賢者の木を見に
更新が遅くなってすいません。こちらもドンドン更新していきます。
「ねえ、あの大樹の傍に行ってみたいんだけど」
村の中を散策するなか、俺は村から見える大樹を眺めながらフェリスに尋ねた。
俺の目的はあの大樹のそばに行ってみる事なのだ。
天を突くように生える巨大な樹木に、空を覆わんとするような枝葉。
遠くから見るだけでもその威容さが伝わってくる。きっとあの樹木の下から見上げる姿は圧巻だろう。案外中に入ることもできたりしちゃって。
「ああ、賢者の木ね」
「賢者の木?」
あの大樹にもちゃんとした名前があったのか。
「昔、森に結界を張ったエルフのご先祖様、賢者が住んでいたと言われていたからよ」
「へえ、そうなんだ」
賢者という人が住んでいたのなら確実に内部がある。ということは内部に入ることができるじゃないか。
そんな淡い期待を抱いていた俺だが、フェリスの言葉によって崩れ去る。
「でも、あの賢者の木の傍に行く事は無理よ?」
「どうして?」
えっ、ちょっとここまで来て無理だとか困るんですけど。
この村からでも十分大きく見えているというのに何がダメなんだ?
「あの木の周りは深い穴があるのよ。恐ろしいほどに深くて長いから誰も近寄れないわ」
「えっ! じゃあ、賢者の木の傍に行ったことのある人は誰もいないの?」
「そうよ。私達も遠く離れた崖から賢者の木を見る事しかできないわ。危ないから今は誰も近寄らないけどね。落ちたら終わりだし」
あっけからんと言うフェリスに俺は驚く。
ま、まじかよ。何でそんな所に生えちゃったんだよ賢者の木。
周りに深い穴があったら誰も近付けないじゃないか。というかどうしてそんな不便なところに住んでいたんだ。
『まあ、俺は行ったことがあるんだけれどね』
期待を砕かれて項垂れる中、左肩に止まるヤックが自慢げに呟いた。
「周りには深い穴があるっていうのにどうやって行ったんだよ?」
『行ったというか、元からいたって感じかな? 昔はあんな深い穴なんてなかったしな』
俺がチラリと視線を向ける中、ヤックが毛繕いをしながら答えた。
「長寿であるエルフのご先祖がいる時代なんだぞ? お前生きてないだろ」
『俺をそこらへんの動物と一緒くたにするんじゃねえよ。幻獣や聖獣と呼ばれるヤックルバンク様だぞ? 寿命なんてあるかよ』
マジかよ。こんなアホな動物が何千年も生きていたのかよ。
女神メリアリナ様は寿命の配分を間違えていると思うんだ。
「どうしたのよ?」
俺とヤックの話す様子を見て、フェリスが不思議そうに尋ねてくる。
ヤックと俺の反応や、ペガサスの様子を見て、一応は動物と話せることは信じてくれているらしい。
「いや、ヤックが昔は穴なんてなかったって言っていたから、何で知っているんだ? って聞いていたんだ」
「ヤックルバンクは聖獣よ? 私達より遥かに長い年月を生きているに決まっているじゃない。……それにしても、昔は穴なんてなかったのね……」
俺がそう答えるとフェリスはさも当然という風に頷いた。それからどこか感心した風に遠くにそびえる賢者の木を見やった。
◆
賢者の木の真下には行けないが遠くからなら眺めることができる。
ということで俺達は賢者の木を見ることができる絶好のポイントを目指して森を歩いていた。
『おい、人間達は年長者とやらを敬うんだろ? だったら俺の事ももっと敬えよ。わかったらもっと干し肉をくれよ』
ヤックが俺の肩や頭を行ったりきたりしながら、しきりに耳元でそんなことを言う。
首筋の辺りにフワリした毛が撫でるように当たるので、とてもこそばゆい。
こそばゆいが悪くはない感じだ。耳元でしきりに要求する生意気な声がなければだが。
冗談でもヤックに「年長者であられましたか!」なんて言うんじゃなかった。
「うるさいなー。干し肉なら森に入る前にあげたじゃないか。我慢しなさい」
全く、この子はエルフの里に入ってから甘やかされるものだから、調子に乗っているんじゃないだろうか。
動物なら動物らしく獲物を狩るなりしてきなさいよ。
『腹減ったんだからくれよ!』
ついには俺の耳タブを突いてきて、ごねるものだから俺は干し肉を一枚くれてやる。
『肉だ!』
ヤックはそれをかっさらうように奪い、俺の肩の上で抱えてかぶりついた。
これでしばらくは大人しくなる。
ヤックも喋らなければ可愛いのに。
そんな事を思いながらヤックの頭を指で撫でやろうとすると、白い尻尾が俺の手を弾いた。
こいつ! 腹立つな!
