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未踏領域

 

「なあ、『幻惑の森』って知っているか?」


 戦士風の男がいた場所に、腰を下ろした強面の男が突然そんな事を言う。


「幻惑の森?」


「ああ、さっきの冗談があそこまで長くならなければ、この話をするつもりだったんだけどよ」


 強面の男はジョッキを片手に持ちながら、俺に語る。



 ――幻惑の森


 エーテルの街から北東であり、アドレット王国と隣国エルリア王国との国境地帯にある大森林の事だ。


 遠くからでも見える大樹があるのが大きな特徴の森林の様だが、そこは人を惑わす森なのだとか。何人もの冒険者がその森に挑んだが、誰も大樹の元へと辿り着く事ができずに帰ってくるらしい。


「その大樹めがけて歩けば辿りつくんじゃないの? そんなに入り組んだ森なの?」 


「それぐらいなら誰も『幻惑の森』だなんて言わねえよ。大樹に向かって進んでいるはずなのに、気が付くと元の場所に戻って来るんだとよ」


「それなら特別な力を持った魔物が住んでいるとか?」


 この世界には特殊な力を持った魔物達もいる。


 魔法を使う個体、幻惑や睡眠、麻痺、毒などの力を持った魔物も。


 魔法や幻惑の力を持つ魔物は、他の魔物とは比べ物にならない程の厄介さであり、出会ったら逃走するのが一番とさえ言われている。


 ブロンズランクの冒険者が相手取るような魔物ではない。


「いや、確かにその森の近くには強力な魔物がいるとされているが、そういう類の魔物は誰も見てはいないな」


 幻惑系統の力は大抵が目を合わせる、粉を吸い込むなどからして引き起こされるもの。


 しかし、その森ではそんな事は全く無かったとの事だ。


「じゃあ一体どうして?」


 俺の呟いた言葉に、強面の男は笑みを浮かべて答えた。


「それがわからねえから面白いんだろ?」


 俺はその時、強面の男の顔が酷く眩しく思えた。


 それは大人になっても好奇心を忘れていない、子供のような無邪気な笑顔にも見えた。


「……森を自由に歩くお前さんなら、いけるかもしれねえな」




 ×      ×       ×



 俺は強面の男の言う『幻惑の森』とやらに行ってみる事にした。


 最近は俺が採集クエストを数多くこなしてきたので、クエストも少なくなってきた。


 薬師の人なんかは、薬を作っても作っても俺が大量に材料を持っていくものだから忙しくてたまらないらしい。


 弟子のいい経験になると嬉しがっていたが、目の下に出来たクマを見ると体調は大丈夫なのかと思ってしまう。


 そんな訳もあって、俺はエーテルの街を出て北東を目指している。


 北東にある村へと向かう商人の馬車に乗せてもらうが、途中からは徒歩になりそうだ。


 一応北東の方角を眺めてみたが、さすがにここからでは大樹は見えない。


 それもそうだ。ここから見えたらどんだけ大きいんだよ。


 などと自分に突っ込みながら、揺れる馬車の中でゆったりと寝転ぶ。


 気が付けば同じ道を歩いているという不思議な森がどんなものか見てみたい。


 一体どういうからくりでそのような現象が起こっているのだろうか。


 元々好奇心が強い方であったが、こんな風にわくわくするのは久しぶりだ。


 どうやら俺は、あの強面の男の笑顔と言葉に触発されてしまったようだ。



 それから馬車に揺られてしばらく。


 周りの景色は相変わらずの緑。動物や魔物も全く見当たらない。


 後方の馬車に乗っている護衛の冒険者達の楽しそうな会話が聞こえてくる。


 凄く暇だ。


 余りにも暇だったので、俺は屋根に止まった鳥を話し相手にしばらくは時間を潰していた。


 ただ、時間を潰すのも勿体ない気がしたので、幻惑の森について鳥に尋ねてみた。


『幻惑の森?』


「そうそう。大きな大樹が見える森らしいんだけれど」


 俺が聞いてみるも鳥は首を傾げて怪訝な声を上げる。


 鳥からするとそんな名称の森は知らないのか、この個体が知らないだけなのかはわからないが。


『俺からしたら木なんて全部大きいんだけど』


 鳥は自分の羽を嘴で整えながら素っ気なく答える。


 それは俺からしてもそう思えるよ。


「一つだけずば抜けて大きくて太い木がある所だよ」


