった。


 邪念を振り払って、胸鎧を取り外す。


 さきほど剣で胸鎧を抉ったので、簡単に外れた。


 さて、貴方の番号は……?


【ゴーレム55号】


「そんなバカな! 五十超えだって!」


 つまり、単純に考えてもゴーレムは五十体以上いることになる。


「えっ!? 五十もいるの!?」


『……マジかよ。五十とか……。俺達まだ半分も進んでないんだぜ? てことは、倍以上はいそうだな』


 俺が頭を抱えて唸っていると、ヤックが追い打ちとばかりに大事な情報をポロリと言う。


「お前、そういう事は早く言え!」


 さりげなく掛け算ができることに腹が立つ。


一応は聖獣と崇められるだけの知能はあるということか。


 それにしてもこれはマズいぞ。というか、ここまでよく他のゴーレムと会わなかったものだ。


 これだけのゴーレムがいるのだ。取り囲まれていてもおかしくはなかった。


「どうしたのよ? さっきのゴーレムが五十体ってそんなにマズいかしら?」


 ヤックの言葉が聞こえないフェリスは気付いていないのか、呻く俺を見て不思議そうにし

ている。


 俺がヤックの代わりに、大雑把な現在位置とゴーレムが百体以上存在することを伝えてやる。


「なっ! そんなに多いの!?」


 と、予想通り目を剥いていた。


 ただ、俺はこの事態をもっと重く受け止めている。


 こんな迷宮みたいなものを作る日本人なのだ。大広間に巨大ゴーレムを配置したり、腕の多いゴーレム

を配置したりするに決まっている。あとはそうだな……キリのいい数字で手強いボスを配置しそうだ。フロ

アボスみたいな感じで。


 ……はあ、どうやら簡単にはいかないようだ。俺の想像が杞憂であればいいが。







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