絶対喋ったよね?
いつの間にか日間ランキング17位に。
感謝です。
ジェド=クリフォード、五才になりました。
ついに歩けるようになったし、走ることもできる。さらにはしっかりと話すことも可能になった。
これにより、俺は赤子とは比べようもない自由を手に入れた。
おかげで今は毎日が未知との出会いで心底楽しい。転生させてくれた地球の神様と麗しの女神メリアリナ様に感謝です。
そして今は、村に行きたいという俺の要望が叶い、ジュリア姉さんと村に向かっているところだ。
クリフォード家はアドレット王国に仕える貴族である。
まだまだ数百年と歴史の浅い国なので、広大な土地がまだまだ残っている。
そんな土地を切り開くのは優秀な貴族の仕事。
父さんは武と知を兼ね備えた貴族だそうで、この土地ラスカルを任されたのだ。
ラスカルにはいくつもの町や村、集落などがあるのだが、それぞれの場所には父さんの代わりとして代官を置くことで管理している。
代官っていうと、ドラマの見すぎのせいか、悪代官とか悪いイメージがあるけど、そんなことは無い。何人かあったことがあるけど、皆紳士でいい人達だった。
そんなラスカルの中で父さんが屋敷を建てたのは、アスマ村。
何で便利な町とかにしなかったのかというと理由はある。
まずは、このラスカルを父さんが引き継ぐ原因となったのが、前任者のせい。
増税、横領に他国への裏切りと、出るわ出るわの悪行三昧。
特にアスマ村の統治はひどかったらしく、父さんが直々に指揮をとり、開拓することになったのだ。
おかげで何とかアスマ村は力を取り戻していき、順調なのだそうだ。
俺が赤子の時に中々顔を出せなかったのは、すごく忙しかったからだそうだ。
納得納得。
さらには、子供を産むこともあってゆっくりとできる田舎の方が母さんにも良かったからだ。
母さんは一応貴族ではあるが、位の低い男爵家なので田舎育ちだ。
それにより、アスマ村に居を構えることに大賛成だったらしい。
他にも村はあったのだが、国としても優秀な父さんにはしっかりと働いてほしかったらしく、一番困難であったアスマ村になったらしい。
最近はとても活気があって、美味しい料理も増えてきた。
一体どんな村なのだろうか。
俺はアスマ村を楽しみに思いながら、ジュリア姉さんに手を繋がれて道を歩く。
うちの屋敷は村を見下ろせるくらいの丘の上にあるため、いきは楽なのだが、帰りは少し登りとなりつらい。
その分綺麗な一本道で整えられているために、五才の俺でも歩きやすい。
一本道自体は土なのだが、左右には芝のような草が一面に生えており、とても綺麗だ。
まるで緑のカーペットのようで、ふかふかなのだ。
俺もよくここで寝転んだりする。
「今日は天気がいいねー」
ジュリア姉さんが気持ち良さげに目を細める。
風が吹き、母さんと同じ赤色のグラデーションがかった長い髪がひらひらと揺れる。
ジュリア姉さんは今年で十二歳。俺の予想した通りの美人さんになっていた。
白皙のような肌に、抜群のプロポーション。そのしなやかな肢体は動くだけで、艶めかしく思える。髪は腰ほどまで伸ばし、少し癖がでてきた。
その少しふわりとした髪の毛がジュリア姉さんを余計に柔らかい印象を与える。
「村までもうすぐよ」
「はーい」
ちなみに随分と落ち着いた様子のジュリア姉さんだが、本質は変わっっていない。
むしろより凶悪となったと言っても過言ではない。
このニコニコとした柔らかい笑顔には騙されてはいけないのだ。
芝に囲まれた坂道を下りると、せっせと男たちが丸太を運んでいた。
