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ゴーレム一号

『俺、動物や魔物と話せるんです』の一巻が発売しました! 店頭にてぜひお確かめ下さい! 書き下ろしも多いのでオススメです。

 

 騎士が立ち上がり、赤い目を輝かせながらヤックを見下ろす。


 その目は酷く無機質なもので知性といったような物は感じられる目ではなかった。


 それを見て俺は焦りを胸に抱くのだが、目の前にいるヤックは気付いていないのか、人間だと思っているのか気にせずに、


『おっ? 何だ? ごめんなさいか? まあ、俺様は寛大なので頭を下げれば許してやらないこともないぞ?』


 ヤックが威厳たっぷりに言い放ったが、騎士は反応しない。


 しかし、代わりの返事としてランスを構えて突き出してきた。


『げえっ!?』


 驚き目を剥くヤックと騎士の間に体を滑り込ませた俺は、ランスを横から叩き軌道を逸らせる。キインと硬質な物同士がぶつかる音が大広間に響き渡った。


「おい、ヤック! 今のうちに離れろ……ってまた気絶しているのかよ!」


 騎士のランスを押さえがら振り向くと、そこには気絶して無様にひっくり返ったヤックがいた。


 ヤックのすぐ隣にはランスによって貫かれた穴ができており、どうやら当たったと思い込んで気絶したようだ。


 ええい、フェリスと初めて会った時といい、想像力が豊かな奴だ!


 心の中で毒づいていると、騎士が左手に装備している円形の盾でシールドバッシュを繰り出してきた。


 ランスとヤックに気を取られていた俺はそれを避けることができず、その一撃を貰ってしまう。


 身体にズンとした衝撃が伝わり、吹き飛ばされる俺だがただでは食らわない。


 吹き飛ばされる寸前に手を伸ばしてヤックを掴むことができた。


 ヤックを抱え込んだ俺は、騎士から大きく距離を取るために大袈裟に床を転がり後退。


「ジェド!」


 騎士が俺達を追撃しようと動き出した瞬間に、フェリスから風精霊による風の刃が放たれる。


 それは騎士のランスを持った右肩に命中。腕とランスを大きく吹き飛ばす。


「……やっぱりエルフでも人間でもないわね」


 体勢を立て直し騎士へと視線をやると、そこには肩から血液の一滴も溢さない騎士の姿が。


 綺麗に切断された肩の断面には、硬質そうな灰色が顔を覗かせているだけ。まるで石を削って作ったかのようだ。


 石の魔物と言えばガーゴイル、ゴーレムなどが挙げられるが、ガーゴイルは獣のような外見をしているので違う。


 となると、ストーンゴーレムといったところが怪しいのだがストーンゴーレムとは話す事ができないのだろうか?


「……ストーンゴーレムか?」


『…………』


 試しに話しかけてみるも騎士は反応の素振りも見せない。


 俺の声など聞こえていないかのように、切断された肩を気にしていた。


「おーい、騎士さん聞こえてるー?」


 それから俺はしきりに声をかけてみるが、騎士は一向に反応しない。


 聞こえていて無視しているというよりも、やはり言葉自体が聞こえていない感じだ。


「あれはどう見てもエルフや人間じゃないわ。話しかけても無駄よ」


「いや、魔物だったら会話して穏便に済ませられないかなーっと思って」


 右腕を風魔法で切断して今更だとは思うけど。


「はぁ!? ジェドって魔物とも話せるの!? というか魔物って言葉を話せるものなの!?」


「話せるよ」


 目を大きく見開いてこちらを見るフェリスに、俺はきっぱりと答えた。


「まあ、動物や精霊と話せるんだから魔物と話せてもおかしくはない気がするけど……いや、やっぱりおかしいわ……」


 などと一人ブツブツと呟くフェリス。


 一方、騎士の方は左手の盾を外して、吹き飛ばされたランスを拾っていた。


「……戦いをやめる気はないみたいね」


 魔物ではないのか話せない魔物なのかは分からないが、襲いかかってくるのなら倒してしまう他ない。


「倒そう」


 そんなカッコつけた台詞を言ってみたものの、俺の手の中には気絶したヤックがいる。そのせいで剣を構える事ができないので、俺は急いでポーチから食料を取り出し、代わりにヤックを入れてやる。


 まったく、世話のかかる奴だ。


 隣にいるフェリスはそれを察してくれたのか、騎士の注意を惹くために弓を構えて矢を射かける。


 空気を切り裂いて進む矢は、騎士の頭部に突き刺さるが致命傷にまでは至らない。


 頭部に軽く刺さっただけだ。


 騎士の無機質な赤い瞳がフェリスの方をジッと見る。


「……弓との相性は最悪のようね」


 相手は固い石のような体でできているのだ。弓との相性は最悪と言ってもいいだろう。


 そんな分析をしていると、騎士の方が先に動き出した。


 先程矢を射かけられたからか、フェリスをターゲットとして突進した。


 俺はそれを阻止するために剣を持って切り込む。


 騎士は即座に反応して俺に反撃とばかりにランスを突き出してきた。


 俺は予想を遥かに上回るランスの間合いに驚き、慌てて身をよじる。


 それから体勢を立て直して懐に踏み込もうとするが、騎士が即座にランスで突いてくるので思うように戦えない。


 くそ、ランスって間合いが広いからやりにくいな。それに突きによる点の攻撃は見極めるのが難しい。それが小刻みに引いては突きを繰り返されるのではたまったものではないな。


