賢者は同郷の者?
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「……日本語っ!?」
俺はゴーレムの胸に記されている見慣れた文字を見て驚いた。
これは明らかにこの世界の文字ではない。俺の前世で使われていた日本語だ。
全言語理解の力がなくともわかる。
しかし、日本語がどうしてこの騎士に刻まれているのか。
考えられる事としては、俺同様に転生者のような者がいるという事だ。
その者が目の前にいる騎士、ゴーレムを作ったということなのであろう。
この賢者の木に住んでいた人物はエルフの祖先であり、ここに住んでいたと言われる賢者だ。
とすると、その賢者とやらが俺と同様に日本人からやって来た転生者という可能性が極めて高い。
すぐさま生きた証人であるヤックを問い詰めてやりたいが、失神中だ。
あとでじっくりと話を聞こう。
「どうしたの?」
切断されたランスや腕を調べていたフェリスが、訝しんだ表情でこちらへとやって来た。
「赤い水晶? 綺麗だけれど見たことがないわね……。これが命の源かしら?」
「マナ鉱石っていう魔力の保存ができて、伝導率のいい鉱石に似ているけど色が違うね」
エーテルの近くの炭鉱にあったマナ鉱石は紫水晶のような色をしていた。こんな赤い色はしていない。とすると俺の知らない鉱石なのではないだろうか。
「フェリスの風精霊はこれについて何か知ってる?」
『うーん、知らなーい。あっ! でも、土精霊に聞けばわかるかも!』
俺がフェリスの方を向きながら尋ねると、俺の真上から元気な声が落ちてきた。
どうして俺の頭の上にいるんだ。普通は相棒であるフェリスの傍にいるべきであろうに。
精霊は自由気ままなので文句を言ってもしょうがない。
「じゃあ、呼んできてくれる?」
『わかった!』
俺がそう頼むと、フェリスの風精霊が虚空へと消える。
きっと今頃外に出て、土精霊を探し回っているのだろう。
精霊たちはそれぞれの属性にもっとも近い場所にいるからな。土精霊なら土があればどこにでもいるだろうし。
そんな事を考えていると、フェリスがこちらをジトッとした目つきで見ているのに気が付いた。
「ど、どうしたの?」
「精霊と話せるだなんてズルいなーって思っていたのよ。私だって精霊と話してみたいのに……」
どこか拗ねたように口を尖らせていうフェリス。
確かに、ぽっと出の俺が精霊と会話しているのは面白くないのかもしれない。それが長年連れ添ってきた精霊が相手というのなら尚更であろう。会話をしたいと思ったことも一度や二度でもないだろう。
それに、あの風精霊はフェリスのパートナーなのだ。フェリスに断りを入れてから頼むべきだったかもしれない。
「ごめんね、勝手にパートナーに頼みごとをして」
「別にいいわ。今は非常事態だし。それに精霊の言葉が分からなくても私達には絆があるもの」
そういって強がりをいうフェリスだったが、羨ましいという気持ちが全く隠しきれていなかった。
「そうだね。なんせフェリスの秘密も全部知って――」
「ああああああー! あああああー! 聞こえない!」
俺が茶化してそういうと、フェリスが大声を出して遮った。
過去の絆については触れないでほしいらしい。精霊と力を合わしておねしょを隠蔽。素晴らしい絆じゃないか。
もっとも、これ以上いじると背中にある矢で射かけられかねないので、ほどほどにしておく。
悶絶から立ち直ったフェリスが、気を取り直すように咳払いをして尋ねる。
「ところでこの文字は何て書いてあるの? 見たことのない文字だけれど、ジェドの能力があれば読めるのでしょ?」
「ゴーレム一号って書いてあるよ。多分何かしらの方法でこのゴーレムを作ったんだと思う。一般的に存在する魔物のゴーレムとは違うようだけれど」
ここでフェリスに日本語と言うと話がややこしくなるので、その部分だけを除いた説明をする。
「一号って番号のことよね? て、ことは他にもこのゴーレムとやらがここにいそうね」
神妙な顔つきで呟くフェリス。
「多分いっぱいいると思うよ」