 俺も話しでしか聞いたことがないので、これくらいの情報でしか伝えられない。


 だって見た事も入った事もないから。


『うーん……あっ! あれか! あの馬鹿みたいにデカくて太い木か!』


 しかし、太いというキーワードがヒットしたのか鳥は思い出したというように、勢いよく翼を広げる。


「うんうん。多分その森だよ。この先にあるらしいんだけれど」


 俺が聞きたい幻惑の森の事なのかわからないが、ここらへんで馬鹿みたいにデカくて太い木はその森だけなはずだ。


『あー、あの森か。あの森はいいよなぁ……水も餌も多くてよ。俺もたまに行くんだよ』


 鳥がつぶらな瞳を細めて遠く見るように、穏やかな声で答える。


 へー、そんなにいい場所なのか。それなのに誰も入れないとか残念すぎる。


 しかし、この鳥は森の中に入った事があるのか。


 人間は誰も入れなかったと聞くし、動物だから入れたのか、空を飛べたからなのか。


 まだよくわからないな。


「うんうん、それで?」


 そのまま黙って待っていても、続きの言葉がこないので俺は相槌を打って続きを促す。


『でも豊かな森だから、おっかない魔物が多いんだよなあ』


 あー、それは事前に聞いた情報と同じだ。


 幻惑の森の周囲には凶暴な魔物や、変わった魔物が多いらしい。


 蜘蛛型の魔物や蛇型の魔物なんてものまで。蛇はともかく、蜘蛛とか会話が出来る気がしない……。


 噂では空飛ぶ馬を見た、なんて言う人もいたのだけれど本当なのだろうか。


 蜘蛛や蛇はともかく、そんな魔物なら見てみたいな。


「へー、それにしても鳥さんは森に入れたんだ」


『うん? どういう事だ?』


「その森には入った事がある人間が誰もいないんだ」


『そうなのか?』


「大樹めがけていくら歩いても、同じ場所に戻ってしまうんだって。鳥さんはそんな事一度も無かった?」


『凄いなそれは。俺は一度もそんな事は無かったぞ?』


 そう答えて、鳥はトコトコと床を歩き回る。


 ふむ、やはり人間だけに起こる現象なのだろうか。


 もしかしたら人間も鳥と同じように空から行けば、たどり着くのであろうか。


 まあ、それが可能だとしても空を飛ぶことなんて出来ないのだから不可能だが。


 風魔法を使っても、滑空くらしか出来ないだろうし。


 俺が思慮にふけっていると、鳥が足を止めてこちらに振り返り、疑問の声を出す。


『ん? 人間は誰も森に入った事がないんだよなあ?』


「うん。そうだけど、それがどうかしたの?」


『でも、その森の中に人間がいたんだけど?』


「え? それってどういう――」


 俺は身を乗り出して鳥から詳しく話を聞こうとしたが、馬車が突然止まったために体勢が崩れ、口が閉ざされる。


『うおっ!? 何だ!? 何だ!?』


「な、何だ? 一体?」


 俺が状況を確認しようと起き上がったところで、男の悲鳴が聞えてきた。


「ま、魔物だーー!」


 どうやら魔物が現れたらしい。どんな魔物で数はいくらだろうか。


 俺も冒険者なので戦えるが。


『魔物とかまじかよ! 悪いけど俺は逃げるわ!』


「あ! ちょっと!」


 魔物が現れたとわかると、鳥は俺の静止の声が出る前にバサバサと空へと飛んで行ってしまった。


 話しの続きを聞きたかったというのに。全く、こんないいタイミングで邪魔をしてくれた迷惑な魔物とは一体何だ!


「冒険者さん! お願いします!」


 商人の声を合図にして、この馬車の護衛である冒険者達が後方の馬車から武器を手にし、ぞろぞろと飛び出した。


 俺も気になったので馬車から下り、はた迷惑な魔物の姿を拝む。


 俺達の前に現れたのは。


「こ、こいつはサーベルタイガーじゃねえか!?」


 しつこい事で有名なサーベルタイガーだった。






 ×       ×       ×



 ギリオンからの手紙


 返信の手紙はありません。



 ×      ×      ×


 クレアからギリオンへの手紙


 近況報告の一つでもしたらどうなのよ! ジェド君を見習いなさい!





すいません。少し花粉症になってダルくて。

少し更新が遅れております。

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