 本来ならばこれに盾まであったと考えると嫌になる。きっとロクに近付けなかったであろう。


 俺は騎士からの突きを剣で弾き、間合いを拒む薙ぎ払いを躱しながら観察する。


 騎士の連撃をよく見ると、明らかに後半では体勢が崩れているのが分かる。


 恐らくは右手を失ってしまってバランスが取れなくなってしまったせいだろう。ランスとは剣よりも遥かに重いものだ。並みの人間ならば大きなランスを片手で突き続ける事はできまい。この騎士は人間ではないのでパワーを克服しているようだが、バランスだけはどうにもならないのだろう。


 そうと分かれば、耐久勝負に持ち込めばいい。


 俺は、再び騎士へと斬り込んで相手のバランスを崩しにかかる。


 大広間に鳴り響く剣戟。ランスと剣がこすれて赤い火花が散る。


 俺は時に大きく踏み込み、時に大きく退いて騎士を大きく揺さぶる。


 何合も連続して打ち合っていると、ついに騎士がバランスを崩した。


 ランスの重さと自分の体重が合わさり、騎士の体が大きくぐらつく。


「そこだ!」


 俺がそこを逃さずに飛び込むと、騎士がバランスを崩しながら悪あがきの突きを放ってきた。


 鋭さの失われた分かりやすい軌道を描く突きだ。


 それを待っていた俺は、剣でランスを受け流して肉薄する。


 そしてがら空きになった胴体、鎧のない部分に魔力を込めた剣を差し込み思いっきり横に引っ張る。


 父さんから貰った剣は、硬質な騎士の体を簡単に切り裂く事ができた。さすがはマナ鉱石できた剣だ。魔力を通すと恐ろしく切れ味がいい。


 騎士の体が上下に分かれて地面に崩れ落ちる。


 俺はそれを見てホッと息を吐いた。


「ジェドっ!」


 その瞬間、フェリスの鋭い声と共に硬質な音が鳴り、騎士の腕とランスが舞い上がる。


 それからランスがゴスリと重そうな音を立てて転がる。


 俺の目の前には、体を真っ二つに切り裂かれたにも関わらずもがく騎士の姿が。


 先程までランスを握っていた左腕は、フェリスによって放たれた風の刃に綺麗に落とされていた。


 下半身は動いてはいないが、上半身は今でも動いている。


 こいつ、ゴキブリかよ。


「まったく、焦らせないでよ。相手は人間じゃないんだから……」


 フェリスが心配するような声音でこちらにやって来る。


 そうだ。相手は人間ではないのだ。


 人間と同じように考えていたら足元をすくわれるのだ。この先でも出会うかはわからないが、この騎士を相手にする時はキッチリととどめを刺さなければいけないのだ。


「ありがとう、フェリス」


「どういたしまして。サポートに徹していて良かったわ」


 俺とフェリスはそう言葉を交わすと、すぐに視線を騎士へと向ける。


「さっさととどめを刺しましょう。ジェド、頼むわ」


 騎士を睨んでそう促すフェリス。


「いや、待って。どこかに弱点があるかもしれないからそれを調べよう。それにこれが何か分かるかもしれないし」


 生命力が強いのか、弱点を破壊しない限り生きていられるのか知らないが確かめる必要はあると思う。


 賢者が作り出したものなのか、外から入って来たものなのか、弱点はどこなのかと。


 この先進むにつれて、こいつのような奴がたくさん出てくるかもしれないのだ。相手を知っておかないと。


 フェリスもそのように考えたのか、同意するように頷く。


「そうね、それじゃあキチンと左腕を肩から斬っておきましょう。危ないわ」


 うん、わかってる。安全のために仕方がないことなのだけれど言葉が怖い。


 身動きを取れない相手の肩を切断するのは気が引けるが、残った左腕で首を絞められては目も当てられないのだからやるしかない。


 何とも言えない気分でも左肩を斬り落とした俺は、フェリスと共に騎士の体を調べる。


 騎士は、少し胴体を身じろぎさせるくらいと頭部を動かす事しかできないので安全だろう。


 だが、無機質な赤い瞳で俺を見続けるものだから怖くて仕方がない。


 何もできないとわかってはいるんだけれどね? さっき襲われたし、また動くんじゃないかと思ってしまう。


 おい、俺の体に何をするんだという風に抗議するような視線を無視して、俺は調べ続けた。


 すると、騎士の胸鎧の下に赤色の水晶がはめられていた。


 そして、さらに俺を驚かせたのが赤い水晶の下に記されてある文字。


【ゴーレム一号】


 その文字はカタカナと漢字で記されていた。



ショートストーリーを見てくれた方は、感想を頂けると嬉しいです。

QRコードを答えると貰えるショートストーリーには、旅立ち前の女性陣の会話が載っているので必見です!

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