そうだ。一号ということは二号、三号のゴーレムが存在するという事になる。
こういう番号で管理している場合は多くの個体がいる場合が多い。
これは思っていたよりも厄介な探索になったものだ。
ただでさえ入り組んだ構造だと聞いているのに、その上このようなゴーレムがあちこちで徘徊しているというのだ。
「このゴーレムを作ったのは賢者なのかしら?」
「ヤックに聞けば分かるかもしれないけど、その可能性は高そうだね」
俺はいまだに気絶したヤックが入っているポーチを叩く。
ウンともスンとも言わない。無駄な時にしゃしゃり出てくる癖に。
魔法で作られた存在なのか、機械で作られたロボットなのか。
灰色の固い物質を見る限りでは、機械的なものではなく魔法で作ったようなもののような気がする。
ただ、魔法使いの俺から見てもまったく作り方が分からない。
確かに土魔法で土人形のようなゴーレムを作ることはできるが、こんな精巧なゴーレムはできない。このゴーレムは土魔法で作るよりも遥かに高性能な能力を持っていた。
となると可能性が高いのは精霊魔法だろう。
「ねえ、ここに住んでいた賢者ってエルフなんだよね? 土精霊に頼めばこんなゴーレムって作れるものなの?」
「いくら土精霊の扱いに長けたエルフでも、こんなゴーレムは作れないわ。精々鈍重な土人形を五、六体操るだけよ」
それでも十分に凄いと思うのだが……。
俺も過去に試してみたが、精々三体くらいが限度であった。
それ以上増えると、腕を振り下ろす、歩くなどという単純な動きしかできなくなるのだ。
常に意識を分散させておかないといけないので、別の作業をしているみたいでかなり難しい。気を抜くと形すら維持できなくなり、ぺしゃんこになってしまうのだ。
そう考えると、いかに先程のゴーレムがふざけた性能を持っていたかがわかる。
「念入りに武装してきて良かったわ。とは言っても、弓じゃ注意を惹くことしかできないけどね」
「ゴーレムの注意を惹いてくれるだけでも十分だよ。基本は俺が切り結んで倒すから」
「ええ、だからさっきみたいに油断しないでよね」
「わかってる。危なくなったら魔法を使うよ」
俺の剣の実力じゃ精々ゴーレム一体、フェリスの弓の援護があって二体であろう。
できれば各個撃破という風に持ち込むのがいい。
ゴーレム達が集団で現れたら魔法を使うしかないだろう。
あんな大きなランスと盾を持ったゴーレムが突進してきたら、どうしようもない。
「フフ、ジェドの攻撃魔法が楽しみだわ」
そんな会話をしてゴーレムを調べていると、フェリスの風精霊が土精霊を伴って戻って来た。
『何じゃ? 何かワシに聞きたい事があるんじゃて?』
茶色い光を帯びた老人のような声だ。精霊に性別の違いなどがあるのか、歳をとるものなのか聞きたくなるがグッと堪える。
「このゴーレムや赤い水晶について何かわかる?」
俺が赤い水晶を指さすと、土精霊がふよふよと降りてきて観察しだす。
『あー、これはあれじゃな。魔力を溜め込む鉱石じゃよ』
「これに似た青い鉱石、マナ鉱石かい?」
『いや、昔の人間が使いまくっていたやつじゃのお。確か名前はエルドラ鉱石じゃったかの?』
「エルドラ鉱石?」
フェリスに視線を向けてみるも、知らないという風に首を横に振る。
『大昔の人間が取りすぎてのぉ。今では大分数を減らしておる』
「マナ鉱石とどう違うんだい?」
『青いやつとは溜め込める魔力の量が段違いでの。昔の人間はそれに魔力を込めて爆発させるのが好きだったようじゃのぉ』
……どこの世界でも考えることは一緒か。
エルドラ鉱石に魔力を限界まで込めて飽和させて爆発させるとは、大昔の人々もやることがえげつない。
ということはマナ鉱石もそんな可能性が?
いやいや、あれは少量しか魔力を含めないしな。
何事も道具は使う人次第で変わるものだ。日常的に使う包丁やハサミだって、一歩間違えば凶器でしかない。
ようは使う人次第だ。
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