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ジャイアントスパイダーの脚

日間ランキングの12位くらいに浮上してきました。

ありがとうございます!嬉しくってまた投稿しました。

 

 グレイトウルフの食事が終わった。それからたくさんの余っていた脚のいくつかを彼らの住処へと運びこむことに。


 さすがに俺達だけでは運べない大きさだったので、グレイトウルフは多くの仲間を呼んで住処へと運び込んでいった。


 こうすれば当分彼らが飢えることはないし、人を襲うようにもならない。


 後はジャイアントスパイダーをもう少し狩れば、元の縄張りへと戻れるであろう。


 それが終わる頃には、夕方と昼の間の中途半端な時間になったので、今日は村へと戻る事にする。


 念のために討伐の証明として、脚に付いていた棘や、分厚い甲羅のような皮を一部剥いで持ち帰る。


 グレイトウルフ達にまた明日も頼むぞと言い、俺達は別れた。


 ジャイアントスパイダーのお陰で、今日は森を散々走り回ったせいか疲れた。


 村でゆっくりと休みたいものだ。




 と思った俺だが、


「ジャイアントスパイダーを四体も!? 本当ですか!? この紫色の棘と甲羅のような皮は……間違いないですね。それで倒した場所はどこで?」


「えっと、少し奥にある巣穴のような開けた場所です」


「素材を回収しましょう」


「えっ? でも、まだ他の個体がいるかもしれないし危険じゃあ」


「大丈夫です。彼らは個体数がそれほど多くありませんし、それほど群れませんから。日が暮れる前に急ぎましょう! 今夜は宴ですよ」


 という事で、村に帰ったところで俺はUターンする事に。


 ロザック村長が声をかけると、すぐに狩人や力自慢の若い男達が集まった。


 この面子だけでジャイアントスパイダーが狩れると思ったのは俺だけであろうか。


 浅黒い肌に筋肉が隆起している男性なんて、ニードよりもよほど強そうに見える。


 最初は俺みたいな少年が本当にジャイアントスパイダーを狩ったのか? という視線を向けられたが、俺が棘や皮を見せると納得してくれた。


「小さくてもさすがは冒険者。やるじゃねえか」


 と背中をバシンと叩かれた。


 それで吹きとばなかった俺を褒めて欲しい。


 ちなみにニード達はまだ戻って来てはいない。


 アッシュモンキー達は、この夕方の時間を狙って畑や村に近付いてくることが多いのだそうだ。


 まあ、あいつらならば大丈夫であろう思い、俺達はジャイアントスパイダーの巣へと向かった。


 他の魔物を警戒しながら歩いたが、特にそれらしき気配はなく、すんなりと巣へと辿り着いた。元々ここはジャイアントスパイダーの巣だったのだ。他の魔物はそれを理解しているか近付く奴はいないのであろう。それはグレイトウルフも同じような事を言っていたし。


 俺が魔物だったとしても絶対近付かないね。


「おー! すげえ! あの化け物達が無残に転がっているぜ!」


「この個体なんて見てみろよ。脚が一本もないぜ。全部綺麗にすっぱりと切断されてやがる」


 そこらに転がった四体のジャイアントスパイダーを見て、男達が歓声を上げる。


 いや、その個体は脚を半分落としたのに、わしゃわしゃと這いずってくるのが気持ち悪くて。全部脚を落としてから脳天にとどめを刺したんです。


 日が暮れると夜行性の魔物も現れたりして、危険になる事がわかっているので男達はさっそく解体、素材の回収へとかかる。


 いくつかグレイトウルフに持ち帰らせたせいか、無くなっているものがあるが気にしてないようだ。何か聞かれたら、戦闘で吹き飛んだという事にしておこう。他の魔物が持ち帰った説も有効だ。