恐らく新しい家を建てるために、切り出したのだろう。
頭に布を巻き、麻の服は腰元に巻き付けられている。
つまり上半身は裸である。
『あ、すいませんジュリア様。俺達こんな格好で』
黒髪を逆立てた男が、丸太を肩に担ぎながらジュリア姉さんに一礼する。
それを見て他の男達も丸太を担ぎながら、頭を下げようとしたがジュリア姉さんがそれを手で制止させる。
「頭なんて下げなくていいわ。いつもありがとうね」
『い、いえ! め、めっそうもないでござりまする!』
あー、あー、お兄さん顔を赤くしちゃって。ってお兄さんだけじゃ無いや、他のおっさんや、若者たちも皆見惚れちゃって。
「じゃあ、私達は村に行きますから。お仕事頑張って下さいね」
ジュリア姉さんの笑顔にお兄さん達はもうメロメロ。
さっきまでの男らしい姿は一体どこへいったのやら。
『は、はい! よーし、お前ら昼までに全部終わらせっぞ!』
『『『おおおおおおおおおう!!』』』
黒髪のお兄さんが皆を鼓舞する。男たちはせっせと丸太を縛りあげ、肩へと担ぐ。
『おら、腰が入ってねえぞ!』
『うっせ! お前こそフラフラじゃねえか! ジュリア様の前でいいとこ見せようとしているんだろ!』
『はっ!? ち、ちげえし! 俺はいつもこれくらい余裕で持つね』
『嘘つけ! お前いつも三本だろうが!』
男達の元気な声を背に俺達は道なりに歩く。
後ろではじょじょに無理をした男達がどんどんとへばっていく。
「あら? さっきのお兄さん達がいないわ? 心強かったのに」
それに気づいたジュリア姉さんが振り返り、あざとい声を出す。
その声に反応した黒髪の兄さんと、言い争っていた男……あれ? 同じ顔? が猛然と丸太を抱えて駆け寄ってくる。
『『うおおおおおおおお!』』
『『貴女の騎士はここにいます』』
「あら、面白いランスね」
『『はうっ』』
クスリと笑うジュリア姉さんの笑顔に、男二人が胸を押さえて倒れこむ。
ランスとは丸太のことだろうか。だとしたら、ジュリア姉さんの感想は愉快で笑っているのでは無く、滑稽という意味で笑っているのだろう。
これは純粋な笑顔では無く、黒い邪悪な笑みだ。
そうとうは気づかずに、幸せそうな顔を浮かべる二人。
顔と言い、同じセリフといい双子なのであろう。
うーん、似ている。見分けがつかないな。
せめてどっちか髪型変えろよ。
「うふふ」
ジュリア姉さんは楽し気に腕を振りながら歩く。
その無邪気な笑みは、新しい玩具を見つけた子供のようだ。
後ろでは双子が立ち上がり、お互いにいがみ合うようにぶつかり合いながら後ろを歩く。
双子が持つ丸太は六本。今でもそうとう苦しそうだ。
身体からは汗を流し、息が上がっている。
それでも双子の男達は己の矜持、意地をかけてフラフラとしながら前へと進む。
ふわりふわりと揺れる、ジュリア姉さんの髪に誘われるかのように。
「声一つだけで作業効率が上がるなんて、お金もかからないからいいことよね~」
ジュリア姉さんは笑顔でそんなことを呟く。
ジュリア姉さん。真っ黒です。怖いです。
「ねえジェドくーん」
「よくわからないけど、楽しいね」
俺は何とか笑顔で、ジュリア姉さんに笑みを返すのであった。
丸太を組み合わせて組んだ、門をくぐり抜けて村へと入る。
村の周りには魔物や盗賊への対処として、丸太を組み合わせた柵や門の建造が進められている。
ここら辺は治安も良くなってきたのだが、念の為だ。魔物が村を襲うことなどほとんど無いとの事。
