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水面に映る金色の髪

 

 エルフの集落で一晩を過ごした俺。旅の疲れもあったのか、食事を済まして横になるとすぐに眠る事ができた。


 夕方以降は出歩く事ができなかったので、肌のべたつきによる不快感で目覚めてしまった。


 凄く気持ちが悪い。


 やはり布で拭う程度では気休めにしかならない。大量の水でスッキリと体を洗い流したい。


 そう思ったところで丁度良く長老が現れ、外出の許可を貰う事ができた。


 適当な場所を見つけて魔法で体を綺麗にしようと思ったのだが、長老が水場を勧めてくれた。ヤックが綺麗な水場を知っていると言うので、せっかくだし俺はそこに向かう事にした。



 朝早いせいか空気が少し冷たいが、深呼吸をすれば済んだ空気が鼻を透き通る。


 仄かに香る土と枝葉の匂いも心地が良い。


 目覚めの悪いヤックも、今日はご機嫌の様子でその足取りは軽い。


『ふんふふーんふふん』


 俺と一緒にいる影響か、ヤックは日本の歌をよく好んで歌ったりする。今はとある人気の歌を鼻歌で歌っているのだが、何だかリズム感がおかしい。


 人間とはリズム感覚が違うのであろうか。


 アスマ村の子豚や鳥達は歌がとても上手かったのだが、ヤックはそうでもない。あまり音感がないようだ。


『あー、やっぱりこの森は空気が綺麗だなあ』


 俺の前をてくてくと歩くヤックがしみじみと言う。言い方がどことなく年寄りくさい。


「だからここらへんで暮らしているんでしょ?」


『まあな。水も美味しいし果物や木の実も多いからな。何より魔物がいないのが最高だな』


「水や食料が豊富なのはわかるんだけれど、魔物がいないってどういう事?」


 確かにこの辺りは平和な森そのものだが、魔物が出没しないと言うのは少しおかしい。


『ああん? 祠の時にも言っただろ? 魔物が全くいないって。理由は知らないけど、この辺りでは全く見た事がないな』


 俺が尋ねると、ヤックが眉のあたりの肉を寄せて答えた。相変わらずムカつく表情だ。



 確かに祠の近くにいた時にそんな事を言っていた気がする。


 魔物を見ることがないって。あの時はただ誇張して言っているもんだと思って流していたのだが、どうやら本当なのか。


「確かに言っていたけれど、それはたまたまじゃないの? 集落に来る途中だって鹿とか兎とかもいたよね? これだけ自然が豊かな森なら魔物が多くいそうなんだけれど」


 動物達が豊かな餌を求めて豊かな場所へと集まるように、魔物も餌を求めて動植物が多くいう所へと集まるのだ。魔力が多く溜まっている場所にも魔物は集まったりするが、基本は動植物の下に存在する。


 つまり、動物や豊かな植物が生息しているというのに魔物の姿を一切見かけないと言うのはおかしいのである。


 この森の近くに魔力の溜まっている場所があったとしても、絶対にいくつかの魔物は流れてくるはずだ。


『いや、俺にも理由はわからないって言ったじゃん。集落では精霊様がどうとか言っていたけど詳しくは知らねえよ』


「んー、そっか。後でフェリスにでも聞いてみるか」


 精霊様か。やたらとエルフは精霊を大事にしているようだけれど、さっきの事と関係があるのだろうか? 俺が精霊について聞くと怒りだしそうだけれど大丈夫かな?


 それからヤックに案内されて森の奥へと歩くこと少し。少し集落から外れたせいか、人の気配はとっくに薄れている。


 空気に湿気を感じる気がするし、水場についたのであろうか?


『確かここらへんだったはずだぜ』


 ヤックのあとに続き茂みを抜けると、そこには一面の青が広がっていた。


 緑のカーペットの中に存在する泉はとても澄んでいて底が透けて見える程だ。


 開けた場所にあるお陰か日当たりもよく、昇ったばかりの朝日が水面を照らし出し、キラキラと反射する。


 その幻想的な光景に、俺はしばらく息をする事も忘れて眺め続けていた。


『へっへーん、どうだ? 綺麗だろ?』


 俺の隣でヤックが得意げに笑う。


 今回ばかりはヤックの意見に同意だ。


「……本当だね」


 自分の脳内に焼き付けるようにして眺めて、感嘆の声を漏らした時であった。


 視界の端で何かが見えて、水がパシャリと跳ねる音がした。


「……ん?」


 魚でもいるのだろうか? そう思い視線をそちらに向けてみた。


 するとそこには、一糸まとわぬ姿で立ち尽くすエルフの少女、フェリスがいた。


 ほっそりとした首筋に、少しくびれたなめらかな肢体。それを伝う一滴の滴。


 濡れた金髪の髪が肌に張り付いた姿は余計に彼女の身体を扇情的に見せている。


 一体どのくらいの時間彼女の姿を眺めていたであろうか。それから先に動いたのはフェリス。


 自分の身体を抱くようにして胸を隠したフェリスは、顔を真っ赤に染めて小さく呟いた。


「…………い」


「い?」


 予想もしない言葉に俺は間抜けな声で返す。てっきり罵られるかと思ったのだけれど。


「いつまで見てるのよ! この変態!」


 やはり罵られた。


 フェリスは俺へと怒声をとばすと、勢いよくしなやかな細腕を一つ俺へと向けた。それは何か俺へと狙いつけるようである。


「え、ちょっと!?」


 俺はこれから起きるであろう出来事に予想がついた。ついてしまった。


『頑張れジェド!』


「あ、ちょっとずるいぞ!」


 同じく危機を察知したヤックが一目散に俺から離れ、茂みへと入っていく。


「風の精霊よ!」


 フェリスが鋭くそう叫ぶと、翡翠色の光が一気に収束する。


 風の精霊達だ。そして精霊達はフェリスの腕の近くをまわり始めた。すると、腕の辺りを中心にして一気に風が吹き荒れる。


 それは次第に吹き荒れる暴風と化して、一気に俺へと襲いかかった。





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