「一体どんな技を使ったんだろうな。切断面が綺麗すぎやしないか? まるでダルマだぜ」


「有名な冒険者ってのは本当だったんだな。ジャイアントスパイダーの巣に一人で乗り込むとかあり得ねえ……」


「やべえ、俺さっきジェドとか軽々しく呼んじまったよ。後で殺されないかな?」


「それで、ジャイアントスパイダーのどこを回収するんですか?」


「「ひゃいっ!?」」


 俺も手伝おうと思って声をかけたのだが、男達は奇声を上げてビクリと体を震わせる。


「すんません! ジェドさん! さっきは舐めた口をきいて!」


「どうかダルマだけは勘弁して下さい!」


 声を震わせながら、何度も頭をこちらに下げてくる男達。


 一体どうしたと言うのだ。


「何のことかわかりませんが、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ。さっきは気安くジェドって呼んで背中を叩いてくれたのにどうしたんです?」


 何てことのない事を言ったのに、彼らは顔を青くさせる。


「おい、お前死んだな。ジェドさんはやっぱりさっきの事怒っていらっしゃるぞ」


「そ、そんなあ! お願いです! ダルマにはしないで下さい! お願いします!」


 男達はぼそぼそと話したと思ったら、急に一人の男が泣きながら土下座をしてきた。


 本当に訳がわからない。


「だから、一体なんなんですか!? どこの部位を斬りおとすのか、聞いているだけですよ?」


「ああっ……やっぱり……」


「ひいいい! そんな!? どうか小指! 小指だけで勘弁して下さい!」


 ジャイアントスパイダーのどこの部位が必要なのか聞いただけなのに、一人の男は悲壮な表情で顔を手で覆い、土下座をしていた男は顔をぐしゃぐしゃにして俺の腰にしがみ付いてくる。


 もはや意味がわからない。ジャイアントスパイダーに小指とかあるのだろうか。前脚? 後ろ脚? 脚を指に見立ててそう呼んでいるとか? いや、でもジャイアントスパイダーの脚は八本なんですけど? だったら小指というのはおかしいのではないだろうか。


「脚じゃないんですか?」


「あ、足!? それだけは! 俺が歩けなくなってしまいます!」


「は?」


「え?」


 俺と男は無言で顔を見合わせる。


「……舐めた口をきいた落とし前として、俺の脚を斬りおとすのではなくて?」


「何で俺があなたの脚を斬りおとすんですか!」


 俺はどこのヤクザだよ!





 変な誤解はあったものの、ジャイアントスパイダーの解体は無事に終わった。


 主に脚さえ持って帰れればいいらしい。


 何に使うのかと尋ねてみると「ジャイアントスパイダーの脚は旨えんだぜ!」


 と二カッとした笑顔で言ってくれた。


 それを聞いて俺は「……ああ、やっぱりか」と複雑な気持ちになった。


 わしゃわしゃと動いていたあの脚が……旨いのか。




 村に戻ると、女性や小さな子供達の皆が力を合わせて宴の準備をしていた。


 大きな木を重ね上げたところには既に火がつき、キャンプファイヤーのように炎が舞い上がり、火の粉を散らす。


 俺達が運び込んだジャイアントスパイダーの脚を見ても、村人達は感嘆の声を上げて調理へと取り掛かった。やはり誰も気持ち悪がったりはしないようだ。過去に食べたことがあるのか、随分と手馴れた様子だった。