大きな道には村人がせわしなく動き周り賑わっている。今一番勢いのある村であって、仕事を求めに他所の村や集落からも人が来ることは珍しくないようだ。
その働き盛りの男達を狙って、女たちが料理を売りつける。
端では職人らしき男が布引いて皮をなめし、商人が大きな声を出して客を呼び込んでいる。
「ここから中心へは、人が多いから後にしようか」
「うん別にいいよ」
ジュリア姉さんに手を引かれて、俺達は方向を東へ変える。
「ジェド君危ないわよ」
ジュリア姉さんに手を引かれて少し下がる。
俺達が歩き出そうとした所に、ちょうど荷を載せた馬が通りかかる。
さすがにこんな人が密集している所では走らせていないのだが、五才児の俺にとっては脚が当たるだけでも大怪我をしかねない。
「すいません。ジュリア様、ジェド様! お怪我はありませんでしょうか!?」
馬を引いていた男が血相を変えて尋ねる。
「ええ、私もジェドも大丈夫よ。ごめんなさいね、私達の不注意で」
「い、いえ、とんでもございません! こちらこそ申し訳ございませんでした」
男がしきりに頭を下げ、ジュリア姉さんがそれをおさえる。
『しっかり前見て歩けよな。このガキ』
「…………えっ?」
今、なんか声が聞こえた気がする。
「どうかしましたか? もしかしてお怪我でも?」
「い、いえ。僕は大丈夫です。何ともありません」
そう言うと、男は「良かった」と胸を撫で下ろす。
『俺様がガキなんかを踏み潰すかよ。まあ気に入らねえ奴は蹴りつけてやるがな』
「何か言いました? 踏み潰すとか、蹴りつけるとか」
「はっ? いえ、何も喋ってはおりませんが?」
あれ? 今確かにガラの悪い男の声がしたんだけど。
『えっ? もしかして俺の言葉わかんの?』
「ほら! 今『俺の言葉がわかんの?』言ったよ!」
俺の訴えも虚しく、男とジュリア姉さんは不思議そうな顔をする。
「ジェド君。今、お兄さんは何も言って無かったけど?」
「そう……かな?」
『おっ! すげぇ。このガキ俺の言葉理解してやんの』
「ほら! また!」
俺がそう言うと、二人は顔を見合わせる。
すると、ジュリア姉さんは苦笑いを浮かべ、
「ごめんなさいね。私の弟が変なことを言ってしまって」
「いえ、大丈夫です。それでは私仕事があるので。ほら行くぞ、トン吉」
男が馬の手綱をくいと引っ張り、歩き出す。
馬は嫌がるような素振りをしてから、パカパカと歩き、顔を一度俺の方へと向けた。
『俺はカン吉だ! トン吉は耳の短い方だよ。コイツいつになったら覚えんだよ。おい! ガキ! 後で俺の小屋に顔出せよ!』
今、絶対馬が俺に話しかけた!
聞こえたのは俺だけ? 馬が喋るだなんて信じられない。異世界の馬は人間の言葉を話せるのか?
馬は男に連れられて遠ざかっていく。
「ねえ、ジュリア姉さん。馬って言葉を話せるの?」
「馬? 馬は喋らないわよ? それは他の動物も同じよ 」
俺が五才の子供のおかげか、ジュリア姉さんは優しく諭すように答えてくれた。
これを生前の年齢で言っていたら完全にアウトであろう。
「知性の高い魔物なら、少し言葉を話すらしいけどねー」
「例えばどんな魔物?」
「ゴブリンが進化したゴブリンキングとかかしらねー」
知性のある魔物かー。魔物の事は父さんと母さんからよく聞かされていた。
独自の生態を持ち、人々を襲うもの。
それは魔物それぞれ温厚だったり、凶暴だったりと個体にもよるものだが、基本的に魔物は人間の敵だ。
人間達は代々とそう教えられている。
「魔物かー」
人を襲うという魔物に恐れを感じる反面、俺は未知の存在という物に興味を抱くのであった。