俺が怒りの眼差しを向ける中、フェリスが羨ましげな視線でこちらを見ていた。
それからポーチに片手を突っ込みゴソゴソと。
「……干し肉なら私もあげるわ。だから私に……」
フェリスが干し肉を片手にヤックに迫った。
何だろう。物で子供を連れ去ろうとする誘拐犯のような感じがする。
ヤックは不穏な空気を察したのか、フェリスの反対側の左肩へと逃げた。
まあ、こいつの動物愛は何かおかしいもんな。
森に魔物がいないせいか、俺達の道のりが平和そのものであった。
北へと歩き続けて山を登ることおよそ数時間。
賢者の木がよく見える崖へとたどり着いた。
「おおー!」
山の頂上からより眺める賢者の木は、遠くから見ていた時とは比べ物にならないほどの質量で、山にも匹敵する木はどこか荘厳で重々しかった。
大地から生えて唸るように伸びた大木。
枝から生えるは新緑の葉。どれ一つとして枯れた葉はなく、陽光を受けて煌いていた。
こんなにも大きくて美しい樹木は見た事がなかった。
これこそが冒険。俺はこういうものを見たくて冒険者になったんだ。
「ファンタジーだなぁ」
「ふぁ、ふぁんたじー?」
隣でフェリスが聞きなれない言葉だったのか妙な発音をしていた。
なんか可愛らしい言い方だ。
この幻想的な光景を脳裏に焼き付けようと、俺は視線を巡らせる。
賢者の木以外に目がつくのは、やはり深い穴。
意図的にくり抜いたと言わんばかりに、賢者の木を避けてぽっかりと空いていた。
まるで巨大な隕石が賢者の木だけを避けてクレーターができたようでもある。
崖から穴を覗き込むも下は見えず、真っ暗だ。一体どれほどの深さがあるのだろうか。
誰がやったのか、自然にできたのかは知らないが迷惑な事だ。
あの途方もなく大きな穴のせいで近寄ることができないじゃないか。
「あの深い穴のせいで近寄れないのよ」
「なあ、ヤック。昔はあそこにいたんだろ? 中はどうなってるんだよ?」
どうにかして近付く方法はないかと、生き証人ともいえるヤックに尋ねる。
『中は迷路みたいになってるぜ。……俺も最初の頃はよく迷子になったなー』
石の上に立ったヤックがどこか遠い目をして懐かしそうに呟く。
そんなに中はいりくんでいるのだろうか。入ってみたいなー。
……というかどこから入るんだ? 近くにいけば、どこかに入口でも見えるのだろうか?
「賢者とやらが住んでいたんだろ? 実は地下から通路が繋がっていたりしないのか?」
「何それ? そんなの聞いたことがないわよ」
『見た事ねえな』
期待を込めて言ってみた言葉は、バッサリと否定された。浪漫がないぜ。
本作品が書籍化します。情報はしばらくお待ち下さい。
『俺はデュラハン。首を探している』
よければ一読してみて下さい。
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