 甲羅のような皮が叩き割られ、次々と焼かれていく。


 慌ただしく動き回る村中で、一人ぽつりと座っているのも悲しいので、子供達に混ざって俺も椅子やテーブルを広場に設置していった。


 すると村はすっかりと夜に包まれ、あちこちでたき火が上がる。


 既に多くの村人達が広場へと集まり、賑わいを見せている。


 ニード、アイリ、レッグも討伐が終わったのか既に席へとついているようだ。


 ニードに呼ばれて俺も同じ席へとつく。テーブルには既に多くの料理が並べられており、どれもこれも美味しそうだ。


 この厚い皮に包まれたピンク色の奴が、ジャイアントスパイダーの脚か。


 俺は大皿に載った、ジャイアントスパイダーの脚をまじまじと見つめる。


 どこのテーブルでも大きなお皿に、それはタワーを築くかのように盛り上げられていた。


「しっかし、これだけやたらと多いな」


「何だろうね。楽しみ」


「俺達が狩ったブラックボアの肉じゃないか?」


 彼らは知らないのだろう。これがジャイアントスパイダーの脚だという事に。


 まあ、面白いので黙っておくことにする。


 それから、ニード達のアッシュモンキーとブラックボアを数匹狩ったという事を聞くと、ロザック村長が短い祝杯の言葉を上げると、食事が開始された。


 果実酒やエールを掲げて、広場はあっという間に陽気な笑い声に包まれ。賑わう。


 俺達のテーブルではさっそくアイリがジャイアントスパイダーの脚へと手を付けた。


 でろりとピンク色の身が垂れ下がり、特製の茶色いタレへと浸らせる。


 そしてそれをアイリが頬張る。


「ねえ、これめちゃくちゃ美味しいんだけれど!」


 それを聞いてニードとレッグが「本当か!」という声を上げて食べる。


「本当だ! 旨えっ!」


「……今までに食べた事のない味だ」


 満足そうな顔を浮かべるニードとレッグ。


 俺はそれを見てごくりと喉を鳴らす。


 気付けば俺の手は自然とそれへと手が伸びていた。


 まずはタレをつけずに、そのままの味を味わう。


 むっちりとした食感、それに濃厚な蟹のような味が口の中に広がる。


 こ、これは美味しい! 本当に蟹じゃないか!


 ジャイアントスパイダー。あのグロい見た目の割にすごく美味しいではないか。


 ニード達も気が付けば夢中になっており、気が付けば俺も無言で食べていた。


 あちこちのテーブルでもジャイアントスパイダーの脚が無くなるが、次々と追加されていき再び山を築く。


 一瞬、脳裏にわしゃわしゃと動いていた蜘蛛の姿が脳裏に浮かぶ。


 …………うん、気にしない事にしよう。ここは地球よりも厳しい異世界。そんな事を気にしてどうするというのだ。美味しければそれでいいではないか。


 そうこれは蟹なのだ。そう何も気にする事ない。


「はあー、お腹も一杯になってきたわ」


 アイリがホッと息をついてから、伸びをする。


 胸をはった体勢になるが、悲しいかな。そこには膨らみが微塵もなかった。


「うはは、俺はこれをあと五十本は食えるぞ!」


「俺なら百はいけるぞ」


 ニードとレッグは上機嫌にそんな事を話す。お酒が入っているせいか顔も凄く赤いし、さっきから声もデカい、すでに出来上がっているようだ。


「ところでジェドの方はどうだったの? グレイトウルフとかジャイアントスパイダーがいたんでしょ? 今日は偵察とグレイトウルフを狩ったってところかしら?」


「いや、ジャイアントスパイダーの巣を一つ潰したよ」


「巣を潰したの!? 一体や二体じゃなくて?」


 そう答えると、アイリがテーブルをバンと叩いて、身を乗り出してくる。


 隣ではニードが「おい、揺らすなよ」と文句の声を上げたが、アイリは気にしない。


「うん、四体。途中から合流してきて大変だったよ。あいつらデカいから威圧感も凄くて」


「……へ、へえ。それで村の皆の顔も明るかったのね。そんなに沢山狩ったら……素材も沢山とれるし―――」


 顔を引きつらせながら言うアイリだったが、最後に言葉が止まる。ジャイアントスパイダー。多く積み上げられた食材。喜ぶ村人。他のテーブルから聞こえる脚という言葉。


「……ねえ、ジェド。もしかして私達が食べていたものって……」


 恐る恐る聞いてくるアイリに俺はにっこりと笑って答えた。


「ジャイアントスパイダーの脚だよ」


 喧騒に包まれた広場につんざくような悲鳴が上がった。







 ×    ×    ×



 グラディスからクレアへの手紙。


 母さん、しばらく騎士団の遠征があるのでしばらくは手紙が書けないと思いますがお許し下さい。


 これも騎士団の務めなのです。仕方がありません。


 また後ほど、落ち着いた頃に連絡をいたします。



 ×     ×     ×



 クレアからグラディスへの手紙。


 本当に貴方達兄弟は似ていますね。普段は似ていないのに痛い所を突かれた時の逃げの反応がとにかく似ています。母さんとしてはそんなところ似て欲しくなかったです。


よければ評価をお願いします。

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