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コザック村

 

 あれから俺達は凶暴な魔物に出会う事なく、幻惑の森から一番近いとされているコザック村へと着いた。近いといっても歩いて一日半くらいはかかるらしいので、それを考えると少し辛い。この村でしっかり準備をして向かわなければ。


 俺は馬車の中で、自分の荷物を纏める。


 途中でサーベルタイガーを撃退したお礼のお陰で、リュックの中はパンパンだ。


 保存食の塩漬け肉や干し肉などの各食材を少し頂いた。これで村から買わなくとも良さそうだ。


 何はともわれ、今は長い旅路による疲れを癒す事が先決だ。


 早く体を洗いたいものだ。



 コザック村はいたって普通の村だ。


 商人が来たおかげか、買い物や物々交換をするために続々と村人達が集まる。


「塩や砂糖はあるか?」


「ありますよ。いっぱい持ってきました」


 こういう田舎の村は、街や王都のように資材や食材が豊富ではない。そのため、商人がこうやって来る。勿論商人にとってわざわざ遠い村を回ることは利益になる。


 その土地ならではの資源や食材、布などといった物と交換できるからである。


 それらの物を他の地域で売りさばく事で商人にも利があるのだ。


 他の地域でそれが大層人気であれば、商人はそれを求めて村へと豊富な資材や食材で交換しようと頻繁にやって来る。


 なので、村では特産品を作る事も大事なのである。


 最も、村があるという事は、それなりに良い物が周囲にあるというわけだが。


「あれ? 今回はいつもと違って、薬草や花の油が少ないですね?」


 俺を乗せてくれた商人の男が怪訝な声を上げる。


 どうやら交換するのに期待していた物が今回は少なかったらしい。


 さっきまで賑わっていた村人達の顔が曇る。


 どうやら何か困った事があったらしい。


 すると、一人の老人が人波を掻き分けて前に出て来た。


「いつもありがとうございます。村長のロザックです。実は、最近森の魔物が活発化したようで森に迂闊に入る事ができないのです。今まで見た事の無かった魔物が森へと現れて、何人もの村人が怪我を負っているのです」


「なるほど。それならば仕方がありません」


「……それで頼みがあるのです」


「ああ、勿論いつもの物が無くとも交換はいたしますよ」


 商人さんのその一言を聞いて、村人が安心したような顔をする。


「ありがとうございます。それと今回はもう一つ、護衛の冒険者を数日間我々に雇わせていただけないかと」


 確かに、今回の交換ができた所でこの村に襲いかかる魔物に対しての問題は何も解決しない。そういう意味では今回、やってきた商人さんの存在は村人にとっても何よりも嬉しかっただろう。商人は移動中に魔物からの襲撃を防ぐために冒険者を雇っているものなのだから。


「私としては三日、いや、四日くらいならここで留まることはできます。他の村も回らなければいけないので」


「本当ですか?」


 その言葉を聞いて、村人が喜びの声を上げる。


「ええ、後は冒険者さんが引き受けて下さるのならば――」


「それなら俺達に任せろ!」


 商人さんの声を遮り冒険者の男、ニードが自信満々の声を出す。


「おお、本当ですか! さすがは冒険者! 頼もしいかぎりで」


「やった、これで魔物に怯えずに済む」


「ああ、最近はおちおち森にも入れなかったからな」


 村人達が安堵の声を上げる中、魔法使いの女、アイリが叫び声を上げる。


「ちょっと! どんな魔物かも聞いてもいないのに引き受けちゃってもいいの!?」


「引き受ける事に異論はないが、どんな魔物か聞いてからでも遅くはない。俺達にも手に負えない魔物ならば困るぞ」


 弓使いの男、レッグも同意見のようだ。


 確かに、自分達の手に負えない魔物だったら困るものな。


 その場合には急いで、ギルドへと報告してランクの高い冒険者を派遣してもらう必要があるのだが。


「畑を襲う魔物ではブラックボアとアッシュモンキーです」


 なるほど、どちらも一度出会った事がある魔物だ。


 ブラックボアは黒い体毛に覆われた、猪型の魔物だ。アッシュモンキーは灰色の体毛をした非常な獰猛な猿。肉食だ。ブラックボアはともかく、アッシュモンキーは会話が通じないのが印象的だった。


