追いかけられて
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「おわあああああああああああああっ!」
俺は現在、森の中でとある魔物に追いかけられている。
それはジャイアントスパイダーと呼ばれる、巨大な蜘蛛。
奴は大きな八本の脚を使って、森の中を自分の庭のように駆け抜け、俺達を捕食しようとする。
「ちょっとあの大きさはマジでヤバいんだけど! おい、お前達、何とかしろ!」
『あほ! 無理だよ! あんなのに俺達でも勝てるわけねえだろ』
『あいつに勝てたら俺達こんなところにまで来てねえよ!』
俺の隣で平行するように走るのはグレイトウルフという魔物。
俺がこの森に入って最初に出会ったところを生肉と会話で何とか懐柔し、案内役を頼んだのだ。
グレイトウルフによると最近コザック村近辺に魔物に現れるようになったのは、強い魔物が森の奥からやってきたせいだと言う。
本来ジャイアントスパイダーはもっと森の奥で生息しているはずだったのだが、ここ最近で急にやって来たとの事。恐らく、強力な魔物が現れて、縄張りを追い出されたのではないかというのがグレイトウルフの意見だ。
現にグレイトウルフやアッシュモンキーなどはジャイアントスパイダーがやって来たせいで、縄張りを移動するはめになったらしい。
後ろをちらりと確認すれば、赤く光る多くの複眼と目があった気がした。
俺達は体格の差を生かして、狭い道や樹木の多い道を駆け抜けるが、ジャイアントスパイダーは大きな巨体と多くの脚を持つにも関わらず、樹木や狭い道をひょいと躱して追ってくる。
『おいおい、ジェド。お前魔物と会話できるんだろ? 何とかしてくれよ』
「無理だっつうの。あいつ俺の言葉を理解しながらも、食おうとしてきたんだぜ?」
そうなのだ。俺はあの蜘蛛に対して話せばわかると思い接近した。もしかしたら、グレイトウルフの様にギブアンドテイクの形でなんとかなるもしれないと思い、勇気を振り絞って声をかけた。
虫とは話せないが魔物ならばあるいは。そんな微かな願いを込めて。
そして俺が話しかけると、ジャイアントスパイダーは確かに反応した。奴は言葉こそ発さないも俺の言葉を何となく理解している模様だった。
事実、奴は俺の言葉を耳にして困ったかのように脚で頭を掻いた。
そして迷った挙げ句に俺へと近付き、鎌のように鋭く尖った牙でまるかじりしようとしたのであった。
あの時は肝が冷えた。あのまま避けなかったら俺の首は繋がっていなかったであろう。
『ちっ、使えない奴だな』
グレイトウルフが器用に舌打ちをする。
「お前達こそ魔物の癖に戦うなり、交渉するなりしろよ!」
『『無理無理』』
『だってあいつ話なんか聞いてくれないもん』
『近付いただけで糸でぐるぐる巻きにされちまうよ。あいつら糸で巻いて窒息させたあとまるかじりするんだぜ?』
『あいつからしたら俺達なんて話すに値しないんだよ。というか俺達よりも本能に従って行動している分、そういう考えなんてないんだろうよ』
ま、まるかじり。それはえぐい。
くそ、やっぱり会話ができるからって全てがうまくはいかないか。
それにしても、グレイトウルフとジャイアントスパイダーは本能にどのくらいの差があるのだろうか。そこらへんは結構謎だな。脳とか理性や知性とかと関係があるのだろうか?
『あっ! やべえ! 前を見ろ!』
隣のグレイトウルフの叫び声により意識を現実へと引き戻し前を見ると、そこにはあちこちに張り巡らされた糸が。
ここは奴の巣なのだろうか。これまでの狭い道よりは少し開けており余裕がある。
しかし、これでは進めない。前は粘着質な糸が張られて、後ろには迫りくる蜘蛛。
行き場を失った俺達の足が止まる。
おのれ、蜘蛛の癖に俺達を誘導して誘いこむとは。
『これじゃあ進めないぞ!』
グレイトウルフの焦った声が上がると同時にジャイアントスパイダーが跳躍してくる。
それを見て俺達は即座に下がる。
響く轟音。
俺達がつい先程まで立っていた場所は、大木のような脚に踏みつぶされて大きく陥没していた。ジャイアントスパイダーが俺達の唯一の出口を塞ぎ、じりじりと寄ってくる。
奴はもう俺達を追い詰めているとでも思っているのだろうか。
「……こうなりゃやるしかないだろ」
退路はない。話しも通じない以上はやるしかないだろう。
出口はないがここなら開けているので戦いやすい。どのみち奴はこのまま逃げ続けようが追ってきそうだ。それならばここで倒すしかない。
『や、やべえって』
『……ま、まるかじりは嫌だ』
俺は覚悟を決めて構えるも、二匹のグレイトウルフは耳や尻尾をぺたりとしてすっかりと縮こまっている。
突撃して囮になってもらいたかったが、あれでは難しそうだ。
ならせめて、狼の俊敏さを生かして逃げまわってもらおう。
「おーい、お前ら! とにかく逃げ回って注意を引け!」
『そ、それでどうするんだよ?』
俺が声をかけると、グレイトウルフはビクリと反応させて震えた声で俺へと問いかける。
