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旅のお供はヤックルバンク

 

 コザック村から旅立ち、俺は大樹の根元にある幻惑の森を目指す。


 周りは相変わらず木々に囲まれているが、上を見れば高く伸びる大樹が見える。


 こんなに遠くからでも大きく見えるのに近くで見たらどうなるのやら。


 あれほどの大きさと美しさを誇る大樹の真下で是非ともあれを見上げてみたいものだ。


 できれば登ってみたいが、できないのだろうか?


 大樹の中には螺旋状の階段があって、それが上空まで続いているとか。


 そんな風に妄想を膨らませながら道を歩いていた時に叫び声が聞えた。


 こんな所に人間などいるはずがないので、恐らく魔物か動物の声。


 妄想の世界から一気に現実へと引き戻されて、警戒態勢に入る。


 全言語理解という能力のお陰で大概は安全に一人旅ができるわけだが、その能力のせいで変態扱いされるので複雑な気持ちだなあ。


『どわああああああ! ちょ、来るな! 来るなあー!』


 そんな風に思っていると、声は次第に大きくなり近くなる。


 横道の木と木の間から奥を見ると、二つの影が猛スピードでこちらにやってきた。



 白い体毛をしたイタチのような動物。細くてしなやかな体躯をしており小柄だ。特徴的な部分と言えば二つに分かれた尻尾であろう。案外魔物かもしれないな。


 その後ろには、ここ最近行動を共にしたグレイトウルフだ。


 恐らく俺と行動を共にした個体ではないのだろう。


 周囲に他の仲間の気配もないし、はぐれなのか、別行動中なのだろうか。


 どうするべきか。ここは自然に成り行きを任せて無視するべきだろうか。それとも交渉して助けてあげるべきだろうか。


『あっ! あんなところに人間! ラッキー! それならこのワンコをやっつけてもらおう。腰に剣とか挿しているし大丈夫だよね』


 うわー、あのイタチ野郎俺に押し付ける気だよ。さっきまで蛇行していたのに真っすぐとこっちに向かってくるし。


 魔物を他人にけしかける魔物行進かよ。盗賊や悪質な冒険者はこういう事をして、他人を陥れるらしい。もちろんエーテルにそんな事をする冒険者なんていないのだから安心なんだけれど。