 アスマ村から離れた奥地の山でも生息していた。


 そこにいたアッシュモンキーだけが特別かもしれなかったのだが、獰猛すぎて会話すらできなかったのだ。余程空腹だったのか気性が荒い性格だったのかは知らないが、俺が初めて倒した魔物だ。


 いくら会話が出来るとはいえ、全ての生き物と友好的にできるわけではないからな。


 魔物も人間も生きる事に必死な訳なのだし。


「数にもよるけれど、それならば何とかなりそうね。森の方は?」


「森の方ですと、グレイトウルフやジャイアントスパイダーです」


「ジャ、ジャイアントスパイダー!? 絶対嫌よ! やるならブラックボアとアッシュモンキーにしましょう!」


 ジャイアントスパイダーと聞いてアイリが顔を青くする。


 スパイダーってもしかして蜘蛛型の魔物のことだろうか。ジャイアントというくらいだから、アーガイルぐらい大きいのだろう。そんな蜘蛛を想像すると思わず背筋がゾッとした。


 アイリが嫌がるのも無理はない。


「そ、そうだな。ジャイアントスパイダーは森に現れると言うしな。森は森のスペシャリストに頼むとしよう」


「「「頼むぞ(わよ)! ジェド!」」」


「はっ!?」


 そう言ってニード達三人が俺へと視線を向ける。


 それにより、村人達の熱のこもった視線も俺へと集まることに。


 えっ!? これって俺が行く流れなの? 


「なるほど。確かにサーベルタイガーを生身で追い払うジェドさんなら、問題ないですね!」


 と、商人さんも納得した風に言う。


 ちょっとそんな!? 俺はそんな馬鹿みたいに強い冒険者じゃないんですけれど!?


「サーベルタイガーを生身で!? 見た目のわりに凄い少年なのですなあ」


 ロザックさんが感心した風に言うと、他の村人も「これは心強い」などといった安堵感が広がる。


「エーテル街でも有名な冒険者だしな」


 ニードがあからさまに俺を持ち上げる。どうやら、俺を参加させる気満々のようだ。こういう時だけ真面目に紹介するところが性質悪い。


「森の深くに一人で潜って毎回無傷で帰って来るくらいよ」


 アイリさん、ちょっとどうして一人って部分を強調するんだ!?


 それじゃあ、俺が一人でジャイアントスパイダーと戦わなくちゃいけないじゃないか!


「ああ、採集が得意で森のスペシャリストだとか。エーテルでは孤高の冒険者とも呼ばれているな」


 ああ、こいつらそのつもりだ。


「森の奥まで一人で! それは凄い」


 あからさまに森に行きたくないが故のアピールだったのだが、商人さんとニード達の援護のおかげか、素直に称賛するロザックさん。


 凄くいい笑顔をしている。


 こ、これは、今更行きたくないとか言いづらい。


 俺が顔を引きつらしていると、ロザックさんが俺の元へとやって来て手を握る。


「是非ともサーベルタイガーを無傷で撃退するその力を我々に貸して下され」


 そのロザックさんと村人達の真摯な瞳を向けられて、俺は弱々しく返事をするのであった。






 ×     ×      ×



 ギリオンからジェドへの手紙


 ちょっとばかりお金が足りない。


 金貨七枚を送って欲しい。金貨七枚だ。七枚必要なんだ。


 じゃないと、俺はあいつに借りを作ることになる。


 あて先はこの手紙の裏に書いてあるから至急送ってくれ。大至急だ。


 あとこのことは母さんに言うなよ?




 ×     ×     ×




 現在のジェド



 ジェドは幻惑の森へと向かっているため、この手紙を見ていません。


 宿のおばちゃんが預かっています。


ギリオンに必要な金貨の枚数は本来五枚です。

なぜ七枚と書いているかの意味は言わなくてもいいでしょう(笑)

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