「その間に俺が逃げる」
『『ふざけんな!』』
「嘘だって嘘! だから俺へと牙を向けるな! 緊張をほぐしてやったんだよ」
今にも俺を道連れにしようとばかり様子に、俺は慌てて手を振って否定する。
全く、冗談も通じない狼達だな。
「魔法を放つからちょっと、あの蜘蛛の気を引いてろよ!」
『逃げるなよ?』
「俺の気を引こうとするな!」
× × ×
結局、ジャイアントスパイダーは俺の風魔法によって倒すことができた。
途中で巣へと帰ってきた他の個体がいたが、それもなんとかグレイトウルフが囮になってくれたおかげで乗り越えられて。グレイトウルフが調子に乘って糸で拘束される事もあったが、全員大した傷を負う事なかった。
『うわぁ、まだ何か糸が巻き付いているようで気持ち悪い』
『ははは、調子に乘って突っ込むからだろ』
最初は借りて来た猫のように身をすくませていたが、今ではすっかりと元気になってこの調子だ。
俺達の目の前では四体のジャイアントスパイダーがダルマのように転がっている。赤く発光していた不気味な複眼も今では色を失っている。完全にくたばったようだ。
さすがにこの巨体では風魔法を避ける事は難しかったみたいだ。
中級の風魔法で脚を切断してから、とどめを刺したのだ。
『おっしゃあ、腹も空いたし飯でも食べるか』
『だなだな』
グレイトウルフ達は呑気な声を出すと、ジャイアントスパイダーの死骸の脚へと寄っていく。
そしてグレイトウルフ達は牙や爪を器用に使って、脚の皮を剥ぎだした。
さっきの言葉や行動から意味は理解できる。しかし、聞かずにはいられなかった。
「……お前達何してんの?」
俺がそう答えると、グレイトウルフの一匹が動きを止めて答える。
『ん? 食べるんだよ。見ればわかるだろ?』
わかるよ!? わかるけれど本当にそれを食べるの?
俺は崩れ落ちた蜘蛛をちらりと一瞥してから視線を戻す。
『ああ、こいつら見た目はあれだけど美味いんだぜ?』
蜘蛛が? ジャイアントスパイダーが?
『好き嫌いなんかしていて、弱肉強食の魔物の世界なんて生き残れるわけがないだろうが。まあ、こいつは美味しいから喜んで食うんだけれどな』
そう答えると、グレイトウルフ達は黙々と硬い皮を剥いでいく。
すると脚から蟹の身のようなでろんとした繊維が顔を出した。色はピンク色だけれど。
グレイトウルフ達はその繊維にかぶりつき、むしゃむしゃと食べていく。
『ジェドも食うか?』
「い、いや、遠慮しとこうかな」
さ、さすがに死骸の前でこれを食べられるほど俺の神経は図太くない。
それにしても本当に美味しいのだろうか?
× × ×
グラディスからの手紙
母さん。グラディスです。
暖かくなってきたこの季節、そちらはいかがお過ごしでしょうか?
母さんとジュリアは体調を崩してはいないでしょうか?
父さんはこの間会いに来てくれたので大丈夫だろうと思います。
一目見なくても、父さんは大丈夫だろうとは思っていましたが。
私は、騎士学園次席を卒業して、騎士団に入団する事ができました。
騎士学園とは段違いに厳しい訓練や演習に、やりがいを感じております。
騎士団には実力者も多いです。父さんに鍛えられてそれなりに自信のあった私ですが、まだまだ敵いません。特に騎士団長の剣捌きは盗むべきところがたくさんあります。
私も騎士団長のような強くて誇り高い人になりたいと思います。
ところで噂を小耳にはさんだのですが、エーテルの街にはハニーバードを恋人にしている変態冒険者のジェドがいるだとか。あいつは一体何をしているのでしょうか? 「世界を見るんだ!」と言っていたジェドですが、私達の想像のつかない世界を見ていそうです。
もし、その噂が本当だとすると次にジェドに会った時、どんな顔をすればいいのかわかりません。
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クレアからグラディスへの手紙
クレアです。こちらは変わりなく元気に過ごしています。
領主代行になったジュリアは毎日が忙しそうでありますが、やりがいを持って取り組んでおりとても楽しそうです。とてもいい笑顔で人々をこき使……人々と働いております。
騎士として順調にやれているようで、母さんは安心です。
父さんも立派になってきたと言っていましたよ。父さんから話を聞いて母さんも安心しました。
ジェド君に関しては母さんも心配です。母さんもジェド君の知り合いの冒険者からお話しを聞きました。
ジェド君は否認していますが、噂と話を聞く限りでは怪しいです。今度じっくりと問い詰める必要があります。ええ、じっくりと。
恋人といえばグラディスはどうなのです? 恋人や婚約者はできたのですか? ジュリアがいるとはいえ、領地を継ぐのは貴方なのですよ?
クリフォード家の長男としての自覚を持って、生涯の良き伴侶となる女性を見つけて欲しいです。
よければ評価してやってください。