 どれ、ここはいっちょ押し付けられる前に逃げてしまおうか。


 そう判断して俺は道を一気に駆け出す。


 あのイタチからは嫌な予感がするんだ。


『ちょっとー! 何で逃げやがるんだあのクソ人間! 俺の土産はいただけねえってか!? 待てやコラ!』


 ほら、もう普通じゃないって。あれはきっと魔物の類だよ。


『ヤック様の華麗なターン!』


 茂みから飛び出したイタチは俺のいた場所へと着地すると、すぐさま地面を蹴って俺の方へと切り返す。


 ワンテンポ遅れてグレイトウルフもそれに続く。


『すばしっこいネズミが!』


『誰がネズミかっ! 俺にはヤックルバンクっていうカッコいい名前があって、うわあ! 今耳の後ろでガチンって音がした!』


 何だろう。俺には猫とネズミが争い合うあれにしか見えないのだが。


『ちょっとそこの人間待てよ! こんなに可愛らしくてか弱い動物が追いかけまわされているというのに助けようと思わないのか!?』


 ああ、一応動物だったのか。


 邪悪な心と尻尾が別れていることからてっきり魔物の類かと思っていたよ。


 ほら、千年生きた猫は化け猫になるって言うし。


 なんとか引き離せないものか。


『ちょっと何で走るスピード上げるんだよ! 俺の脚なめんなよ!』


「後ろに飢えたグレイトウルフがいれば誰でも逃げるだろ!」


『その腰に挿してある物は飾りか!』


 ヤックという動物はそう怒鳴りながらグングンと俺へと迫る。


 それに合わせてグレイトウルフもグングンとスピードを上げる訳で、俺は瞬く間に追いつかれてしまった。


 俺は牽制の為に剣を抜く。


『ちょっと違うやろ! 明らかに向けるべき対象は後ろの狼だろ! 何で俺に向けるんだよクソ人間!』


「グレイトウルフを人にけしかける奴など邪な奴に決まっている。よってお前は魔物だ!」


『はああああっ!? 意味がわかんねーし! それならこっちにも考えがあるんだからな』


 するとヤックは尻尾をわなわなと震わせると、俺の剣へと跳びかかってきた。


「なっ!?」


 すばしっこさを生かして瞬く間に俺の体へと上って来る。


『ふう、これで一休みできるぜ』


「早く降りろよ!」


 俺はヤックを掴もうとするが、奴はちょこちょこと体を這いまわり俺の手から逃れる。


『いひひひひ! 捕まんねーよ』


 この野郎。あとであの尻尾を硬結びにしてやる。


『つーか、いいの? 狼さんが跳びかかってきそうだけれど?』


 言われて振り向くと。口を大きく開けたグレイトウルフが空中にいた。


 俺はすぐさまに体を投げ出して、牙から逃れる。


『ぶえっ! 転がるなら先に言えっての!』


 リュックと共に投げ出されたヤックが抗議の声を上げる。


 グレイトウルフは既に着地してこちらの出方を窺っているようだ。


 俺はパンパンと服に付いた土を払い立ちあがる。


「よーし、落ち着けグレイトウルフ。話せばわかる」


『『言葉通じないのに話すもクソもねーだろーが』』


 即座に二匹から突っ込まれてしまった。


「ならばグレイトウルフ! お前はどうして俺の言葉がわかるんだ!」


 俺はビシッと指を突き付け、グレイトウルフにそう言い放つ。


 通常人間と魔物の言葉が通じるなどあり得ない。あり得ないのだ。


 それなのに今奴は、人間である俺の言葉を理解して会話をした。


 これは言葉が通じているという証だ。


『なっ! 確かに! 人間の言葉なんてわからないはずなのに、お前の言葉がわかる』


『えー、うっそだー』


 驚愕するグレイトウルフだが、ヤックとかいう奴は胡散臭そうに声を上げる。


「嘘じゃねえよ!」


『うおお! 本当に俺の言葉がわかんのか!? お前実は動物なのか?』


「広い意味では人間も動物だが、ちゃんと人間だぞ」


『ごめん、訳がわからない。動物なの? 人間なの?』


「人間だよ!」


『だったら普通にそう言えよ』


 つまんなそうな声でそう言うと、ヤックは勝手に俺のリュックをクッション代わりにして寝転がる。


 何だろう。こんなに腹立たしく思えた動物は初めてだ。顔にあるヒゲを抜いてやりたい。


『……という事は俺……もしかして高位の』


「ああ、フェンリルとか大層な奴に進化とかしていないから。俺の能力だから安心して」


 歓喜に身を震わす、グレイトウルフの言葉の続きを俺が遮る。


 コザック村の近くで最初に出会った個体の時もそうだったから、今回もあそうなのかなってね。


 いや、だってその気にさせると話聞いてくれないし、気が大きくなるし面倒くさいんだよ。


 ちらりとグレイトウルフの方を見ると、何故か脚から爪を生やして跳びかかってきた。


『俺だって夢くらい見たっていいだろうが!』


「うわあ! やめろ! 魔物も夢とか見るのかよ!」




 それからグレイトウルフと格闘することしばらく。


 落ち着いた俺は冷静に事を話した。


『えっ!? まじで! あの蜘蛛達もういないの!?』


 どうやらこのグレイトウルフはこの間に会ったグレイトウルフ達と離れた場所で、今は暮らしているらしい。そのせいでまだジャイアントスパイダ―が全滅していると知らなかったようだ。


「そうだよ。皆で倒したから。他のグレイトウルフ、えーとグラフとベートも元の縄張りに戻っている頃だよ」


 グラフとベートとは俺とジャイアントスパイダーを狩った二匹のグレイトウルフである。


 いや、その後多くのグレイトウルフと行動したし、姿は似ているし覚えるのも難しいんだよ。


『おお、あいつらもいるのか。それじゃあこうしちゃいられねえ。俺も仲間に伝えて皆で戻るわ!』


 俺の話を聞いていてもたってもいられなくなったグレイトウルフは、いそいそと森へ戻ろうとする。


「ちょっと待って!」


『なんだ?』 


「お腹空いてるだろ? 肉持っているからあげるよ」


『本当か!? そこのヤックとかいうネズミを丸焼きにしてくれるのか?』


『ちょ、ちょちょ、ちょい待て。俺は食っても美味しくないぞ!』


 俺達の会話が聞こえていたのか、リュックの上で寝ていたヤックはガバッと跳び起きる。


「そうしたいんだけれど、今は時間が勿体ないから干し肉とかを分けてあげるよ。生肉も少しあるしね」


『おい! そうしたいって』


 俺はぎゃあぎゃあと喚くヤックをリュックからどかすと、肉を布で包みグレイトウルフの背に巻き付けていく。仲間がいれば肉をとることができるであろう。


 今もお腹が空いていると思うので、二キレのお肉を渡してあげる。


『それじゃあ言って来るわジェド! 肉くれてありがとうな!』


「はいよ、気をつけてな」


『もう二度と俺を襲うなよ』


 俺とヤックは軽やかに駆けていくグレイトウルフを見送る。


『んで、ジェドはどこに行くんだ?』


「幻惑の森だけど?」


『幻惑の森って?』


「あの大樹の根元にある森だよ」


 人間の呼び名ではわからないヤックの為に、俺は大樹を指さして答える。


 小さいから見えづらいのか、ヤックは俺の体を上って肩へと座る。


 頬の辺りに白い体毛や尻尾が当たってこそばゆい。


 結構ふかふかして柔らかいんだな。


 ヤックは器用に二本脚で立ちあがると「あー」と声を漏らす。


『あそこか! あの辺りなら俺の庭みたいなものだぜ。助けてもらったお礼に案内してやるよ』


「えー? お前が?」


『何だよ! こう見えても俺は凄いんだからな!』


 俺が疑い視線を送ると、ヤックは尻尾で俺の頬をペチペチと叩く。


 やめてくれ。ちょっとこそばゆい。


「はいはい」


『あー! 信じてないな!』





 ×     ×     ×




 クレアからギリオンへの手紙


 ちょっと!? いけない所からお金を借りるってどういう事ですか!? 悪い所からお金を借りるなんていけませんよ! 貴族としてそんな事は許されませんよ? 


 ちゃんと家から出してあげるのでそれだけは止めなさい! 


 ×     ×     ×



 ギリオンからクレアへの手紙


 部屋で魔法を試したら、ドアが吹き飛んだ。


 すると、俺の聖域に寮長達が土足で踏み込んできた。ちょっとドアが外れただけなのにグチグチとうるさい爺達だ。


 そう言ってやると、今すぐ弁償しないと追い出すとか怒りだした。


 何て理不尽だ。


 だから俺は借りてしまった。いけない所から…………。


 正確には奴と言うべきであろうか。





 始めましてクレアお義母様。


 この度は変わりまして、ギリオン様の婚約者である私エメリア=アーデンハイトが報告をさせていただきますね。


手紙はあくまでサイドですからね?


一応それに沿って話が進むことはあると思いますが。

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